托卵師

サティスファクションセンター(第1話)

眞山大知

小説

22,928文字

托卵――妻が不倫相手ともうけた子を夫の子と騙して生み育てること。その手伝いをする職業が托卵師だ。
医学部を中退した夏樹は、生まれ育った豊洲で友人の佐田に誘われ、「クックーエッグ」という托卵師グループのメンバーになった。タワマンの林立する豊洲で夏樹は憎しみに燃える――幸福で金のあるタワマンの住人が許せない。不幸のどん底に叩き落としたい。
令和日本の階級社会を描く社会派暴力小説!

明日香の家へ行く。廊下には高さ五十センチほどの大きい花瓶があった。その花瓶に挿された葵の花はひどく赤く、不気味だった。ダイニングキッチンのテーブルで待っていると、明日香が紅茶を出してきた。

リビングからカラカラと乾いた音がした。

「ハムスターが起き出しちゃった。うるさくてごめんね。桜がどうしても買いたいっていうから」

明日香は申し訳なさそうに言うと、再び言葉を続けた。

「桜を特別支援学級に入れようと思ってるの」

「……は?」

突然すぎて話が分からなかった。

「担任の先生から行けって言われた。もう四年生なのに、九九が半分もできないのよ。これってなんかの病気だよ」

「明日香さ、それは違うでしょ。単に勉強の仕方が悪いとかじゃないの」

2024年6月11日公開

作品集『サティスファクションセンター』第1話 (全2話)

サティスファクションセンター

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© 2024 眞山大知

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