托卵師

サティスファクションセンター(第1話)

眞山大知

小説

22,928文字

托卵――妻が不倫相手ともうけた子を夫の子と騙して生み育てること。その手伝いをする職業が托卵師だ。
医学部を中退した夏樹は、生まれ育った豊洲で友人の佐田に誘われ、「クックーエッグ」という托卵師グループのメンバーになった。タワマンの林立する豊洲で夏樹は憎しみに燃える――幸福で金のあるタワマンの住人が許せない。不幸のどん底に叩き落としたい。
令和日本の階級社会を描く社会派暴力小説!

 

*     *     *

 

 

目を覚ます。手を伸ばしてスマホの画面をつけると明日香から、メッセージが届いていた。急いで支度をして、豊洲四丁目アパートを出た。

晴海通りを渡ってレジデンスタワー豊洲Ⅰに到着。人工の小さな川にかかる橋を渡って、玄関のオートロックの扉を合鍵であける。エントランスへ入ると、広々としたラウンジの床には大理石が敷かれていて、その中央にはベヒシュタインの黒く輝くグランドピアノが置いてあった。ホテルの受付のようなスペースにはコンシェルジュの女がいて、耳に真珠のリングをつけ、玉虫色のスカーフを首に巻き、わざとらしく貼り付けたような笑顔を振りまいていた。

このタワマンの公式サイトを覗いたことがある。「東京を、制するレジデンス」というポエムとともに、ホテルライクな内装を自慢していた。

2024年6月11日公開

作品集『サティスファクションセンター』第1話 (全2話)

サティスファクションセンター

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© 2024 眞山大知

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