有楽町線豊洲駅から徒歩五分。地上四十五階、地下一階、高さ一六〇メートル、総戸数一千戸。大型超高層マンション・レジデンスタワー豊洲Ⅰのエレベーターに乗れるのは客に呼ばれるときと、帰るときだけだ。
全面ガラス張り構造のエレベーターが下降。仕事用の、黒猫のようなファーのジャケットを着こんで、マッシュカットの髪を丁寧にかきあげる。
階数表示の液晶パネルへ目をやる。三十階、江東区役所職員の千紗。商社勤務の夫が分譲マンションの開発を任されジャカルタへ単身赴任。千紗は寒々しくがらんどうの部屋へ呼んできた。そのまま騎乗位で犯された。千紗の目は兎のように赤く血走っていた。妊娠させた子はもちろん男の子。数日前の昼、豊洲公園の芝生でベビーカーを押す千紗と会った。ベビーカーのなかの子どもは千紗にそっくりの顔をしていた。
エレベーターがさらに下降。二十五階の茜は沼津出身の薬剤師。夫が接待ゴルフで河口湖へ行った夜に鶯谷のホテルで孕ませた。再来月にも出産予定だという。
妊娠させた客の顔が脳裏に浮かんでは階数が変わると、すぐ別の顔に変わった。
「そういえば、夏樹くんってどんな花が好き?」
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