托卵師

サティスファクションセンター(第1話)

眞山大知

小説

22,914文字

托卵――妻が不倫相手ともうけた子を夫の子と騙して生み育てること。その手伝いをする職業が托卵師だ。
医学部を中退した夏樹は、生まれ育った豊洲で友人の佐田に誘われ、「クックーエッグ」という托卵師グループのメンバーになった。タワマンの林立する豊洲で夏樹は憎しみに燃える――幸福で金のあるタワマンの住人が許せない。不幸のどん底に叩き落としたい。
令和日本の階級社会を描く社会派暴力小説!

すでに空は闇に包まれていて、東陽公園脇のコインパーキングにはアストンマーティンが、艶めかしいフォルムを見せつけるように停まっていた。

「責任を持って、桜を返していかなきゃ。私人逮捕ってやつ? 俺、やってみたかったんだよね」

佐田はポケットからなにかを取り出すと手首へ巻きつけてきた。白くて硬いプラスチック――結束バンドだった。

「こういうことって法的にアウトだろ」

「はあ? どの口が言っているんだよ。それにな、俺より給料の低い警官の言うことなんて聞きたくねえよ。なんで日本の警官って金で買収できねえんだろ。おかしいだろ」

佐田は尻を蹴りあげた。痛みが走る。

「お前ら、さっさと座れ」

助手席に座らされた。綺羅と桜は後部座席に座った。桜のシクシク泣く声が響いた。佐田は車を離れると精算機に向かい、財布を取り出した。

「綺羅、これってお前の本心?」

こっそり綺羅に聞く。綺羅は微かに「違う」と声を出して、ただ下をうつむいていた。

「佐田は稼ぎがいいから、お前と子どもにじゃぶじゃぶ金を使ってくれる。ああ、そういえば、客に送るはずだった精子、ポケットに入っているんだよね」

結束バンドのついた腕でファージャケットの右ポケットを叩いた。

2024年6月11日公開

作品集『サティスファクションセンター』第1話 (全2話)

サティスファクションセンター

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© 2024 眞山大知

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