すでに空は闇に包まれていて、東陽公園脇のコインパーキングにはアストンマーティンが、艶めかしいフォルムを見せつけるように停まっていた。
「責任を持って、桜を返していかなきゃ。私人逮捕ってやつ? 俺、やってみたかったんだよね」
佐田はポケットからなにかを取り出すと手首へ巻きつけてきた。白くて硬いプラスチック――結束バンドだった。
「こういうことって法的にアウトだろ」
「はあ? どの口が言っているんだよ。それにな、俺より給料の低い警官の言うことなんて聞きたくねえよ。なんで日本の警官って金で買収できねえんだろ。おかしいだろ」
佐田は尻を蹴りあげた。痛みが走る。
「お前ら、さっさと座れ」
助手席に座らされた。綺羅と桜は後部座席に座った。桜のシクシク泣く声が響いた。佐田は車を離れると精算機に向かい、財布を取り出した。
「綺羅、これってお前の本心?」
こっそり綺羅に聞く。綺羅は微かに「違う」と声を出して、ただ下をうつむいていた。
「佐田は稼ぎがいいから、お前と子どもにじゃぶじゃぶ金を使ってくれる。ああ、そういえば、客に送るはずだった精子、ポケットに入っているんだよね」
結束バンドのついた腕でファージャケットの右ポケットを叩いた。
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