托卵師

サティスファクションセンター(第1話)

眞山大知

小説

22,914文字

托卵――妻が不倫相手ともうけた子を夫の子と騙して生み育てること。その手伝いをする職業が托卵師だ。
医学部を中退した夏樹は、生まれ育った豊洲で友人の佐田に誘われ、「クックーエッグ」という托卵師グループのメンバーになった。タワマンの林立する豊洲で夏樹は憎しみに燃える――幸福で金のあるタワマンの住人が許せない。不幸のどん底に叩き落としたい。
令和日本の階級社会を描く社会派暴力小説!

一二月二十四日、クリスマスイブ。誘拐の決行日。住宅のクローゼットの奥から高校の制服を取り出した。アッシュグレイのウィッグをかぶり、マスクをして変装する。姿見で全身を確認。どこからどう見ても高校生にしか見えない。

そのままダイニングキッチンへ行くと、父がテーブルに突っ伏して寝ていた。干からびたように枯れた顔には、サンタのあごひげをつけていたのだろうか、ゴムの跡がくっきり残っていた。父へ向かって心のなかで謝った。

ボストンバッグを持って家を出る。階段を降り、四丁目公園を突っ切って、昼の誰もいない飲み屋街を抜けると晴海通りに出る。少し歩くとSAPIXの前に着いた。

サピックスの玄関には監獄のように鉄の扉がつけられていた。じっと待っているとその扉が開き、桜がぽつんとひとりだけ出てきた。

「桜ちゃん、元気?」

「………どうしたんですか」

「桜ちゃんさ、お母さんって好き?」

桜はうす黙った。

2024年6月11日公開

作品集『サティスファクションセンター』第1話 (全2話)

サティスファクションセンター

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© 2024 眞山大知

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