私の女性恐怖症はまだまともですが、もしそれが憐れだと言うなら、この小説の主人公と共に私を笑ってください。
山雪翔太
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序文
最初に、この手記を拾って下さった方に感謝を申し上げます。貴方は駅のホーム、それも人身事故が起こったホームでこれを拾い、混乱している事かと思います。ですが一度落ち着き、この手記を読んで下さい。この手記は私の唯一の痕跡です。どうか破り捨てる等せず、最後まで読んで下さい。身勝手で すみません。
そして読み終えた時、確実に処分出来る方法でこの手記を処分してください。そして全てを終わりにしてください。お願いします。
一
私の困った性格(この場合は精神病と言うべきかもしれません)を教えようと思います。
私は早くに父親に出ていかれ、姉と母親の三人で暮らしていました。別にその生活を怨んでいるという訳ではありません。むしろ私は女手一つで私と姉を育ててくれた母親に感謝しています。
ですが弟という物はいつだって弱い物です。勿論世の中には立場が上な弟も存在するでしょう。ですが私は出ていった父から受け継いだひ弱で軟弱で気弱で脆弱な性格が祟り、散々二人から罵声を浴びせられました。
二
中学卒業間近、という所で私は気付いたのです。私は生きるのが下手糞でした。
何かとする事成す事が空回りし、私に牙を剥きます。これは私が前世で何か悪い事をした罰なのでしょう。
普通の人に出来る事が私には出来ません。普通の人に出来ない事は私にも出来ません。私が一生懸命に努力して成し遂げた事を、普通の人は朝飯前といった調子でこなすのです。
私に個性を求める人に言いましょう。私の個性は出来ない事です。
そんな能無しを育てていれば、母親、姉といえども罵声を浴びせたくなるのは当然でしょう。
ですがそんな生活のせいで私はもう一つ困った個性を手にしました。私は女性に恐怖を抱く様になったのです。
三
高等学校に入学した辺りから、その事に気付きました。私が芥川龍之介を読んでいる時、隣の席の女子がぬうっとこちらに顔を寄せてくるのです。
その女子の私に対しての期待の眼差しを受け取ると、私の心臓は次第に高鳴り始めます。
それは所謂恋心の様な甘い物ではありません。れっきとした恐怖です。
ここからは私の中の話になります。私はどんな性格の女子でも、どんな顔の女子でも関係無く、近付かれると恐怖を感じるのです。(私が現実の女性を直視せず、インターネットの中の女性ばかりを見ていたからかもしれません。その女性は所詮偶像です)
そんな性格をしているので、私は自ら女子に近付く事はありません。ですがそれだけなら私は死のうとは思わなかったでしょう。
私の顔についてです。
四
私の顔は男の友達に「イケメン」とよく言われます。私は一度も自らを美形だと感じた事はありませんが、皆がそう言うのなら私は美形なのでしょう。
最悪なのが、その美形のせいで女子に懐かれる事です。(まるで犬扱いですね)
何度も、こう思いました。
私は生まれつき不幸を背負っていたのです。母胎から誕生し、助産師に抱かれた時から。
そうでなければ私は何故ここまで不幸なのですか?
一つ言える事は、失敗品は弾かれるという事です。
五
私は自らの美形のせいで悪魔を呼び寄せています。女子は悪魔です。
女子は胸に爆弾を仕込んでいます。見知らぬ者がそれに触れるとドカンと爆発するのです。女子と知り合い、何とか恋愛関係まで持ち込めた者のみがその爆弾を解除出来ます。
しかも厄介な事に女子はそれを乱雑に扱うので、電車内なので容易にその爆弾に触れる事が出来るのです。勿論その爆弾に触れた者は社会的に爆破されます。
それに加え私は女子同士の騒がしい会話という物がどうしても苦手です。
あの甲高いどんな楽器にも出せない様な耳に響く声を聞くと、私は言い様の無い不安感に落とされます。
もしかするとあの女子達は私の事を噂しているのではないか。私のこの軟弱な性格を見抜き嘲笑っているのではないか。そう思うと震えが止まらないのです。
しかしこれは私の問題です。あの女子達のせいではありません。それだけは言っておきます。
六
今思えば、私は生きる事に向いていなかったのでしょう。女性なんて、全人口の半分を占めているのですから、私はこのままだとこれから会う人間の半数に恐怖していかなくてはいけません。
そんな事なら、いっそ失敗品である私が弾かれた方が良いとは思いませんか? だから私は何かの用事で何処かに向かおうとし、そしてその為に電車を待っていた、貴方の前で通過列車に飛び込んだのです。
迷惑をかけて申し訳ないです。本当にごめんなさい。
これから私の母と姉には多額の賠償金が課される事でしょう。ですがそれを気の毒とは思いません。私を女性恐怖症にしたあの二人へのせめてもの仕返しです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。身勝手ですが、私の行く末が幸せである事を祈って下さい。
私も貴方が幸せな人生を歩む事を祈っています。
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