アボカド農園の娘からのDM

合評会2023年01月応募作品

わく

小説

3,028文字

 合評会参加できません。(書き忘れていました。これを書く前に読んでコメント頂いた方は申し訳ありません)
合評会も参加できませんし、長編にトライしたいので、それが書き終えられそうな四年後くらいに、また破滅派に戻ってきたいと思います。その時は仕事も落ち着くかと思うので合評会にぜひ参加したいです。

このDMをいきなり送り付けられた人の日常を後に書くつもりでしたが、締切までに書ききれませんでした…
 

突然、こんなメッセージを送って、あなたに驚かれてしまうことを私はとても恐れています。それでも、私は、あなたが日本に実在しているのだと知って、いてもたってもいられなくなってしまったのです。私の愚かさを許してください。

翻訳ソフトを使った読みにくい文章で、あなたに迷惑をかけてしまいます。しかし、これ以上あなたに迷惑をかけないように、それに学校でいつも先生に言われるように、私は結論から書きたいと思います。私があなたにメッセージを送ったのは、『××騎士団』という名の地元の麻薬カルテルを壊滅するようにお願いしたかったからです。

私の家族はアボカド農園を持っていました。私の産まれる前にはアボカド農園なんて周りには全くなかったようでしたが、大叔父が友人達とはじめると、すぐに広がりました。祖父の反対で父はトマトを作り続けていましたが、祖父が亡くなると父もトマトの生産を縮小し、大叔父の力を借りて、アボカドの生産を拡大させました。アボカドのおかげで、ようやく私たちの家でも一人一台のスマートフォンが持てるようになったのです。けれど、その頃にはもうマフィアが近くの村のアボカド農園から『関税』と言って、みかじめ料をとるようになっていました。村で率先してアボカドの栽培普及につとめた大叔父が、今度も率先して自警団を作って、抵抗することにしました。それから、すぐ大叔父の浅黒くて皺の多い片腕だけがアボカド農園の敷地内で見つかりました。こんなことを書くのも恐ろしいのですが、(これから先に書くことは恐ろしいことばかりで、勇気を振り絞ってあえて書くのです)実際のところ、片腕は腐敗が進んでいたので、筋が絡まるようにできた結婚指輪さえなければ大叔父のものだとは誰も分かりはしませんでした。

 

祖母は言った。

「お祖父さんが生きていたらなんて言ったろうね」

その言葉を聞くと、私には祖父の声がほとんど耳元で囁かれるかのように、聞こえてきた。

「トマトを作ってるほうがいいんだ」

祖父はいつも消極的に反対するだけだった。従兄弟のミゲルが奨学金を得て大学へ進学するときも、再従兄弟のペドロが自動車修理工場に就職するときも、なんだって祖父は静かに反対した。そして、ミゲルがデモに参加した後、市長の雇ったマフィアに殺されたときも、ペドロがマフィアの一人のものとも知らずにバイクを盗んだ後に殺されたときも、祖父は「トマトを作ってるほうがいいんだ」とつぶやくだけだった。

大叔父が殺されると、自警団のうちで戦いを続けようとするのは父だけとなった。大叔父が殺されてすぐに自警団は半ば解散して、村では麻薬カルテルについては誰も何も話さなくなった。父だけは例外だった。父は、カルテルにみかじめ料など払ってはいけないと説得しようとしたが、無駄だった。村人には、飼い犬を全頭惨殺されたり、小屋を焼かれたりした人もいて、もう誰も反抗する気力を失っていた。大叔父が殺されてから、三ヶ月たって父が消えた。祖母はカルテルについて、まるで火山噴火のような自然災害と同じように考えていた。そして死後の魂の行き場についても母とは違う考えを持っていた。だから、祖母は父の腕がどこに消えたのかを必死で探した。昔ながらのつて、それになかば呪術的と思える直感で祖母は腕を探そうとした。父が消えて一ヶ月後、隣村の山の入口の不法投棄所で、祖母は片腕を見つけた。大叔父のものと同じように腐敗の進んだこの腕のうえでは、見たことのない悪魔のタトゥーがただれていた。そして次から次へと、他人の腕や脚が出てきはしたが、父のものは決してなかった。

 

母は言った。

「お父さんが喧嘩で負けたことがあるかい?」

祖母も含め、誰も母に何も言わなかった。母はまず警察に捜索願を出すことにした。警察で母は三時間待たされた上にこう言われた。

「あなたの旦那は、犯罪に関わっていたようだから、無駄だよ。捜索願なんか出さない方がいい」

「犯罪に関わってたんなら、なおさらあんたたちが探しださなきゃならないだろ!」

母が声を荒げても、警官は冷淡だった。

「奥さん、この国に犯罪者がどれだけいると思ってるんだい?」

「あんたもだよ!」

 

それは母の言う通りでした。この国では警察ですらたくさんの罪を犯しているからです。次に母が頼ったのは海軍でした。カルテルと本当に闘うことができるのは海軍だけなのです。メキシコでは陸軍相がカルテルのトップであったとして逮捕されたこともあったので、もしかしたら海軍相もカルテルのトップかもしれません。それでも海軍は信用できないわけではないのです。校長先生が悪党だからといって、必ずしも学校の授業で悪事を教わるわけではないのと同じことです。カルテルに家族を殺された若者が復讐をしようと思ったときは海軍に入るものです。

 

ペドロの弟のフアンは、兄が殺されてからふさぎがちだったのに、軍服姿の動画のなかだけでは、仲間にいたずらをされて、はしゃぎ回って笑っていた。

「殺してやる! 殺してやるよ!」

 

母が向かったのは町の海軍の事務所だった。そこは徴兵のための事務所であったにしても、少佐以上の階級の人と会えるのは近隣では唯一ここだけだった。当然、母は門前払いされたが、母は事務所の前に居座り続けた。丸一日たって、母は通りで泣き崩れた。それは街中に響く大声だった。ちょうどその時、双子の赤ん坊が大声で泣いていたのだが、それよりもはるかに大きな声だったので、人々の話声や車のエンジン音を全てかき消した。それが一時間も続いた。事務所の前では、母に声をかけたり、ただ見物する人で、人だかりができたので、ようやく母は少佐と面会できた。

見せかけだけだったにしても、母よりもずっと若い少佐は都会育ちのような小綺麗さと品の良さがありつつも、同時に田舎育ちの人のように全く疑う様子などみせることなく、じっくり母の話を聞いた。母が話し終えると、少佐は母のことをただ抱きしめて、落ち着いた低い声でこう言った。

「この種の情報もあります。カルテルはアボカド栽培に精通した者を誘拐していると。というのも、カルテルは農薬を使わせすぎて、逆に今では生産量が落ちてしまっているらしいのです。生産量が落ちた土地でご主人は栽培指導を強要されてるのかもしれません」

この話は、物語のようにも聞こえた。けれどそれは、少佐の最高の誠意と優しさだったのかもしれない。母は少佐の物語に飛びついた。文字通り、母は少佐にもう一度飛びつき、紳士的な少佐が片耳をふさぐほど大きな泣き声をあげて、町を後にしたのだった。

 

「トマトだってアボカドだってお父さんくらいうまくつくれる人はいないんだよ」

母は家で、三日に一度はそう言います。海軍が父を救出すると母が信じているのか分かりませんが、誰もそんなことを母に確認などできません。祖母は時折、何日か家を外して、父の腕を探しに行きます。そして、私の夢の中では、父は昔ながらのトマト農園で黙々と働いています。けれど、私はアボカドを作る前に戻りたいわけではありません。私が男だったら、フアンのように海軍に入るところですが、それもできません。私が唯一できることは、あなたに助けを求めることだけでした。他にも困っている方は世界中に大勢いることは分かっています。それでも、私にできることはこれだけなのです。どうか分かってください。

 

2023年1月22日公開

© 2023 わく

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"アボカド農園の娘からのDM"へのコメント 13

  • 投稿者 | 2023-01-23 05:55

    野暮な自作にさらに野暮な解説になってしまうかもしれませんが、一応参考に書いておきます。

    『陸軍相』と文中あるのは、メキシコで正しく言えば『国防大臣』となるそうです。
    『国防大臣』とすると、一般的には海軍も含むものと考えられますが、
    メキシコでの『国防大臣』は陸軍と空軍の管轄だそうです。
    分かりやすくするために、あえて『陸軍相』としました。

    この逮捕された国防大臣については、NYTimesの記事がとても示唆にあふれてそうであります。(英語力不足で、私はあまり読めていませんが…)
    https://www.nytimes.com/2022/12/08/magazine/mexico-general-cienfuegos.html

    著者
  • 投稿者 | 2023-01-24 20:13

    壮大な話。日本にいる「あなた」とどう結びつくのか知りたくなった。

  • 投稿者 | 2023-01-25 13:38

    読んでいて、佐藤究の「テスカトリポカ」の冒頭を思い出しました。麻薬カルテル怖い。フィクションが追いつかないくらいに悪が横行している。

    手紙の文面のですます調から、途中文体が変わるのは、モノローグ→リアルタイムで進行する映像→モノローグのような効果を狙ったものだと思いますが、今の段階では効果よりも違和感の方が大きく感じました。
    でもモノローグで人の動作を描写するのって冗長になったりするし、難しいですね。もっと尺が長ければバシッとハマるかも知れませんね。

  • 投稿者 | 2023-01-27 16:04

    アボカドって結構お金になる上、地域の土壌の栄養を吸いまくるから、わりと生産国で社会問題になってると何かで読んだことありますが、こいつは事件のにおいがしますね…

  • 投稿者 | 2023-01-27 17:37

    電車のドアの上の所に貼ってある、ダイキンの宣伝ポスターに、https://toyokeizai.net/articles/-/593729?utm_campaign=ADdaikin_kuki221020&utm_source=adSmartNews&utm_medium=display&utm_content=1
    っていうのがあるんですけども、それの事を思い出しました。面白かったです。

  • 投稿者 | 2023-01-28 05:26

    麻薬組織が出てくる作品が多いなと思ったら、社会問題になっていたんですね。不勉強でした。
    送り先の日本人がカルテルの壊滅に、どう繋がるのか続きが気になります。

  • 編集者 | 2023-01-28 18:31

    メキシコで高級腕時計をはめた左手を運転席からだしていたら、バイクに乗った強盗が腕ごと切り落として持っていくという噂を聞いた時の衝撃がよみがえります。アボカド戦争、もう起こりつつあるんですね。

  • 投稿者 | 2023-01-28 23:37

    やはり当初の構想にあった、この手紙を受け取った日本人の話がなくては未完の印象が拭えず残念です。梗概だけでも知りたく思います。

    えええ、そんな! 今回もアボカド農園で被りましたが、こないだもおちんちんネタ、さらに前には射精ネタで被ったりと、わくさんには迷惑至極な話でしょうが自分はきっと思考が近いのだと思って勝手に親近感を抱いておりました。それは寂しいです。いろんな話を聞きたかったです。

  • 投稿者 | 2023-01-29 12:51

    わくさん、長編を手掛けられるということですが、長編の合間に短編を書いてみるのも頭と気分の切替になるし、一人で書いていては煮詰まると思うので、気が向いた時で良いので合評会にはご参加ください。

    アボカドがそんな罪深い農業生産物とも知らず、サラダに重宝だと喜んでいた自分が恥ずかしいです。作品自体は大きな物語の一部を切り取ったように見えて読後に欲求不満が残ります。田舎の年寄りのセリフがなんだかボルヘスみたいで、雰囲気はとても良いです。

  • 投稿者 | 2023-01-30 02:35

    実話に基づいての話なんですね。
    重々しいです。自分はこんなハードボイルドな作品を書けないのですごいな、と羨ましいです。
    そしてこの話を切実に伝えられた「あなた」が一体何者なのかもめちゃくちゃ気になります。
    また破滅派に戻ってこられるのを待ってます。

  • 投稿者 | 2023-01-30 11:50

    お帰りをお待ちしております

  • 投稿者 | 2023-01-30 14:14

    骨格がしっかりしているだけに途中で終わっているのが残念です。手紙の送り先が気になります。合評会に参加されるときはよろしく願いします。

  • 投稿者 | 2023-01-30 15:28

    この作品自体がDMの全文だとするといかにも手紙っぽい部分とちょっと手紙っぽくない部分が混在していて、読みながら少し迷ってしまいました。DMならば臨場感を抑えて、全体のトーンを薄めないとそれっぽく見えないと思います。内容自体はいかにも中南米だとそんなことがあるだろうなという事件が自然に描写されていて、すんなり入ってきます。ただそれだけだと「よくある話」で終わってしまうので、やはり当初の筆者の構想どおり、受け取った側の日常と絡めていくと、まったく別次元の作品に化けると思います。完成版を読んでみたい。

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