濁流の独房。

巣居けけ

小説

2,020文字

望遠鏡で完成された灯台を見た時、騒がしい波に脳が浮かんでいるのが目撃できた。私が浮かんでいる人魚の一人に問いただすと、彼はひっきりなしに、「脳です」とだけを告げてくる。私はいつものガソリン代を彼に投げることを思い出して、ウエイトレスに防弾チョッキを連絡させる。

そして夕日の色を性器の先端に接合させたおれは、ゲイのふりをしている彼女の、うなぎかニホンザルのような香りの漂うただ二本の髭に狙いを定めて、コモドのトカゲのようなねっちこい唾液を垂らす。すでにどんなキノコよりも巨大なおれの性器は、おれが右手でこすらなくても快感を得ていて、唾液が床に落ちるまでの三秒間に強烈で巨大な射精を開始する。粘っこいアーチを描きながら、新一年生の挙手のような勢いで飛ぶ精液は、青臭さと共に彼女の髭に付着して、彼女の化粧と虹色の同性愛を引き剥がす。おれはすぐに両耳を素手でふさいだ。そして神社の裏で性行為をしている甥と叔父の顔と尻の穴を思い出した。蛇が死ぬ音が調理され、ハエが乗ったピザとして、おれのピアスだらけの耳に波のようにやってくる。おれはそれを最低限の力で防ぐ必要がある。五秒間の悲鳴の後、彼女の紫色の唇にキッスをしてから、風俗の嬢さまのような舌使いで紫色を舐め取ってやる。彼女はホームセンターでよく見かける女児のような声で鳴いている。おれはその頬にさらに舌を乗せて、彼女の汗と自分の唾液が合わさっていくのを楽しむ。彼女はやはり新車のエンジンのような屁をくりだす。

よくわからない白い錠剤を毎日五時に飲んでいる彼女は、こうしてやるだけでこたつと湯呑で入れた茶が好きな老人のように落ち着いて、自然とおれの性器を擦ってくれる。
「次は、何をすればいいの?」人質の彼女はおれに上目遣いをしている。おれはそんな瞳のあからさまな奉仕精神が気に食わなくなったので、一度だけ彼女の殴り慣れた右頬にストレートをくれてやると、そのままデパート隅にある携帯電話ショップの入り口付近に直立している七三分けの店員のような声で、壊れかけのイヤホンのノイズを演出する。「……だからっ……さ、さっさとしろ……ええ」
「全くわからないわ」

宇宙の瞳の中だけに人工知能が映って貫く。自分の瞼を閉じてみると、そのたびにドラムロールが流れて百足に成る。足元の痒みと共に、彼女が囚人服に着替えている……。「おれはあのしましま模様じゃないと抱けないぞ……。カボチャのコスプレは効かないし……」

 

「お前はもうクールになれないよ」
「薬剤師の真似なら、もうやめておいたほうが良い。老老介護だって、疲れてしまうだろう?」必殺のマンホール男が、女薬剤師が使っていた錠剤の蓋の裏を舐めている。ポケットからスマートフォンの欠片を取り出して、残りが三分の一であることを高らかに告げる。駅員の真似で、女子高生のふけをフォークに変換できないものかと考えてパンクする。「脳がコロッケになっているよ」

おれは密かにパンティ・バーに向かうふりだけで日銭を呼ぶ……。

 

「おれたちは船乗り市場でマグロの肩を購入したんだ」
「それから叫んだのか? 海外の女みたいに?」道化師見習いの赤スーツを真似て、右肩を突き出した直立を続けている二刀流の義足バーテンダーが、酩酊の臭い辛い街の一番を気取って、三千円分のテレホンカードの新聞紙を鼻に詰める芸をやる。客の全てが歓迎し、調子を良くしたバーテンダーが全ての酒をタダにしてしまう。翌日に市役所職員が現れて、タダ酒を呑んだ全ての山羊に精液付きの手錠をかける……。

女児の垢が眼窩から出てきて、最新作のウイスキー・アイスボールに降りかかる。独房の中で簡易的な居酒屋をやっている彼は、自分が子供であると思い込む。「オモチャ売り場に無いものは知らないよ」
「あんたは赤子じゃないだろう?」
「おれの口は紫だぞ?」授業中の中学生のようなひそひそ声。

おれはバーテンダーだった彼女に再度口付けを行う……。蛸の吸盤よりも真空のキッスは、バーテンダーの身体から血液を固まらせるために必要な全てを的確に奪い去る。「おれは他人の感情と、堪忍袋の緒がどれくらいで切れてしまうのかを傍観できるんだ……」

 

月について考える時、必ず戦果を挙げた血まみれ将軍のような声が聞こえる。カルーアミルクのような声。反響しつつも実体のある声。気温の高い真夜中のトンネルをただ一人で歩いているような感覚になる。鼓膜を教室と認定した職員の人相が、挫折を繰り返すろくろ首のように道を歩いている。首でうどんを創り、村の一部のタヌキと、タヌキが食らう大腸に付いている歯型が電車のように左右に騒ぐ。クラブと試験管の婚約を見届けてから、背中の歌を彼女に呑ませる。

紫いろの髪と、黄金色の瞳の彼女。食事に薔薇の花束を与えて、猫の死骸をベッドにする低身長の可憐な彼女。手錠に精液を吹きつけて、熱した油を湯舟に入れておく。彼女が揚がる音が聞こえる……。おれは静かに戦果を挙げて、心臓の中で茶を飲んでいる将軍に、土下座をしながら報告を繰り返す。
「お前はコルトパイソンでこめかみを撃ちぬいて、赤い穴を撫でることができるか?」

店長の号令によって、おれはすぐに手元のピースメーカーで右こめかみを狙い撃つ……。

2022年2月25日公開

© 2022 巣居けけ

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