右の奥歯がいたみだして二週間が経ち、ぼくはおもいこしをあげた。
歯科医院えらびはなやまなかった。家からもっともちかいところにきめた。どこにいこうとも、ふだんの歯みがきのいたらなさをなじられ、そう言っても、けっきょくはあっけなく治療をおえることがわかっているからだ。
金曜日のひるやすみに電話で予約した。翌日の十二時半にきまった。
歯科医院にいくのはじつに十年ぶりだ。高校二年生からいままで歯にさしたるふちょうがなかったのは、よろこぶべきことであるが、いざいたみだすと、十年間の感謝などわきおこるはずもなく、なんとはなく世界をうらむきもちがふくれていった。
午後からのしごとが手につかない。もとより金曜日は倦怠感と解放感の萌芽のせいでうわついたここちになりがちだが、つぎの日によからぬ予定がはいったことで、さっさと家にかえってねむってしまいたくなった。
「あした歯医者いれたんだよ」
と、となりの席の岩城さんに言った。
「わたしも来週、おやしらずをぬいてもらいにいきますよ」
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