新宿

青春放浪(第1話)

消雲堂

小説

938文字

若い頃・・・25歳だったかなぁ?池袋西武百貨店の販売員を辞めてマスコミで働きたいと思って、いくつかの業界紙(誌)編集部の面接を受けたが、採用してくれる会社はなかった。

 

そんなときに僕を採用してくれた業界誌が1社だけあった。「ナイトタイムス」という風俗誌だった。

 

ちょうどノーパン喫茶なんかが流行った時期で、そこの名物編集長が深夜番組に出演したりして有名になった雑誌だった。

新聞に求人広告が載っていて、何も考えずに編集部に連絡すると「履歴書持って明日、面接に来い」と言うので、翌日、新宿区役所の裏にあった編集部まで出かけた。

 

面接試験でいきなり「お前、声がいいから合格」って当時の強面社長に言われて翌日から働き出した。編集部で採用されたのは僕だけだった。初日は「研修だ」って言われて、営業に採用された3~4人と一緒にゾロゾロと新宿のノーパン喫茶や危なそうな風俗店に連れて行かれた。深夜なので眠気も加わってぐるぐる回るネオンや美しい女性の裸体やお客のタバコの紫煙に覚醒して、まるで夢を見ているような一夜を明かした。

 

翌日は吉原のソープランドに「取材だ!」って連れて行かれて、いきなり全裸になった”女性勤労者さん”にドキドキして露出を失敗して真っ暗な写真になって怒られた。よく考えたら、家に帰っていない。帰れないのかな?と思っていたら「川口の印刷所まで原稿届けて来い」と大きな袋を持たされて電車で川口の印刷所に行った。

 

川口から帰ってきて「帰れないんですか?」って、編集古参に蚊が鳴くような小声で聞いたら「帰れなくていいじゃん。今日はここで寝れば」と連れて行かれたのがマンションの1室で、中はうす暗く、何人かがベッドで寝ていた。

 

「こりゃたまらない。逃げよう」と思って、「すいません。家の洗濯物を取り込んでないんでちょっとだけ帰ってもいいですか?」って編集古参に言ったら「いいよ」って言うんで、新宿からロフトの前を通って上落合の自宅まで歩いて帰った。

 

自宅に着いたら雪が降ってきて、しばらく迷ったあとに編集部に電話をかけ「すみません。ぼくには勤まらないので、このまま辞めさせてください」と本気で泣きながら伝えた。

2012年11月13日公開

作品集『青春放浪』第1話 (全9話)

© 2012 消雲堂

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