Adan #71

Adan(第71話)

eyck

小説

918文字

ワタキミ的アイスバーグ作戦〈19〉

ワタキミちゃんに目をやると彼女は手のひらを上にして指を動かすジェスチャーをカラムさんにむかってやっていた。僕にはワタキミちゃんのその“COME ON!”ってジェスチャーがカラムさんに対してやっているというよりも「世界」に対してやってるように見えたなあ。

 

カラムさんはワタキミちゃんに(というより世界にむかって?)銀色の前歯を見せたあと客席を見渡していた。で、ややあってカラムさんはこっちを指さしてさ――うん、つまり僕を指さしてこんな発言をしたんだリズムにのって。音符なしで書くね♪

 

「あそこにいるスーツめがねチビぶさいく太っちょを見ろ。あいつはこの小娘のマネージャーだ、マネージャー! ヘイ小娘、バレないとでも思ったのか。今から防空壕に走ってももうおそいぜ。聞いてくれ兄弟、あの太っちょは荻堂亜加利の息子だ。そう、アメリカと寝た女、全身整形クソババアの息子! あのクソババアのインスタ見てみろ。あそこにいる太っちょ小僧がたびたび登場してるぜ。荻堂亜加利を知らないやついないよな? 『男が戦争しなくなったらそれこそ男の存在意義はない』とイギリスBBC放送で戦争賛成を世界に堂々と宣言した女であり、アメリカ同時多発テロと東日本大震災の義援金が666円だった天下に名だたる不労所得者、それが荻堂亜加利だ。いや金額が少ないことを責めてるわけじゃないんだぜ。義援金だぞ。義援金が666ってどういう神経してんだ。それからあの息子! あいつもイカれ小僧だ。高級外車を乗りまわし旅行と酒とギャンブル三昧で遊び呆けてるともっぱらの噂だ。そんなやつが! そんなやつがこの小娘のマネージャーをやっている! さあ兄弟たち、この意味が分かるか? 荻堂亜加利の息子が基地反対を訴えてるこの小娘のマネジメントをしている、この意味が!」

 

君は不思議に思うかもしれないけどさ、僕はカラムさんのファンになった。こんな大勢の人のまえで僕のママがクレイジーだと委細かまわずそう弁じてくれて僕は喜ばしいかぎりだったんだ。スカッとしたよ。だからね、だから僕は北斗にむかってこう言ったのさ委細かまわず。

 

「彼のCDはどこで買えるのかな、できればサイン入りの」

2021年5月6日公開

作品集『Adan』第71話 (全83話)

© 2021 eyck

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