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「穴」

夢奇譚(第3話)

消雲堂

小説

685文字

「穴」

朝、歯を磨いていると、鼻の穴がムズムズする。「鼻毛が伸びたか?」と思って鏡に顔を近づけて鼻腔を広げて覗き込む。

鼻毛が長く伸びている様子はないが、鼻の奥から何かが僕を覗いているような気がした。同時に何だかコリコリとした丸っこくて固い何かが鼻の穴を蠢いている。

ティッシュを一枚抜き出して鼻をかんでみる「ふんっ!」スカッとした空気が鼻の中で空を切って、ズキンと頭が痛む。2~3回繰り返してみてティッシュを見ると何もない。

「気のせいか?」ティッシュを丸めてゴミ箱に放り込んでから、そのまま歯磨きを続ける。

シュッシュッっと前歯を念入りに磨く。やはり口を開くと真っ先に見える部分が気になるのだ。歯を磨いていると動作に合わせて軽く頭を振ることになるが、その動きと同じリズムで耳の穴の中にモゾッモゾッと何かが動く。「今度は耳かよ」と舌打ちして歯磨きを止めて耳の穴の入口を指でまさぐってみる。驚いた。

先ほどのような丸っこくて硬いものが指の先に触れた気がした。見えないからわからないが、さっき見た奴と同じイメージが頭の中を交錯する。

そいつが指先に触れるとシュッと耳の奥に引っ込んだ気がした。気持ちが悪くなった僕は歯磨きを中止して、口中に溜まった歯磨き粉を洗い流すために水を含んでうがいをしてからタオルで口元を拭いて鏡を見た。

すると、鼻の穴と耳の穴から、ゾロゾロと黒くて10センチほどの長い虫が続々と這い出てきて洗面の流しにボトボトと落ちてはシュルシュルと音をたてて流しの穴に消えていく。それが数分も続いた時に僕の中身は無くなって、皮だけになった僕のカラダはプシュっと音をたてて萎んだ。

© 2012 消雲堂 ( 2012年11月5日公開

作品集『夢奇譚』第3話 (全5話)

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