作り話

渡海 小波津

小説

526文字

少し未来のお話

作り話

 

時代は、これから先のこと。再生紙技術が進み、炭素と空気中の水蒸気から紙を構成することができる時代のことである。

静かな部屋にコピー機が一台、作動中のランプを点けて紙を排出していた。

排出トレイが満紙になると自動的に隣の台に押し流される仕組みです。だから紙が切れるまで止まらないのですが、紙の材料があれば止まることすらありませ ん。さらに最新システムを利用すれば、あなたの好きなキーワードを組み合わせて、好みの作家に似たお話が作れてしまいます。

近頃街頭では、しきりにそんな宣伝が流れている。私は一人、旧電気街を歩いていた。世の中から電気がなくならないのが私は不思議だと思った。なぜならこの世界は、とっくに終わっているからだ。

静かな部屋にコピー機が一台、紙を排出している。ギィー、シュシュシュ、ギィー、シュシュシュシュ、コピー機の横には大きな箱が置いてある。それはホース のようなものでコピー機と繋がっており、給紙ランプが点く度に箱が振動を始める。どうやら炭素を送り込んでいるらしい。箱にはその炭素の元となるそれが山 のように積み上げられている。

何もない部屋で刷り続けられるそれは羅生門を模した近代の話。その傍らで、炭素を供給するは数多の死人たち。

2012年10月24日公開

© 2012 渡海 小波津

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