東京ギガストラクチャー (二十三)

東京ギガストラクチャー(第24話)

尾見怜

小説

7,985文字

独裁者の演説というのは、エンタメとしてみればとてもいいものです。

野村が俺達の爆弾テロについて一番怒っていた。あまりにも無配慮で幼稚な行為だ、皆お前のプランに沿って行動しているんだぞ、水を差すようなことをしてくれるな、と怒鳴った。ニシキはすこし反省した素振りを見せていた。
「あんたも誘ってあげればよかったよ、楽しいよ、バカを爆弾で吹っ飛ばすのは」
俺がそう言うと野村は、
「おまえな、すこしは全体の事を考えろよ」
「そういうことは野村さんに任せるよ、俺には向いていない」
「茂山も葛野も命を捨てる覚悟で準備しているんだ、平岩さん達も全然寝ていないぞ、それにおまえやニシキを信頼している、決して俺じゃないぞ、おまえらふたりだよ、かわいそうじゃないか」野村は諭すような口調に変更した。アロハシャツを着て説教をしているのが何とも滑稽だ。
「もともと俺たちはこんなだよ、法人化したり、規律ある武装集団や研究所をまとめたって、俺とニシキは組織からは自由でありたいんだ、お前は俺に何を望んでいるんだ、ベンチャー起業家的なうさんくさいリーダーシップか、ちがうだろ、そういうものに反抗するために俺たちは集まったんだろ、あんただってそうだったはずだ、俺達は共同体のルールを作らない、ルールっていうものは最終的に春日夫妻みたいなクソ人間を生み出すんだ」
「なにもわかっていない、まがりなりにも俺たちは集団で動くんだ、ある程度の統制は必要だ」
「それがいやだと言っているんだよ、あくまで俺たちは個人だ」
「それも限度があると言っている」野村は呆れている。
「和を以て貴しとなす、は悪癖だと言っているんだ」俺は金剛の言葉を引用した。
「〇か一かの二元論は危険だよ和泉、たしかに俺も一度日本組織というものに失望した、群れで突っ走って湖で溺れ死ぬレミングスの群れだ、圧倒的な危険に対してあまりにも対応力が無い、日本人のリーダーは合成の誤謬についてなにも理解していないからな、太平洋戦争も福一の事故もそうだ、そこはおまえの絶望と一緒だよ、だからおまえに惹かれた、もしかしたらおまえが日本的な制度をぶっこわして未来を作って導いてくれるかもしれないとおもったんだ、AIより使えない人間たちを皆殺しにするのは当然だ、いずれやらなきゃいけない、でも今じゃないだろ、俺のシナリオでは金剛を国会のお飾りじゃなくて行政の中枢に座らせれば俺たちは日本でかなりの影響力を持つことができる、それまでの我慢だ、失望させないでくれよ、ここまできたじゃないか、ここまでは完璧だよ、つまらないことをしないでくれ」
「わかったよ、悪かった、すこしイライラしていたんだ」
俺は野村の話をもう聞きたくなかった。しかし野村はかまわずしゃべり続けた。
「いいか、もう日本には外貨がないんだ、戦争後に経済が減速し続けて企業に元気がないのと、アジア難民を大量に受け入れたこと、少子高齢化で税収が減っていることが原因だ、円安のせいで酷い価格で食料を輸入している、食糧事情の破たんは近い、もうすぐ飢餓が始まるんだぞ、中国から輸入し続けているギガストラクチャーの建材だって安くない、SUAのサービスも金がないからどんどんクオリティが下がっている、アルファでも外国のオペラをもう観れないよ、高くて呼べないんだ、所得が増えないからサービスを下げるやつらが近年で続出しているんだ、このままじゃ日本はエプシロンだけになってバカで貧乏なやつしかいない国になるぞ、そんな国俺は絶対にゴメンだ、止められるのは俺たちしかいないんだ、わかってくれよ」
俺は野村に対してもう何も言わないことに決めた、嫌悪感を隠せない、と思ったからだ。
ニシキも何も言わない、彼なりに気を使って言いたいことを一生懸命飲み込んでいる。
野村は俺の執務室から出ていった。
「おこられちゃったね」ニシキはばつが悪そうに笑っている。
「そうだな」
「なんかなつかしかったよ、昔もよく教師に二人でおこられた、俺たちは三十路ちかくになっても変わらないな」
「ほんとだよ」
「でも野村におこられるならいいよ、僕より頭いいし経験も豊富だしさ、アホな教師より腹は立たない、言ってることは正しいよな、日本はかなりまずい、はやくしないと」ニシキはおこられたあとのくせに爽やかな顔をしている。

でもニシキ、俺達はこれでよかったのかな、と俺は言いそうになった。
日本人なんてデフォルトになってみんな餓死すればいいんじゃないか、そんなことを言ってしまったら、ニシキはおこるだろう。何を言ってんだ和泉、いいから俺に宝生を早く殺させろ、ギガストラクチャーを爆破させろ……
俺は無性にアオイに会いたくなった。

九月四日、平岩は原発テロの準備と同時並行で自らの研究所で得たバイオや先端軍事技術を、国内ベンチャー企業として商用に立ち上げるプロジェクトをいくつも指揮し、その進捗状況を幹部に発表した。SUAとは関係ないところで、弱った日本の産業を立ち上げるには金と時間を使うが、とにかくSUAが倒れた後の産業を心配しなければならなかった。
「私たちの研究でモノになったのはこれだけって感じかな、第四世代原子炉も今ユキオが忙しくてちょっと止まっちゃってるけど、まあ目途は立ったのでね」
「日本人がこの先食っていくにはこれしかない」ニシキが断定的な口調で言う。
「もう車や家電、半導体ではダメか、そりゃそうだよな」野村はすこし寂しそうだった。
「無理でしょうね、わたしのAIもほぼ商用にアレンジ可能なレベルに達しました、この国のITだってまだまだいけますよ、新興国には負けません」ハルカが発言する。彼女はAIフェーズ5の開発を終えて、今までの内気な態度が嘘だったかのようにおしゃべりになった。
「マークスⅤ、と名付けました、この子のスペックはレーニナⅣの完全上位互換と言えます、AI市場における米国の圧倒的なシェアをすべて塗り替えることができます」ハルカは自身に満ち溢れていた。
「それでいい、いいか、あたりまえの話だが商用にしたとしても絶対オープンソースにするなよ、セキュリティだけは完璧にするんだ」
「わかりました」ハルカはうれしそうにして鼻息を荒くしている。
「野村、これで日本経済は何とかなるかな」
「長期的にみても全然だめだ、相当まずい状態だ、失業者の多さとGDPの低下率は過去最高を更新し続けている、東京以外の地方は壊滅状態だし、東京もギガストラクチャー以外は経済圏とも呼べない状態だ、俺たちがちょっと外貨を稼いだって厳しいのは変わりない、早くSUAのサービスコード主体の内向き経済を壊さないと、もう立ち直れないかもしれないぞ、海外に逃げた日本人達は、財政出動を頑なにやらない日銀総裁の頭に本当に脳みそが入っているのかって疑っている、それくらいまずい状態だ」
「先行きは暗いけど、でもぜったいなんとかなるよ、僕たちが壁をこわすから」ニシキは楽しそうだ。
「そうだな、何もわからないけど頑張ればなんとかなる、そういうムードじゃないともうこの世界では生きていけないよ、世界経済を巡る情報量はAIの高速処理によってどんどん増え続けている、どの国の指導者もこれからどうなるか分からないはずだ、もう政治家のやることはハッタリしか無いよ」
さすがの野村も自嘲的な態度を取らざるを得ないようだ。俺の指示で世界経済の動向と分析とこの先経済戦争で勝つための国内法整備の方針などを野村のグループに考えさせているが、日々変化し続ける世界情勢に疲弊しきっている。
「冷戦構造時の資本主義陣営対共産主義陣営というような分かりやすい対立軸があった時の方がまだ未来を予想しやすかったんだよ、これほど複雑で共依存が進んだ今は本当に予想がつかない、新興国が共通の仮想通貨を使って新たな市場でバブルとデフォルトの間を猛スピードで行き来しながら成長しているし、かつての超大国だって自国通貨を頑固に使い続けてるからグローバル市場から追い出されて今は経済的に死に体だけど、政治的力学と軍事的に言えば世界を未だ支配しているとも言えなくもない、ウラン鉱山所有国や産油国が情報コントロールしていて資源の価格も幾らが適正なのかまったくわからない、正直経済政策なんてある程度決めつけて動かないと無理だ、全部の情報を考慮に入れたら身動き取れなくなってオーバーヒートしてしまう」
「わからなくてもやるんだよ、いつかスパコンでも環惑星衛星網でも用意してやるから、世界中の情報をお前に集めてやるよ、弱音を吐かないでくれ、それに経済というものは本来的な意味で幻想だ、真面目に取り合っちゃだめだよ」俺がそう言うと、野村は珍しく肩を落として気弱な態度を取った。
「わかったよ……でももう、これからわかりやすいものなんてものは、この世から無くなるぞ、複雑な力学と相関関係が絡み合った、AIを媒体とした超高速グローバル経済だ、昔のドルの様な絶対的なものなんてなくなる、さっきまで考えていたことがあっという間に陳腐になってしまうんだ、これは恐怖だよ、きっと先進国の頭のいい人間ほどそうおもっているはずだ」
野村以外の誰一人として実感がわかなかったのは、依然として俺たちがSUAのコントロールする日本に住んでいるからだった。日本の外では情報と淘汰の大嵐が吹き荒れている。外に出なければ快適だが、いずれ餓死する。それだけのことだった。幻想としての信頼できるシステムは崩壊し、ただ混沌だけがある。それがただしい世界で、今までがおかしかったのだ。
アメリカは日本を守ってくれなかった。日本の大企業は赤字続きだ。頼れる父親の幻想はどんどん壊れていって、最後に残ったSUAという巨大な幻想のみが日本人の唯一の支えだ。
俺とニシキがぶち壊して、思考停止した日本人を焼け野原に素っ裸で立たせてやる。それに耐えられない奴は殺す。これをやらないと日本はもう無理だ。

九月十日、原発テロの前日。
平岩が俺を訪ねて来た。よく平岩は俺の執務室に遊びに来て無駄話をして帰る。彼女は研究者の進捗管理だけなので、定常的にやる仕事が無いのだ。今日もいつものように、現役時代と同じ白衣だ。ただ昔の様に試薬で汚れていないし、手も荒れていない。
「いよいよあしたやね、これからみんなに演説するん」
珍しく関西弁丸出しで平岩が言った。
「演説ってほどのものじゃないよ、政治家じゃないんだから、あと、方言出てるよ」
「おっと、まだついつい出ちゃうわね、私の仕事は子供たちが主だった仕事をやってくれるから楽でいいわ」
「子に恵まれたな」
「ところで聞いて、わたしね、SUAの正体、ちょっとわかっちゃった」
「え」
「賭けてもいいわ、宝生の周りの幹部いるでしょう、たぶんね、警備部以外は全員女よ、しかも私と同年代のおばさんで子供がいない」
「何を根拠に」
「勘、いや経験則かな」
「参考にしとくよ」
「きっとね、その女たちはギガストラクチャーが子供代わりなんよ、宝生と自分の、だからこんなにSUAは強くなった」
平岩は俺の机に座って窓の外から見えるギガストラクチャーを見ている。もっともここからはその全容は見えるはずもない。
「そうかもな」
「だから私だってあの子たちが居なかったらSUAの幹部になっていたかもしれないなぁ、なんて」
「アンタはそんなバカじゃないだろ、宗教ぎらいだし」
「まぁそうやねぇ」
そう言って平岩は足をぶらぶらさせて遊んでいる。ふと俺の手をみて、
「手が古傷だらけね、どうしたん」
「山口で暮らしていた時は薪を割ったり狩りをしたりで、しょっちゅうケガしていたからな、右手の派手な傷跡は一度崖から落ちて切ったんだ」
「へぇー、アホやね」
平岩は俺の手の傷を見て楽しそうにしている。
「これはなに」平岩が俺の手に触れた。
その瞬間俺は酷い嫌悪感に襲われた。おもわず強引に手を引きはがしてしまった。
「やめろ、触るな」
我ながら酷い態度だった。
「ごめんよ、ぼっちゃん、あはは」
「すこしは緊張してくれよ」
「してるよ、茂山君も葛野君も失敗したら死ぬし、私たちも捕まるんでしょう」
「失敗しないよ、俺には宝生を捕まえた後ニシキがぶん殴る絵が見えてるからな」
「未来予知かな、勘弁してよ、私、一応学者ですよ」
平岩がへらへらしながら俺を和ませようとしてくれるのがありがたかった。嫌悪感はいつまでも消えなかった。

「ちょっと、時間だよっ」
アオイが俺を呼びに来た。今行く、と伝えて平岩と一緒に執務室を出た。会議室にはいつもの幹部たちが顔を揃えている。それぞれが自分の管轄の作業の最終確認を行っている。マイクと情報端末が俺の前に置かれた。
「おお和泉、ここでしゃべって、あーあー、テスト、テスト」ニシキが卓上マイクを俺に近づけてくれた。この音声は今回のテロに参加して、準備を進めている組織のメンバー三百人近くの全員が無線放送で聞いている。

これから君たちは、死ぬかもしれない作戦行動に放り込まれる。バックヤードの管制室にいる君たちだって立場は一緒だ、このテロでSUAの弱点を握れなければ俺たちは潰される、失敗したらおしまいだ、そんなリスクを負うということは生物にとって矛盾した行為だ、すでに子供を持っている人間ならまだいいが、君たちの大半は独身者だろう、君たちのような優秀で美しい人間が子孫を残さずに死んでしまうことなど、本来あってはならない、今からでも構わない、死にたくないやつは外れてくれ、むしろその勇気を誇っていい行為だ、俺たちは日本を覆うSUAの支配が気に食わないというだけの集団だ、いや、集団にならないために仕方なく支えあっていると言っていいだろう。
何よりも尊重されるのは個人の意思だ、周りの環境も、人間関係も社会も関係ない、あくまで生理的な現象としての意思を尊重してほしい。
東京湾沖原発はギガストラクチャーのインフラの要だ、常時千人のスタッフと百人の警備部、警備UAVも七十台配備されている。警備部とUAVは武装しているし、周囲の海には機雷とUUV(自律型無人潜水機)がうようよしている、下手に建物を攻撃すれば被曝するかもしれない、テロの標的としてはハードターゲットとしか言いようがない、SUA警備部は俺たちに対して、フリーズもネゴも無しに発砲するだろう、それだけ彼らにとって重要な施設ということだ。だけど俺たちがそうでもしないと宝生は地下から出てこないんだ。
俺はSUAを潰すために君たちを集めた、それは俺だけではあのデカいビルの塊を壊せないからだ、俺は、俺の願いのためだけに君たちを利用している。もう一度言う、死ぬのがいやなやつはやめてくれてかまわない、俺はひとりでも挑戦し続ける、俺は死なない限りSUAに反抗し続けるし、何人でも殺すし何でも壊す覚悟だ、俺についてくる奴にはSUAがいない世界を最高の眺めで見せてやる、それはかつて日本が経験したことのない、弱者に厳しい世の中になるだろう、ドラッグもスポーツもギャンブルもアイドルも必要無い、デカいビルも、作り物の海も、毎日消毒された部屋も、夢も幻想も俺達には必要ないんだ。現在深夜二十三時、日付が変わったら攻撃を開始する、今ギガストラクチャーに住む日本人達は酒でも飲んでるかもしれないな、甘い幻想の真っただ中だ、そこで全ての電気を止めて光を奪ってやろう、想像するだけでも最高だ、繁華街に居るやつらの馬鹿面を真っ青にしてやろう、例えば銀座エリア二十四階だ、あそこには最高級のクラブがある、ドイツやポーランドのEDMを主に流しているらしいな、その中は日本人のアルファだけしか入れないんだ、日本人がクラブミュージックだぞ、芸のない、四つ打ちとブレイクを繰り返すだけの最高に趣味の悪い音楽だ、甘い酒を飲みながらヘラヘラして、日々のストレスとやらを発散してるんだ、なにもかも台無しにしてやろう、火照って茹だり上がった頭に冷や水をぶっかけてやろう、現実を思い出させてやろう、日本はもうだめだということを目の当たりにさせてやろう。
今日やることの概要だが、まず茂山カナメ君が指揮する情報部隊諸君、海中から人工島に上陸、侵入、原発の全システムを掌握して各レーダーや本土への通信網を使用不能にしてくれ、もちろん無線や民間の通信端末もジャミングで使えなくするんだ、この時点でまずシステム担当者が異常に気付かないわけがないし、警備部が侵入者対策プログラムを走らせるだろう、非常に危険な任務だがこれをやらないと原発をスタンドアローンに出来ない、頼むぞ、葛野ショウタ君指揮する制圧部隊、君たちは茂山が通信を破壊した後、ティルトローター五機で空路で人工島に侵入し、十五基ある原子炉及び七か所ある中央操作室を占拠してもらう、警備部は必ず殺せ、その後平岩ユキオ君を中心とした技官が全ての原子炉を止め、ギガストラクチャーへの送電をストップさせるんだ、言っとくが君たちには軍用麻薬も精神安定剤も渡さない、自殺用のカプセルもだ、なぜだかわかるよな、俺は君たちにどこまでも人間でいてほしい、誰よりも個別でいてほしいんだ、人を殺すのがこわいのはわかる、それは本能だ、しかし警備部は外敵なんだ、そう脳にプログラムしてほしい、あくまで俺はマイクロマシンやバイオフィードバックに頼らないぞ、君たち自身がそう感じるんだ、もしかしたら成功しても殺人による心的外傷が残るかもしれない、でもやってほしいんだ、いいか、警備部の連中が現れたら自分の感情で殺せ、俺は君たちを信頼して、尊敬して、信仰しているんだ、優秀な個人にできないことは無い、SUAなどという幻想に心と体を委ねた弱者に負けるはずがないんだ、またバックヤードのみんな、現場に行く彼らを出来る限り支えてやってくれ、内閣危機管理局や停電後の資源エネルギー庁の動きをニシキ率いる官僚グループはリアルタイムで野村さんに報告し続けてくれ、占拠後の判断がそれによって変わってくる、だが絶対に宝生は原発の存在を公にしたくないはずだ、間違いなく陰で事態を収束させようとする、頼んだぜ、バックヤードで特に重要なのは平岩ハルカさんのキラーUAVだ、葛野君たちが人工島に上陸するにはティルトローター五機で空路を使う、だが原発の警備システムにはUAV七十機が空中で警備している、こいつらを放置していたら人工島に近づく前にティルトローターが落されてしまうからな、かといって茂山君のように海から侵入するのは島が警戒態勢に入ってしまったらもう無理だ、頼む、うまく葛野達を守ってやってくれ、最も厄介なのは警備部の人間よりこのUAVだ、すべて落とさないと被害が出る、支えてやってくれみんな、俺からのお願いだよ、宝生を捕まえればこんな気持ちの悪い世の中は終わるんだ、ギガストラクチャー、俺はあんなものは認めないぞ、存在を許してはいけないんだ、あれは日本人を包み込んで曖昧な状態にしている、これじゃあ何が何だかわからないまま一生を終える人たちだらけになってしまうぞ、あの中にあるのは惰性と、偽の共感と、経済的な怠惰と、不毛な人間関係と、思考停止の為に用意された娯楽だ、叩き潰そう、俺達がそれぞれ、個別の意思によってだ、革命家諸君、輝く時は今だ、後に世界中が語ることになることを今日これから、やろう。

俺は煽情的、かつ矛盾をはらむ演説を終えた。ため息をつきながら、興奮と自己嫌悪の間で困惑していた。ニシキは俺の演説を聞いて高揚して大騒ぎしている。野村は俺の心情を察するかのように優しく微笑みかけてくれた。茂山は棒立ちになって下を向き、静かに涙を流していた。葛野は興奮しすぎてライフルをいじりながらうろうろしている。ユキオは頭を抱えてマニュアルの最終チェックを最初からやりなおしている、女性陣は比較的冷静に、淡々と準備を進めていた。

2020年9月7日公開

作品集『東京ギガストラクチャー』第24話 (全35話)

© 2020 尾見怜

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