ノーシーボガール

中野真

小説

29,975文字

ある大雨の日、小学校の教室で大河は意識を失った。それから少年は自分は呪われているという言葉を繰り返し、食べたものは全て吐いてしまう。相談を受けた塾講師の結人は認知心理学者を自称する友人を伴って少年の「呪い」を解くために奮闘する。小説推理新人賞落選。

エピローグ

 

 ラーメンをすすりながら中也は結人の語る事の顛末を聞いていた。それから水を飲み干すと、ピッチャーから注ぎながら「なるほどねえ」と呟いた。

「愛を証明する必要はない、か。大きく出たねえ先生」

「でしょ。愛はきっと、言葉を超えたものだから。そして僕らの心は言葉を超えたところでそれを受け取ることができるんだ」

「おー、語りますねえ」

「僕さ」

「ん?」

「奈緒と結婚しようと思う」

 中也は飲もうとしていた水を吹き出した。おしぼりで机を拭きながら「それ今ここで言うことかよ」と笑った。

「もう決めたから。お前には言っとかなきゃと思って」

「俺はお前の親か」

「いや、親友」

 中也は不気味そうに顔をしかめて見せた。しかし結人は知っていた。それが彼の照れている表情なのだということを。たまにはこういった率直な物言いもいいもんだ。なんだか気分が良かった。

「いつプロポーズするの?」

「それはまだ決めてない。というか、まだ先だと思う」

「じゃあなんでそんなこと今俺に言うんだよ」

「んー、お前に愛の証明を見せつけるため」

 中也は動きを止め目を丸くしていたが、やがて声を立てて笑い出した。

「やっぱ結人は最高だな」

「でしょ」

「オーケー、楽しみにしてるよ、お前の愛の証明。つーことでラーメンおかわりしていい?」

「おういっちまえ、どうせならチャーシュー増しとけ」

 二人は水のグラスで何故か乾杯して笑いあった。

「ところで、結局どうしてその子は大河に呪いをかけたんだ?」

「それは初めからわかってたじゃん。まあ説明すると、その日のお弁当さ、あの子自分で作ってきてたんだよ。それで、自分の手料理を食べてもらったのが恥ずかしかったのと、あと自分が呪われているってのが絡まって変なことになったみたい。まあ子供の妄想力はすげえよ」

「やっぱそうか。あれからあいつら元気にしてる?」

「そりゃもう、いっつも一緒に走り回ってるよ」

「あのじゃがいも小僧め、色気付きやがって」

 「しかしまあ」と新しく運ばれてきたチャーシュー麺に手を合わせながら、中也はいたずらっぽい笑みを浮かべ、

「恋の呪いは解けなかったわけだ」

 と事件の結末に判を押すように言った。結人はその決め台詞がしゃくに触ったが、今回だけは許してやろうと頷いた。

 

了>

2019年6月16日公開

© 2019 中野真

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