明るい太陽の光が、温かくワタシ達を包み込む。
ワタシは家族と幸せに暮らしている。
春の小川のように流れる穏やかな時間。
ここは家族だけの空間。
ここにあるのは、家族の愛だけ。
そしてその愛だけが、ワタシの全て。
突然、窓ガラスが砕け散った。
手榴弾らしきものが数個、部屋に放り込まれる。
それは凄まじい光と音を発した。
視覚と聴覚を破壊し、脳を麻痺させる閃光音響弾。
間を置かず、ワタシ達家族の聖域に異物どもが侵入してきた。
全身黒ずくめの、屈強な人間達。
腕には「SAT」のワッペン。
機動隊の特殊部隊。
日本警察最強にして、最後の砦。
「……!」
突入の勢いはどこへやら。
SAT達は全員、フリーズしている。
「こちら小隊二! リビングには死体が四つ! 整然と並べられている。マル被は……マル被もだ!マル被も横たわったいる! マル被の生死を確認する!……待て! 何だ、あの両脇にあるものは……」
ワタシは両脇の散弾銃と日本刀を手に取り、ゆっくり立ち上がった。
唐突に立ち上がったワタシに、SAT達は相変わらずフリーズ。
その中の一人が、
「た、隊長! スタン・グレネードが効いてません!」
と防護マスクの中で、くぐもった悲鳴をあげる。
閃光音響弾を警察では、スタン・グレネードと呼ぶらしい。
どちらが正式名称か?
どうでもよかった、そんな些末なこと。
だって、ワタシには花火程度のオモチャだから。
それよりも――。
この愛に満ちた空間を汚した者達。
その代償は払ってもらう。
ワタシが一歩踏み出す。
それが、引き金になった。
幾多の騒音と悲鳴。
ワタシ達家族の癒しの場に、相応しくない。
お父さんはビックリしたかな?
お母さんは笑いながらも、恐怖で涙ぐんでいるだろう。
弟の賢治はもちろん、震えているに違いない。
日本警察最後の砦は、呆気なく崩れ去った。
また、静寂が訪れた。
穏やかな時間が流れ始めた。
ただ、家族のくつろぎの場には相応しくない「ゴミ」が、部屋にいくつか転がっている。
でもみんなは、気にも止めていないようだ。
父は砂糖がたっぷり入ったコーヒーを飲みながら、経済新聞を読んでいる。
母は夕食の献立を考えてくれている。
弟は父に、一緒にゲームをやろうとせがんでいる。
先に宿題をやりなさい!
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