絶滅者 39

hongoumasato

小説

1,492文字

清彦は、これまで自分が犯した殺戮の「イメージ」を「ワタシ」に見せる。

それは悪夢をしのぐ凄絶さだった。

責める「ワタシ」に清彦は、問いを投げる。

返答できない「ワタシ」は・・・

清彦がワタシに流した「イメージ」。

 

それは、ワタシを深く傷つけた。

 

悪夢以上の現実。

 

 

清彦は早くに父を亡くし、母親に育てられた。

 

他の一族の女系同様、蔑まれ続け他界した母親。

 

そんな環境で育った。

 

清彦の破壊対象は、両親が揃った子供のいる家庭。

 

特に、社会的・経済的に恵まれた家庭を狙い撃ちした。

 

母、そしてワタシと引き離された清彦にとって、幸せな家庭は憎悪の対象だった。

 

家族思いの医師の家庭。

 

夫が女性看護師と院内で不倫中に殺害。

 

性交の体位のまま死体を移動。

 

夫(父)と見知らぬ女性の遺体。

 

しかも性交したまま血塗れ。

 

朝一番に、その地獄絵図を見せられた家族。

 

哀しみと恐怖と絶望のどん底に叩き落された妻と子供達。

 

狂乱した後に、彼女達も惨殺された。

 

父親のメスで。

 

生きたまま清彦にオペされた。

 

 

 

子供好きな女性教育評論家の家庭。

 

メディアで、学校と家庭の教育力低下を糾弾していた彼女。

 

そんな彼女は、母親でもあり、妻でもあった。

 

「教師と親は、まず自分が範となる覚悟が必要」と居丈高に訓を垂れていた。

 

どんな人間にも暗部はある。

 

社会的・経済的な成功が大きければ大きいほど、その暗部の闇も濃くなる。

 

母親は、一流私立高校への裏口入学斡旋を行っていた。

 

さらに、未成年の体を金で買っていた。

 

清彦はそれを白日の下に晒した。

 

そうして世間の耳目を集めさせ、彼女の家庭を崩壊させた。

 

そして、一家を惨殺した。

 

母親の遺体は斡旋先の高校で、男娼と性交した状態で発見された。

 

 

 

清彦の殺戮に、正義感など微塵もない。

 

妬み。

 

幼少時代の屈折した感情。

 

それが源泉となっている。

 

イメージを見終わったワタシは、清彦を見据えた。

 

「狂ってる……確かにアンタが破壊した家庭には、問題があったかもしれない。でも程度の差はあれ、問題がない家庭なんてない! ワタシの家族だってそう。アンタなら知ってるでしょう、ワタシの父が財務官僚の天下り先を密造してたって。だったら、ワタシの家族を皆殺しにする? 姑が嫁をイジめてるなら、その家庭も? 非行に走った息子がいるから……」

 

「君も同じことをしてきた」

 

清彦が冷たく遮った。

 

「君の破壊だけは、正当化されると考えているのかな? 例えば銀行の連中。リストラなんか当然だろう。ビジネスだ。利益が全てだ。その阻害要因になるなら、何だって排除する。経済の基本中の基本だ。リストラしたから殺すのか? 全世界の企業幹部の大半が死ぬことになるね。お父さんをたぶらかして、捨てたとかいうホステス。元々あんな連中に、モラルを求める方がどうかしてるよ。夜の世界に生きる女を不実で殺すの? なら世界中のショーガール達は、皆死刑だよ?」

 

何も言い返せなかった。

 

ワタシは自分の破壊を正当化する気はない。

 

自分の家族のことだけを考えた。

 

それでいいと思っている。

 

ワタシにとっては、家族が全てだから。

 

その思いに疑問を持ったことはない。

 

今も。

 

そして、これからも。

2019年2月23日公開

© 2019 hongoumasato

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