清彦がワタシに流した「イメージ」。
それは、ワタシを深く傷つけた。
悪夢以上の現実。
清彦は早くに父を亡くし、母親に育てられた。
他の一族の女系同様、蔑まれ続け他界した母親。
そんな環境で育った。
清彦の破壊対象は、両親が揃った子供のいる家庭。
特に、社会的・経済的に恵まれた家庭を狙い撃ちした。
母、そしてワタシと引き離された清彦にとって、幸せな家庭は憎悪の対象だった。
家族思いの医師の家庭。
夫が女性看護師と院内で不倫中に殺害。
性交の体位のまま死体を移動。
夫(父)と見知らぬ女性の遺体。
しかも性交したまま血塗れ。
朝一番に、その地獄絵図を見せられた家族。
哀しみと恐怖と絶望のどん底に叩き落された妻と子供達。
狂乱した後に、彼女達も惨殺された。
父親のメスで。
生きたまま清彦にオペされた。
子供好きな女性教育評論家の家庭。
メディアで、学校と家庭の教育力低下を糾弾していた彼女。
そんな彼女は、母親でもあり、妻でもあった。
「教師と親は、まず自分が範となる覚悟が必要」と居丈高に訓を垂れていた。
どんな人間にも暗部はある。
社会的・経済的な成功が大きければ大きいほど、その暗部の闇も濃くなる。
母親は、一流私立高校への裏口入学斡旋を行っていた。
さらに、未成年の体を金で買っていた。
清彦はそれを白日の下に晒した。
そうして世間の耳目を集めさせ、彼女の家庭を崩壊させた。
そして、一家を惨殺した。
母親の遺体は斡旋先の高校で、男娼と性交した状態で発見された。
清彦の殺戮に、正義感など微塵もない。
妬み。
幼少時代の屈折した感情。
それが源泉となっている。
イメージを見終わったワタシは、清彦を見据えた。
「狂ってる……確かにアンタが破壊した家庭には、問題があったかもしれない。でも程度の差はあれ、問題がない家庭なんてない! ワタシの家族だってそう。アンタなら知ってるでしょう、ワタシの父が財務官僚の天下り先を密造してたって。だったら、ワタシの家族を皆殺しにする? 姑が嫁をイジめてるなら、その家庭も? 非行に走った息子がいるから……」
「君も同じことをしてきた」
清彦が冷たく遮った。
「君の破壊だけは、正当化されると考えているのかな? 例えば銀行の連中。リストラなんか当然だろう。ビジネスだ。利益が全てだ。その阻害要因になるなら、何だって排除する。経済の基本中の基本だ。リストラしたから殺すのか? 全世界の企業幹部の大半が死ぬことになるね。お父さんをたぶらかして、捨てたとかいうホステス。元々あんな連中に、モラルを求める方がどうかしてるよ。夜の世界に生きる女を不実で殺すの? なら世界中のショーガール達は、皆死刑だよ?」
何も言い返せなかった。
ワタシは自分の破壊を正当化する気はない。
自分の家族のことだけを考えた。
それでいいと思っている。
ワタシにとっては、家族が全てだから。
その思いに疑問を持ったことはない。
今も。
そして、これからも。
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