「アンタなんか父親じゃない! 遺伝子や血の繋がりだけで親子だと思っているのなら、大きな愚かな間違いよ! 親子の絆は、そんな目に見えるものじゃない! それは……」
「愛、か?」
薄ら笑いを浮かべる清彦。
「私は君のお母さんを愛しているよ。だが今の君には分かるはずだ、昔の彼女がどんな風だったか。でも私は感じていた。君の母が私を愛していることを。それを確かめるために、多少乱暴な行動に出たことは率直に謝るよ」
不愉快さが過ぎて、嘔吐しかけた。
「一族は、私達を離れ離れにした。でも、私は信じていた。彼女と、私達の愛の結晶である君が、きっといつか私の下へ帰ってくるって」
考えるより先に体が動いた。
背中に担いだ日本刀を抜刀。
清彦の額目掛けて、一刀する。
問答無用。
電光石火。
だがワタシの一撃は、清彦の額に届かない。
清彦が、ワタシと同じく日本刀を帯びていたから。
その刃で、ワタシの破壊を受け止めたから。
馬鹿な!
清彦は日本刀なんて持っていなかった。
少なくとも、ワタシには見えなかった……見えなかった?
清彦のステルスは、ワタシのそれを上回っている?
「オイッ、小娘! 貴様、清彦様に刃を向けるとは!」
いつの間にか、本家の初老管理人が立っていた。
徳田とかいう名だったはず。
相変わらず駆けつけるのが早い。
初老管理人の手には散弾銃。
その照準は、ワタシの頭部をロックオン。
「徳田、手出しは無用だ」
「はっ、清彦様」
尊大な態度の清彦に、傅く初老管理人。
「驚いた顔をしてるね。ステルスなどの能力は、君だけの専売特許ではない」
ニヤリと笑う清彦。
蒼白になるワタシ。
続く言葉の予想はついたから。
「君の指摘通り、私も『絶滅者』だよ。異形のモノと融合もした。君のとは違う異形のモノだけどね。もう一つ、君は気付いてるね? 絶滅者としての能力が、私の方が強いことに」
なぜ、ワタシ以外にも絶滅者が?
異形のモノは一匹だけじゃない?
「星の管理者達――異形のモノのことだ――は狡猾だ。保険をかけたんだよ。一人だけでは、人類を絶滅できないかもしれない。ならば複数人揃えて、人類絶滅を開始させる。それでも絶滅者側が不利になったら、我々がまだ持っていない、凄まじい破壊力を秘めた能力を与えられる算段だ。『私担当』の星の管理者が、教えてくれたよ」
ワタシは、黙って清彦の話を聞くしかなかった。
すでに刀は下ろしている。
「そして人類が絶滅したら、絶滅者も消す。それは簡単なことさ。内側にいる星の管理者が自爆すればいい。そうだ、一つ教えてあげる。星の管理者は、万能じゃない。万能なら自分達で、人類を絶滅させればいいからね。でも彼等には、いくつか特技がある。その一つが、人間の記憶操作なんだ。なぜか星の管理者は、私にはご丁寧に教えてくれたよ。……君は後で、ビックリする」
記憶操作。
異形のモノとの融合後、隠していると感じた能力がそれか。
ワタシは家族の救出にばかり、時間と頭を割いていた。
異形のモノが出し惜しみした能力など、考えたことすらない。
ワタシは絶滅者や異形のモノに、興味はない。
その能力を得られれば良かった。
人類を皆殺しにするのではなく、家族救出のための力があればいい。
ふと、疑問が湧いた。
それはおぞましい疑問だった。
「アンタは……アンタは絶滅者としての能力を使ったの?」
清彦に問うた。
答えは分かり切っていたけど。
「無論、使用したよ」
涼しげに答える清彦。
けれどその目がスッと細くなったのを、見逃さなかった。
誰に?
どんな風に?
その問いは口にできなかった。
「君は家族に苦痛を与えた者達に、絶望と死を与えた。私は世間の幸福な家族どもに、同じことをしたよ」
ワタシの心中を見透かした清彦の言葉。
「幸福な家族? アンタと関係のある人間達なの?」
「無い」
「な! アンタ、全く自分と無関係な人達を!」
「説明するより、見た方が早い。『イメージ』を送るよ」
清彦はイメージ流入までできるのか。
ワタシの異形のモノは、ケチか無能だ。
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