絶滅者 34

hongoumasato

小説

1,141文字

ついにアサシン達との死闘に決着がついた。
そして「ワタシ」は、中年ヤクザ・若松のもとへ。
身も心もズタズタだった「ワタシ」だが、死闘はまだ終わらない・・・

奥の部屋で息を潜め、身構える若松と賢之助。

 

つい先程、銃声と怒声が止んだ。

 

ワタシと十人のアサシン。

 

どちらが生き残ったか?

 

若松達に確かめる術は無い。

 

彼達がいる部屋に、アサシン達が来るなら良し。

 

ワタシなら……。

 

ゆっくりと扉が開かれる。

 

立っていたのは……。

 

ワタシだった。

 

若松の顔が恐怖と絶望で歪む。

 

残念。

 

ワタシは戸口にもたれかかり、二人の獲物を見詰めていた。

 

すぐには動けない。

 

先の破壊は「死闘」だった。

 

一人斬り殺す度に、ワタシの体に無数の鉛がめり込む。

 

ワタシが攻撃する時。

 

それがアサシン達にとって、唯一の攻撃可能なタイミング。

 

研ぎ澄まされた五感と極限の集中力。

 

ワタシがステルスを外す一瞬。

 

その瞬間にアサシン達は攻撃してきた。

 

血飛沫をあげる同業者を格好の囮にして。

 

ワタシの体はズタズタだった。

 

傷口は塞がっている。

 

それでも度重なる激痛の嵐は、ワタシの体力・気力を削り取っていた。

 

壁にもたれていないと、立っていられない。

 

自分の血と返り血で、真紅に染め上がった全身。

 

若松親子は、呆然とワタシを見ている。

 

血まみれの一二才の少女。

 

何より、アサシンも含めた警護の連中が皆殺しにされた事実。

 

「……なるほど、確かに化け物だ」

 

賢之助が沈黙を破った。

 

若松は右手を懐に、左手を腰に回している。

 

懐にはベレッタ、腰にはスペツナズナイフ。

 

ワタシは気力を振り絞り、部屋の中へ踏み出した。

 

若松がスペツナズナイフを素早く腰から引き抜く。

 

柄の部分にボタンがあり、それを押すと刃が標的めがけて発射される。

 

躊躇いなくボタンが押された。

 

ワタシに向かってくる刃。

 

かわすのは億劫だった。

 

それ程、体は重かった。

 

手の平で受け止めた。

 

刃が手の甲から、にょっきり生えている。

 

手の平から流れ落ちる真っ赤な滝。

 

その隙を逃さず、若松がベレッタを両手で構える。

 

狙いは、ワタシの心臓。

 

一二才の小さな体の、小さな心臓。

 

ワタシは手の平からナイフを抜き、それを放った。

 

ベレッタの銃口に。

 

黒く冷たい穴に、血の跡を空に描きながら吸い込まれる刃。

 

真っ赤で細い飛行機雲。

2019年2月21日公開

© 2019 hongoumasato

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