奥の部屋で息を潜め、身構える若松と賢之助。
つい先程、銃声と怒声が止んだ。
ワタシと十人のアサシン。
どちらが生き残ったか?
若松達に確かめる術は無い。
彼達がいる部屋に、アサシン達が来るなら良し。
ワタシなら……。
ゆっくりと扉が開かれる。
立っていたのは……。
ワタシだった。
若松の顔が恐怖と絶望で歪む。
残念。
ワタシは戸口にもたれかかり、二人の獲物を見詰めていた。
すぐには動けない。
先の破壊は「死闘」だった。
一人斬り殺す度に、ワタシの体に無数の鉛がめり込む。
ワタシが攻撃する時。
それがアサシン達にとって、唯一の攻撃可能なタイミング。
研ぎ澄まされた五感と極限の集中力。
ワタシがステルスを外す一瞬。
その瞬間にアサシン達は攻撃してきた。
血飛沫をあげる同業者を格好の囮にして。
ワタシの体はズタズタだった。
傷口は塞がっている。
それでも度重なる激痛の嵐は、ワタシの体力・気力を削り取っていた。
壁にもたれていないと、立っていられない。
自分の血と返り血で、真紅に染め上がった全身。
若松親子は、呆然とワタシを見ている。
血まみれの一二才の少女。
何より、アサシンも含めた警護の連中が皆殺しにされた事実。
「……なるほど、確かに化け物だ」
賢之助が沈黙を破った。
若松は右手を懐に、左手を腰に回している。
懐にはベレッタ、腰にはスペツナズナイフ。
ワタシは気力を振り絞り、部屋の中へ踏み出した。
若松がスペツナズナイフを素早く腰から引き抜く。
柄の部分にボタンがあり、それを押すと刃が標的めがけて発射される。
躊躇いなくボタンが押された。
ワタシに向かってくる刃。
かわすのは億劫だった。
それ程、体は重かった。
手の平で受け止めた。
刃が手の甲から、にょっきり生えている。
手の平から流れ落ちる真っ赤な滝。
その隙を逃さず、若松がベレッタを両手で構える。
狙いは、ワタシの心臓。
一二才の小さな体の、小さな心臓。
ワタシは手の平からナイフを抜き、それを放った。
ベレッタの銃口に。
黒く冷たい穴に、血の跡を空に描きながら吸い込まれる刃。
真っ赤で細い飛行機雲。
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