予想は外れた。
階段を上りきった先にいたのは、海坊主だった。
その双眸は深く暗い。
すでに死ぬ覚悟を決めている者だけが発する、狂気のオーラ。
素手で仁王立ちする海坊主。
ワタシは、日本刀を床に置いた。
死ぬ覚悟を決めた人間への、それは最低限の礼節。
家族の憎い仇。
だから当然、破壊する。
だが真っ直ぐワタシを見る目には、殺気と狂気だけではなく、驚いたことに純粋さがあった。
彼にとっては、文字通り命をかけた戦闘。
これまでの連中と違い、己の誇りを何より重んじている。
それこそ、海坊主が求めていたもの。
それこそ、海坊主が望んだ死に方。
ならばワタシも邪念は捨てる。
家族の復讐は決して邪念ではないが、この男とは純粋な気持ちで戦おうと決めた。
それが、不器用な生き方しか知らなかった男への鎮魂歌。
「うおおおぉぉぉぉっ!」
全身から咆哮を発し、突進してくる巨体。
ワタシの背丈に合わせ、海坊主がその巨体を沈み込ませる。
同じ高さになる目線。
海坊主は勢いそのままに、左の拳をワタシの顎めがけて突き出す。
その手首を掴もうとした瞬間だった。
逆にワタシの右手首が、海坊主に掴まれる。
驚愕。
ワタシの動きに、人間がついてこられた?
これが、死を受け入れた人間の強さ……。
海坊主が左脚を軸に、右脚で回し蹴りを放ってくる。
彼の全身全霊を込めた一撃。
喧嘩に明け暮れた己の生き様と、誇りを凝縮させた一撃。
ワタシはかわすことなく、首にその一撃をもらってやった。
その姿勢のまま対峙するワタシと海坊主。
微動だにしないワタシ。
無表情のワタシ。
海坊主も初めは無表情だったが、最後に唇の端を捻じ曲げた。
笑ったのだ。
腕っ節だけで生きてきた男。
最後に、彼とは別次元の強さを誇る者と戦えて、満足した顔だった。
海坊主と同じように、ワタシは彼の首に回し蹴りを放った。
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