絶滅者 32

hongoumasato

小説

970文字

屋上にいるアサシン集団と戦うべく、上へ向かう「ワタシ」。

だがその前に、海坊主が立ちはだかる。

死を覚悟した男の壮絶な強さを、「ワタシ」は思い知らされて・・・

予想は外れた。

 

階段を上りきった先にいたのは、海坊主だった。

 

その双眸は深く暗い。

 

すでに死ぬ覚悟を決めている者だけが発する、狂気のオーラ。

 

素手で仁王立ちする海坊主。

 

ワタシは、日本刀を床に置いた。

 

死ぬ覚悟を決めた人間への、それは最低限の礼節。

 

家族の憎い仇。

 

だから当然、破壊する。

 

だが真っ直ぐワタシを見る目には、殺気と狂気だけではなく、驚いたことに純粋さがあった。

 

彼にとっては、文字通り命をかけた戦闘。

 

これまでの連中と違い、己の誇りを何より重んじている。

 

それこそ、海坊主が求めていたもの。

 

それこそ、海坊主が望んだ死に方。

 

ならばワタシも邪念は捨てる。

 

家族の復讐は決して邪念ではないが、この男とは純粋な気持ちで戦おうと決めた。

 

それが、不器用な生き方しか知らなかった男への鎮魂歌。

 

「うおおおぉぉぉぉっ!」

 

全身から咆哮を発し、突進してくる巨体。

 

ワタシの背丈に合わせ、海坊主がその巨体を沈み込ませる。

 

同じ高さになる目線。

 

海坊主は勢いそのままに、左の拳をワタシの顎めがけて突き出す。

 

その手首を掴もうとした瞬間だった。

 

逆にワタシの右手首が、海坊主に掴まれる。

 

驚愕。

 

ワタシの動きに、人間がついてこられた?

 

これが、死を受け入れた人間の強さ……。

 

海坊主が左脚を軸に、右脚で回し蹴りを放ってくる。

 

彼の全身全霊を込めた一撃。

 

喧嘩に明け暮れた己の生き様と、誇りを凝縮させた一撃。

 

ワタシはかわすことなく、首にその一撃をもらってやった。

 

その姿勢のまま対峙するワタシと海坊主。

 

微動だにしないワタシ。

 

無表情のワタシ。

 

海坊主も初めは無表情だったが、最後に唇の端を捻じ曲げた。

 

笑ったのだ。

 

腕っ節だけで生きてきた男。

 

最後に、彼とは別次元の強さを誇る者と戦えて、満足した顔だった。

 

海坊主と同じように、ワタシは彼の首に回し蹴りを放った。

2019年2月21日公開

© 2019 hongoumasato

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