絶滅者 26

hongoumasato

小説

2,888文字

カルト教団の最深部に行き、ついに天慈会会長・樹光に迫る「ワタシ」。

しかし、樹光はセックスと金に目がくらんだカルト集団の教祖だけではなく、「ワタシ」に近い力も秘めていた。

そして急接近する、天慈会の殺戮部隊・聖戦士達。

「ワタシ」が選択したのは・・・

「ねえ、本当にこの国の王様になれると思ってるの?」

 

樹光が、ギクリと腰の動きを止める。

 

慌ててワタシに目を向けた。

 

樹光は美しい女性会員と性交の真っ最中だった。

 

部屋には淫靡なダブルベット。

 

そのベッドの上に、SM用の「オモチャ」が数多く“設置”されている。

 

これが、この男の本性。

 

「お前は! ……小娘が!」

 

貧相な体つきの樹光が、股間を慌てて隠しながら怒鳴る。

 

そんな矮小男を敬愛して止まない女性会員は、脅えていた。

 

「心配しなくていい。こんな小娘は大地と自然の力で、簡単に浄化できる」

 

樹光がバスローブを羽織りながら女性に言った。

 

その言葉だけで、女性会員は安堵していた。

 

「どうやってここに入った?」

 

ここは天慈会の総本山。

 

その奥まった一室に、ワタシはいる。

 

その奥まった一室が、本格的なSMルームだったにせよ。

 

「入るのは簡単だったわ。大地と自然が道を教えてくれたから」

 

ワタシがからかうと、樹光は鋭い眼差しを向けてきた。

 

樹光は小柄な男だった。

 

ヒトラーも麻原彰晃も狂人だった。

 

だが人類にとって不幸だったのは、彼達が「カリスマ」を持って生まれたこと。

 

目の前の貧相な天慈会会長にも、不幸なことにカリスマがあった。

 

それで数多の人間が、騙され続けている。

 

「さっき『心配しなくていい』って言ったよね。本当? アンタ、やり過ぎなんじゃない?ただでさえ、新興宗教への世間の目は厳しくなってる。その上、大量に警官や自衛官を入会させた。しかもその連中に特殊訓練まで受けさせてる。司法機関が黙って見てると思う? さっきこの周りを歩いてみたけど、公安の警官だらけだった。しかもなぜか、自衛隊までいたわよ」

 

「君は教義勉強会に参加してきなさい」

 

樹光は女性会員を退室させた。

 

「お前が何者かは知っている。鋼鉄の地下金庫を日本刀で叩き切った。複数の銀行幹部を走行中の電車に放り投げた。警官に数箇所撃たれながらも殺害した。全て、父親の復讐だそうだな。メディアは連日、お前のことを報道している。財務省キャリアの家族惨殺の容疑もかかっている。只者でないのは先刻承知」

 

樹光は冷静だった。

 

唇の端が捻じ曲がっている。

 

笑っているのだ。

 

だが日本刀を背負っているとはいえ、一二才の小柄なワタシに、全く油断していない。

 

先程、女性会員を犯していたベッドの枕の下に手を滑りこませていた。

 

そこにある警報ボタンを押したのだろう。

 

樹光が冷静なのは、すぐに完全武装の会員達がやってくるから。

 

「もうじき、あなたが組織した戦闘員達が来るのね?」

 

「なぜそれを知っている?」という問いを、樹光は発しなかった。

 

樹光は物欲の塊だ。

 

だが確かに、説明不可能な力も持っている。

 

ワタシが怪物であることを把握している。

 

「警官には、リボルバーで撃たれた程度だったな? その時、お前は血を流した。血が流れるなら、お前がどれだけ超人的能力を秘めていようと、殺せる」

 

音は聞こえない。

 

ここは総本山の最深部。

 

さらに防音機能付き。

 

しかし、殺気は消せない。

 

複数の殺気が、この部屋に急接近中。

 

あの病院以上の数と質とー―殺意が、ワタシを破壊するためにやってくる。駆け足で。

 

「お前が私の元へ来ることは分かっていた。病院から報告があったからな。それ相応の警備体制は敷いた。だが、意外だな。先に病院の会員達を皆殺しにしてから、元締めの私、という順番だと踏んでいた」

 

「ご心配なく。あの狂った病院の奴達も破壊する。父を廃人寸前までにしたんだもの。でもその前に、アンタを破壊する。教祖殺害。信者……失敬、会員にとっては、これ以上の絶望は無い」

 

「破壊、か。お前は『向こうの世界』に行ったんだな。そこで化け物になってご帰還か。私も、何度か行ったよ。ただ私の場合は、浮遊霊のように、『向こうの世界』を見ることしかできないが。それでも様々な事を把握している。例えば、お前が男でも女でもない化け物になったこと」

 

侮れない!

 

樹光は「あちらの世界」に行ける……。

 

加えて、ワタシの秘密を知っている。

 

どんな力を秘めている?

 

ただのインチキ教祖とは、ワケが違う。

 

樹光はそれなりに、人間離れした力を持っている。

 

樹光の分析は、中断せざるを得なかった。

 

複数の殺気が、すぐそこまで近付いているから。

 

「気付いているだろう? すぐそこまで、完全武装の『聖戦士達』が来ている。彼達の装備は、交番の警官とは比べ物にならん。ちなみに『聖戦士』とは、大地と自然の永劫の平和のために、殉教者となる運命を背負いし者達」

 

「独立以来、アメリカは核兵器を筆頭に、圧倒的な軍事力と諜報機関を駆使して、世界を牛耳ってきた。ところがどう? 九・一一のテロで、アルカイダのテロリスト達が使ったのはナイフだけ。それで、世界一の超大国の経済と国防の象徴を破壊した」

 

「なるほど。ではお手並み拝見」

 

ワタシは部屋の内側の鍵をしめた。

 

そして部屋の外へ、瞬間移動する。

 

外側の鍵もしめた。

 

もちろん鍵など持っていない。

 

手を触れずに鍵を開閉できないのは、人間ぐらいのもの。

 

 

部屋の外からも施錠できるのは、幸運だった。

 

樹光は自分の気に入らない女性信者を、この部屋で拷問する。

 

逃亡阻止のため、外からも施錠できる設計にした。

 

これで中に、樹光を閉じ込めた。

 

なぜ、ワタシがどちらも施錠したのか。

 

それは「聖戦士」達と樹光、両方と同時に戦うことを避けるため。

 

予想外だった、樹光の能力。

 

その力の種類は、ワタシに近い。

 

まずは、部屋の外で戦うことをワタシは選択した。

 

つまり、今から来る「普通の」人間達を破壊する。

 

その「聖戦士」――――殺人マシーン達が姿を現した。

 

先頭で隊を率いていた男が、肘を九十度に曲げ握りこぶしを上げる。

 

「止まれ」の合図。

 

敵の数は九人。

 

全員がサブマシンガンで武装している。

 

鋭利なサバイバルナイフを脇腹に吊るした者、太股に拳銃を巻きつけた者、胸に手榴弾を装備した者などなど。

 

全員、完全装備。

 

戦争にでも行く気?

2019年2月19日公開

© 2019 hongoumasato

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