クラゲ人間

ガラ・トシオ

小説

2,222文字

陸に上がった〈クラゲ人間〉が海に入るまでの物語。

陸に上がったクラゲ人間は言った。

「俺の身体、アロエみたいになってやがる」

「あんた、あんまり近寄らないでよね」と、トシコ。

 

クラゲ人間はときどき死を感じることがある。こんなときに。

・子ども達にインゲン豆をぶつけられて、それが後少しでいわゆる「急所」に当たりそうになったとき。

・バス停で酒臭いオヤジの酒臭い吐息を吐き掛けられた瞬間。

・ネットの掲示板で自分と良く似た性格の人間による書き込みを見かけたとき。

・トシコの大切にしていたハイヒールを誤って履きつぶしてしまったとき。

・なんとなくやることが見つからないとき。

等々。

 

「俺は海にいるべきなのか?」とクラゲ人間。

「知らないわ。あたしはただ、毎日煎餅を食べながらテレビを見て、たまにおならができればそれで良いの」と、トシコ。

「じゃあ、俺は陸にいるべき?」

「あっ、この人」トシコはテレビを指さす。「いい男じゃない? この人のチンチンを見てみたいわ!」

 

それから色々あり、クラゲ人間はトシコと別れた。

 

トシコからの手紙。

「あんた、前から言おうと思っていたけど、蝗の霊が憑いているわよ。かなり濃厚にプレイしてる」

 

それなりに広い水族館。クラゲ人間は大水槽の前に一人佇んでいた。

「俺は、海にいるべきなのか?」

誰も答えてはくれなかった。クラゲ人間は淋しかった。それは、次の理由からだった。

・昨日の夜、少しだけエッチなビデオを見たから。

・自分の頭頂が、前々から気付いていたのだけど、かなり禿げ始めているから。

・収入がないから。

・もう3年くらいセックスあるいはそれに準じた行為をしていないから。

・なんとなく。

・相変わらずアロエじみているから。

等々。

「だいたい、何で俺はこんなところにいるのだろう。何しに来た? 目的が不明だ。気付いたら時間が経っていて、水族館みたいな、青白くて、陰気な場所にいる」

「なあ、あんた、さっきから独り言が気持ち悪いよ」

耳元で吐息混じりの声。クラゲ人間は少し感じてしまう。「久しぶりだから仕方がないよな」

 

話しかけてきた中年小太りの男性とホテルに入り、クラゲ人間は性行為をした。

 

それから色々あって、クラゲ人間はトシコと仲直りし、結婚した。

 

「ということは、俺は陸にいるべきなんだよな?」

「知らないわ。あたしが知っているのは、明日、あたしは人気アイドル、マスカキ悟朗くんの自宅に無断で侵入、無断で彼のヌードを撮影し、無断で彼に毒物を注入して殺害。無断で彼の遺体を剥製にして、無断であたしの夜のオモチャにするってことだけよ」

 

「あんた、淋しいのか?」

中年小太りの男は言った。

クラゲ人間は頷いた。

「わからないことが多くて」

「そうかい」

「なんでなんだ?」

「何が?」

「わからないことが多いことが」

「ん?」

「けっこう調べているつもりなんだけど」

「そんなもんだろう」

 

トシコは4人の子どもを産んだ。

みんなクラゲ人間だった。

 

トシコは子ども達を大きな鍋に入れ、煮詰めた。子ども達はアロエみたいに溶けてしまい、トシコは笑いながら、「美容に良いに違いないわ!」と叫んだ。

 

かなりの月日が流れた。トシコは色々な凄い病気にかかり爆死した。中年小太りの男はいつの間にか死んでいた。

 

水族館は閉館されていた。

ひび割れた外観。クラゲ人間は、そんな水族館を見つめた。

冬の風が、クラゲ人間の頬を掠めた。

淋しい……とにかく、淋しい老後だ。

「そんなことはないさ!」

まさしく元気溌剌! NHK教育テレビの体操のお兄さんみたいな感じの声がした。そう遠くはない。

 

「とにかく、俺は独りぼっちだ。トシコ……お前はたしか、52回ほど逮捕されていたな」

 

「そんなことはないさ!」

再び声。同性愛者からの歓声を受けそうな男らしい、元気いっぱいな声。思わず喘ぎ声を妄想してしまいそうな声。

クラゲ人間は後ろを向いた。

「やあ!」

手を挙げた男。全身タイツ。屈強な肉体。それとはかなりギャップのある、愛くるしい童顔。「やあ! 僕、元気いっぱいで有名な! サイトウマサシです!」

面倒なことになりそうなので、クラゲ人間はサイトウマサシを完全に無視した。

 

2ヶ月ほどでサイトウマサシはクラゲ人間につきまとうことを止めた。

 

「海よ……」

荒波の日本海を前に、クラゲ人間は呟いた。しかし、その声は、激しい波の音によって、すぐに押しつぶされてしまう。

「報告したい。俺、実は妊娠7ヶ月なんだ」

クラゲ人間は頬を染めた。

「あんまり見ないで……恥ずかしいから」

「良いじゃないか」

「いや、いやよ」

「ブヘヘ、かわいいヤツだな、お前はよお」

「そんな……恥ずかしいです」

「ここは?」

「あんっ! ダメ!」

「良いのか? 良いのか?」

「あっ、あっ、い……やぁ。んっ、はぅ」

興奮したクラゲ人間は海の中に入っていった。

 

「やべっ!」

次の瞬間、クラゲ人間は沈んでいった。ア全身が溶けていった。

「さようなら! さようなら!」

サイトウマサシの元気な声。「今頃ストーリーに絡んで来られてもなあ……」

クラゲ人間は苦笑した。

2009年3月28日公開

© 2009 ガラ・トシオ

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バカ ほのぼの 幻想

"クラゲ人間"へのコメント 1

  • ゲスト | 2011-12-15 12:40

    これは最高。
    とにかく面白い。

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