カオスな休日

ガラ・トシオ

小説

2,029文字

適当なクラシック音楽を二つ以上混ぜ合わせることで生まれるカオス。その中で、「俺」とミツコ、そしてマナブが考え続ける。そして伝統的な踊り「マニョモンチェ」とは。

適当なクラシックの曲を2曲以上混ぜ合わせた音楽。それを流すと、室内はカオス状態になり、知らないうちに俺は勃起しているのだ。

休日になるとドアが叩かれ、青い顔をした女である、ミツコが入ってくる。カオスに惹かれてやって来たのだ。

「あたし、ソーダが飲みたいの。お尻から」

俺はペニスを露出させながら、ミツコの肛門にソーダを流し込む。「ああ! 良い感じ!」

俺は天井にくっついている一匹の蜘蛛を見つめた。蜘蛛は灰色にも、黒にも、青にも、赤にも、紫にも、黄色にも、あるいは透明にも見えたのだけれど、いまいちわからない。しかし、俺は色盲ではないから、わからない理由もわからないのだが。

ミツコは盛大に屁をこく。すると、大便とソーダが、リノリウムの白い床にぶち撒かれる。壮絶な臭気が漂う。俺は眩暈を起こし、転倒して、後頭部を強打し、鼻から大量の血液を放出した。ミツコは甲高い声で笑いながら、携帯電話で救急車を呼んだ。ありがとうミツコ。早く死んでくれ。

 

塩酸を顔に掛けたい。そんな欲求がミツコにはある。20年前から。

「わたしの美しい顔がドロドロと、美味しいチーズフォンデュみたいになるの。素晴らしい光景よ! きっと!」

という台詞を、ミツコは自身のテープレコーダーに録音し、近所の家の郵便受けに入れたりしていた。

 

目が覚めた。薄暗い病室のようだ。誰もいないらしい。個室なのだろうか。

「入りますよ」

ドアの向こうで声。ノブが回され、中に白衣の男が入ってきた。男は髪の毛が右半分なくて、左半分は金髪だった。

「どんな感じですか? 何か、お腹にやばい感じの、何か、アレがあって、それから、あなたが昨日食べたステーキ的なものは、私、あまり好きではないのですが」

トイレに入り、鏡を見つめる。そんなにイケメンではなくてがっかりした。そうしてだろうか。人間は平等なのだと、小学校の道徳の教科書では言っていたのに。まさか、学校が嘘を教えるために労力を使うとは思えないけどなあ。あの面倒くさがりな教育機関が。

しかし、現に俺の顔はイケメンではなく、むしろブサメンの部類に入る系統だ。

「俺は学んだ。この世は平等ではない。だって平等だったらみんな同じ顔だしね」

鏡に拳をぶつけた。鏡は割れず、割れたのは俺の肩胛骨だった。あと、肩を脱臼したらしい。よくわからない。尾てい骨も砕けたかも。

 

マナブは髪の毛のない方を撫でた。そして考えた。医者でもない自分が、なぜ、白衣など着ているのだろうか、と。全く記憶がなかった。

「俺はつい二時間前まで、愛猫であるチャーチル23世と、鬼ごっこ、そして熱いセックスをしていたはず。今でも、俺のペニスは脈打っているから、それは間違いないことだ」

 

伝統的な踊り「マニョモンチェ」は、ペアが互いの足首を舐めあい、それから立ち上がり、お互いの頬を舐めあい、それからまた座り、お互いの足首を舐め合う。そんなダンスだ。この伝統的な踊りは、主に関東地方の山の中、および、農村地帯、および、その辺の住宅地で、たまに行われていたりする。「マニョモンチェ」の名付け親である佐藤メッサボーン真砂子さんは、こう語った。

「ええ、そうです。科学的な根拠はないけど、私の、そうです、左を曲がり、そうすると犬がいるでしょう? ところで、私は猫派ではないの。っていうか、動物がそもそも嫌いなのね。だから、動物愛護とか意味不明なわけ。あとは何か動物に感情移入したりするやつ、あれ意味不明なのよ。みんな檻に入れておくべきなのにね。だって危ないじゃないの。クマとか、トラとか、それに、可愛いとか言っているけど、パンダって超強いらしいのよ、知ってた? あれもいい加減にして欲しいわよね、動物への危機感を減らしてしまうのは危険よ。とにかく、私は先日バームクーヘンを食べて、それが非常に不味くて、美味いとかほざいていた店員に殺意を覚えたって事よ」

 

適当なクラシックの曲を2曲以上混ぜ合わせた音楽。屋上ではそれが絶えず流れていた。俺は空を見ていた。真っ黒。ここは田舎のはずだが、星なんて一つもないのだ。俺はポケットからコアラのマーチを取り出して、バリバリ、出来る限り格好良く、ワイルドな感じで食べた。

「汚いな! あんた!」

横で声がした。病室に来た、白衣の男だった。お前のブルドックみたいな面の方が余程汚いわ! ボケカスアホ! と、俺は言った。口パクで。

「それに、あんたの顔、酷いな」

俺はぶん殴りたい欲求、殺害して、チェーンソーでバラバラにしたい欲求を感じた。だが、俺はコアラのマーチが大好きなので、とりあえずコアラのマーチを食べた。

「なあ、あんた、俺とマニョモンチェ踊らないか?」

気持ち悪い男が俺の頬を舐めてきた。しかし、不思議といい気持ちだった。

「あっ、気持ちいい……」

「いいの?」

「うん、凄くいい」

「じゃあ、いいかな」

「うん、早く……」

俺達はマニョモンチェを朝まで踊った。流れ続けるカオスの中で。

2009年1月11日公開

© 2009 ガラ・トシオ

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"カオスな休日"へのコメント 2

  • ゲスト | 2009-01-23 18:01

    3頁2~3行目の「そうしてだろうか」は誤記でしょうか? 

  • ゲスト | 2009-02-15 11:25

    「白鳥の騎士」さんご指摘ありがとうございます。
    そうですね。これは「どうしてだろうか」ですね。Dの隣がSなので、多分打ち間違えたのでしょう。

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