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あの日、君は海えと消えた (5)

あの夏、君は海えと消えた(第5話)

秋山優一

それから拓実は苦悩によりサーフインの事なんかどうでもよくなっていく

小説

2,478文字

自宅に着いて母親の料理を食べていても、美味しいという感情はなく、何処か命を繋げる為の作業としか拓実は感じなかった。
みどりがこの世からいなくなるはずはない、。きっと大丈夫だ、と自分に言い聞かすも、彼女が苦しんでる様子からしても、普通の病気ではないと薄々認め、拓実は現実を受けとめられずにいた。
拓実の母何か拓実に嫌なことがあったのではないかと、思春期ならではの悩みがありそうな気がしたので、これ以上拓実に話しかけずにそっとしておいた。
食事が終った拓実は直ぐに風呂に入ってシャワーを浴びた。風呂から上がり体を拭き、髪を乾かした拓実はそのまま自分の部屋に引きこもった。
壁を一点に見詰めながら、抜け殻の様に暫く動かなかった。
部屋は無音でただ時計の針の音だけが静か動いている。
放心状態の拓実は何も考えることができず、そのまま布団の中に入り、目を瞑っていた。
現実を受け入れたくなかった。残酷な日常がこれからも続くと考えてしまうと、胸を締め付けられそうな気持ちになり、もうこのまま一生目が開かなくてもいいとさえ思えてくる。
どうすることもできない苛立ちが拓実の睡眠を妨げ、体を起こした。
「駄目だ。寝れない」
拓実は起き上がりスマホをいじりだす。
虚ろな目で自分のSNSのアカウントにログインして様々な書き込みを見る。
エロ動画の切れ端。又大物の配信者が大金を使って店を貸し切りにしてふざけた遊びをする動画、食い物を地面に叩きつけて、潰れた食い物の上にねっころがって遊ぶ40代前半の男。
拓実はどの動画にも興味を持てず、直ぐにスクロールして動画を飛ばすも、なんだが自分の人生とは関係のない無意味な時間が流れているとおもい、スマホの電源を切った。
明日も学校があるというのに、拓実はみどりのことを考えると、悲哀が感情の波を襲ってくる。
大きな溜息をつくと拓実は立ち上がった。
「海に行こうかな」
時刻は夜の十時を回っていた。精神状態が普通じゃない拓実はとにかく外に出て気分転換をすることで寝れるんじゃないかと考え、私服に着替えた。
着替え終わると、拓実は親にみつからなようにして、家をでた。
自転車に乗って五分位で大洗ビーチに着く。
大洗ビーチ近くの公園は、何個か街灯が着いており、海辺の方は外灯はなく暗いのだが、この公園には何個かある外灯のお陰で夜も明るい。
拓実は自動販売機で適当に炭酸系のジュースを買って木製の椅子に座って夜空を眺めていた。
「人間の寿命てなんて不平等なんだ。俺の寿命。俺の寿命をみどりに分けあたえることができれば……」
そう独り言を呟やいていると、男性が急に拓実の椅子の隣に座ってきた。その男の方に首を向けると、あの霧の中から拓実を助け出してくれた男が股間を掻きながら、頭も掻いていた。
「ああ、痒い。変な所を蚊に刺されてキンタマが痒い。やっぱり裸で寝るもんじゃなかった」
あの時、助けて貰った男性に、拓実はお礼を言ってなかったと、ふと思い出した。
「あ、あの時はありがとうございます。助けてもらって、もう少しで死ぬところでした」
頭を下げた。
「いいんだよ。困ってる時はお互いさまてやつだよ。それより、なんか悩んでるみたいだけど、俺の寿命を分けてやることができれば、て言ってたな」
「はい。彼女の病気がなかなか治らなくって、それも半年位長引いてる不治の病で、いくらしべても医者も分からない病気らしいんです。もしかしたら彼女が近いうちに亡くなるとおもうと寝れなくて」
男は股間を掻く手を止め、ジーンズに手を入れる。それから少し笑った表情で話しだした。
「じゃあどうする。本当に命を分けることができるとしたら。君の寿命を半分減らして彼女に与えることができるならやるかい。四十年分を彼女に捧げて、君は四十歳で死ぬ。いやもっと早く死ぬかもしれないけどどうだろう。彼女に半分命を与えるかい」
「そんな力本当に持ってるんですか」
男は暫く黙っていた。そしてにやにやしている。
「どうなんですか」
拓実は本気で怒った口調で言ってしまった。
男は拓実の方を振り向き、
「そんなことできるわけないじゃん俺が。命が不平等て、人の人生なんてもともと差があって生まれてくるもんだよ。何処の国で生まれたか、何処の家庭で生まれたか、どういう地域で育ったか、全ては神の気まぐれできまる。でも、これだけは言えることがある。一日一日気分良く生きること。楽観的に生きていれば思考も変わるし、気分も変わる。また新しい自分に出会えるてやつさ」
「でも……」
拓実が俯いていると、男は答えた。
「俺は死神なんだ。人が死を迎えそうな人の元に現れる死神。本当に彼女に命を半分与えるか」
拓実はこの時核心した。やはりあの海が突然と霧に覆われた時に、霧の中を迷わずに浜辺まで助けてくれた男はたぶん人間ではないような気がしていた。今自分の目の前に入るのは本物の死神なんだと。
拓実は心臓の鼓動が張り裂けそうなおもいで言った。
「お願いします。みどりに命を半分分けあたえて下さい」
男は大笑いして拓実の肩を叩いた。
「冗談だよ冗談。俺も色々君みたいに悩んでいた時期があったよ。俺もさ、もう一度戻りてえな君ぐらい年に。悩めるて羨ましいよ、それが生きてる証拠てやつだからさ。まあ、頑張れや少年。じゃあな」
男はゆっくりと椅子から立ち上がると、腰を手にあてて去ってしまった。
「馬鹿にしてんじゃねクソジジイ」
拓実は大声でその男に聞こえるように怒鳴ったが、何時の間にか男は消えていた。
一回頭を冷静にしてあの男が言っていたことを思い返すと、確かに命の寿命なんてものは人それぞれ分からない物であり、生まれてくる場所も選べるはずはない。
人の一生は神の気紛れであり、人はそれを動かすことはげきない。しかし、楽観的に物事を考えることで新しい柔軟性のある自分に出会い、又新しい考えや心の持ち方はあるかもしれないと、拓実は考えさせられた。
そう考えてるうちに、拓実はなんだか怒っていた事がアホらしくなってしまい、明日学校ということもあってか、ジュースを飲み干すと自転車に跨り家に帰るのであった。

 

© 2026 秋山優一 ( 2026年8月24日公開

作品集『あの夏、君は海えと消えた』第5話 (全8話)

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