久しぶりに再会した悪友は以前に比べて派手になっていた。斑に脱色された髪、左右の大量のピアス。
中学の時はクラスの真ん中にいようが前にいようが誰の目にも止まらないぐらい地味な奴だった。勉強もできたわけでもない。それくらいのほうが一緒に”悪いこと”をする上では都合がよかったのに。
あれか、高校デビュー的なやつなんだろうか。
互いの変わりようを弄りながら(でも僕は変わっていないはずだが?)駅前のカラオケ店へ入る。
受付でやる気のかけらもない店員が気怠そうに「おタバコは吸われますか?」と問う。
僕が答えるより先に悪友が「あ、吸いまーす」と答えて灰皿をゲットした。店員は年齢確認はおろか、注意すら向けてこなかった。
三階の角部屋はとてつもなく狭かった。こんな中でタバコを吸うってなったらすぐ燻されそうだ。
「ダイちゃん、不良じゃん」
「あっ君も俺と変わんないじゃん」
「違うよ、僕は真面目でいい子」
「真面目でいい子だったら学校サボってないし」
そりゃそうだ。
大人の目の届く範囲でただいい子を演じているだけのバカだ。でも、それに気づかない大人はもっとバカだと思う。
世の中はバカばかりだ。そんな世界が嫌いだ。
ぷかぷかと煙を吐く悪友が何かを察してか吸う?とタバコを差し出してきた。
興味本位で差し出されたそれを咥えてみる。
一口。これの何が美味いのかわからないけれど、ひとつ言えるのは絡み合った思考が煙に包まれて鎮まったことだ。
燻されていく。
母さんは気付くだろうか。気づいても何もないことにするんだろうか。自分の息子はいい子だから、そんなことするはずないって。何かの間違いだって、そう言い聞かせながら。
カラオケでちょっと歌ったものの思ってたよりも盛り上がることなく、すぐに飽きてしまった僕たちはダイちゃんの家に行くことにした。
駅のロッカーに押し込めていたブレザーを回収した時、ダイちゃんがじっと見ているからどうかした?と尋ねた。
「んや、ブレザーいいなって思っただけ。うちの学校私服だから」
「私服のほうがよくね?」
「えー」
そうでもないし、と小さく言ってダイちゃんは笑った。
久しぶりに来た古いマンション。エントランス周りは少し修繕されているのかいくらか綺麗になっていたが、エレベーターは以前のままだから妙に空間の中で浮いている。エレベーターに乗りこんで五階へ向かう。こういうとき黙ってしまうのはなぜだろう。
ダイちゃんは玄関を開けると、足元を見て「ちょっと外で待ってて」と言ってドアを閉めた。僅かに話し声が聞こえる気がした。来ちゃまずかったかもしれない、そう思って帰ろうか考えているとまたドアが開いてダイちゃんが小声で「ごめん、親が寝てるからあんまり騒げないけど入って」と言った。
「なんか悪いから帰るわ」
「あー、気にしなくていいって」
余計に気になるんだけどなぁ。とはいえそれ以上断ることもできずに僕は中に入った。
大小さまざまな靴が散乱する玄関の隅に自分の靴を寄せて中に入る。埃とほんの少し生ごみの臭いがする。廊下だというのに脱ぎっぱなしの服が落ちていたり段ボールが立てかけられていたりしていた。
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