小林TKG

小説

2,122文字

餅の事を書きたく思いまして、書いてみました。

年始を少し過ぎた頃、突然、『お餅が当選をしました。』というメールが来た。突然の事だったので、私は何か詐欺的なことを疑った。
「お餅?」

驚いた。びっくりした。父が死んだという連絡が来た時の方が、まだ驚かなかった。

父が死んだ時は、
「ああ、そうですか」

っていう感じだった。それは何も、冷血とか、血が通ってないとか、人の心があるのか、とか、そういう話ではなくて、ただ、父の死はあらかじめ、前もって予見できたから、だから驚かなかったのである。突然死だったらびっくりしてたと思う。交通事故とか、通り魔に刺殺されてたりしたら、それはもう驚いてたと思う。
「嘘だろ!」
「マジかよおい!」

くらいのことは、それくらいのリアクションはとっていたと思う。現にそんなに知らない職場の人が、木曜日だったかに、話をしていた人が、土日、週末が明けたら、死んだって報告された時は驚いた。
「マジすか!」

って思わず言ってた。
「マジすか学園シーズン3!」

とかって言ってた。

でも、父の場合はそういうのじゃなかったので、だから驚くことをしなかった。驚くことが、死んだという報告に対して、いいリアクションをすることが死者の鎮魂に繋がるんだとしたら、私が、冷血であったり、血が通ってないと言われたり、人の心があるのかと、誹られてもそれは詮方ないとは思うが、そういう訳でもなかろう。むしろそれでは、死者を困惑させたり、迷わせたりするだけではないのか。
「死んじゃって申し訳ないなあ」

って死者に思わせてどうするのか。あの世への、その人が最終的に天国に行くのか地獄に行くのかは定かではないが、ともかく人は死ぬと、死出の旅路に出るのだそうだ。その道程に迷いを生じさせるのはどうなのか。ただ歩くのだって迷いがあると、なかなか進まないと感じるのではないか。

人は死ぬ。生き物は死ぬ。生まれたからには死ぬ。

人によって、遅い早い。早すぎる。などと言うが、私にはそんなものはないように思う。遅かれ早かれ死ぬ。

だから、だからってこともないが、父の死の際は驚かなかった。我ながらよくできたと思う。

知り合いの方の場合は驚いてしまったので、私もまだまだ頑張りが足りないなと思った。でもその分よく祈った。死出の旅路の間、その人の足元を照らすのは、生きている人間の祈りなんだそうだ。だからよく祈った。いや父の場合も祈ったけども。実の父が死んだのに祈らなかったってことはない。それこそ、冷血とか血が通ってないとか人の心があるのか問われる案件だ。父の場合も祈った。知り合いの場合は突然のことで、寝耳に水の事で、ほんとに寝てる時に耳に水、ホースで水注ぎ込まれた時くらい驚いてしまったので、その分よく祈った。驚いた分、多めに祈った。それだけの話。

そんなわけで、お餅。お餅が当選したというメールが来た時は、それを見た時は驚いた。

父の死の連絡が来た時よりも驚いた。

知り合いの人が死んだって、月曜日に言われた時くらい驚いた。
「お餅?」

身に覚えがなかった。だから、当然、
「新手の何かか」

詐欺的なことを疑った。ネット犯罪は枚挙にいとまがない。よく知らないけど、でもそんな話はよく聞く。クレカのスキミングとか。頼んでもいないものが送られてきて、うんたらかんたらとか。

私もそのメールに対して、そう言うものを疑った。あと、
「わー、こういうの本当に来るんだー」
「初体験だあ」

などと、ちょっと浮かれた。詐欺的なものが来ると言うことはつまり私も、こんな生きているのか死んでるのか分からない、場末の人間の私も世界に存在しているという証明というか。
「私も宇宙船地球号に乗ってるんだなあ」

っていう感じだった。

しかし、よくよく、しっかりと、姉にダブルチェックなんかを頼んで、示唆呼称して、指差し確認して、チェックシートを用いて確認してみると、詐欺でもなんでもなく、それは確かに私が応募したものであった。昨年末、バタバタしていた頃に、実家に帰省するとか、そういうのがあって、電車の切符の手配だ、実家との日取りのすり合わせだので、バタバタしていて、そのころに応募していたものであった。
「ああ、あれかあ」

詐欺的なものではないと知ると、現金なもので、途端に、
「ああ、あの餅がなあ」

と、感慨深い気持ちになった。

それから餅について考える時間が増えた。年末年始、実家に帰省しながら、お正月をたれぱんだのように、腐りかけたブルーチーズのように、それこそ、レンチンしてだらしなく伸び切った餅のように過ごしたのに、餅は食べなかったなあ。

だから、まあ、あれか、ちょうど良かったのかなあ。

なんてそんなことを考えながら、過ごす時間が増えた。

餅について考える時間が増えた。

お餅、届いたらどうやって食べようかなあ。

そんな風に考えて過ごす時間が増えた。
「いい機会だし」

お雑煮とか作ってみちゃおうかしらん。

いや、

お汁粉にしようかしらん。

鍋に入れてみたりしちゃおうかしらん。

そういう風に過ごす時間が増えた。

あ、でも、ちょっと待って、お正月お餅食べたな。海苔巻いて醤油つけて、焼いたもち食べたぞ。

お餅ついて考える時間が増えた。

お餅はまだ、届かない。きっと届くまでお餅について考える時間は増えたままだと思う。

2025年2月21日公開

© 2025 小林TKG

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