小林TKG

小説

2,247文字

最後の一単語は、なんとなく書いてしまって後で消そうかと思ったんですが、時間が経つにつれて気に入りました。

冬になると、鍋が美味しい時期になりますよね。そんなの今更かも知れませんけども。今更、もうみんな知ってることだとは思うんですが。全人類が。でも私は今年、今冬、それを実感として得たんです。実感。手応えとして。それまでだってそれを、そのこと、冬になると鍋が美味しい。と言うのを情報として得ていたんですけども。でも、得ていただけだったんですね。今までは。きっと。

でも今年、今冬、昨年の十二月頃から、一月頃にかけてそれを実感、体感として得た、得直したものですから。だから、こんな浮かれたものを書こうと、書いているんです。

不思議なことだと思います。鍋の美味しさは、子供の頃からわかっていたんです。今までだって、子供の頃だって、大人になってからだって、わかってたんです。それなりにわかっていたんです。
「冬は寒いから、鍋が美味しいよね。わかるよ。そんなことわかってるって。わかってるに決まってるじゃん」

って。

でもやっぱり、きっとわかっていただけだったんだろうなと思います。

わかっていたつもりだった。理解したつもりだったのんじゃないかなって。

案として自分の中にあったものの、実用には至っていなかった。

そう考えてもらえると、わかりやすいでしょうか。

埋もれた知識、技術だったというか。

クリストファー・ノーラン監督のバットマンシリーズで、バットマンの会社に応用科学部と言う部署があるんです。モーガン・フリーマン演じるルーシャスが在籍している部署です。その部署、応用科学部といえば聞こえはいいですが、要は会社の不用品をまとめて押し込んでいた物置だったんですね。会社で開発してみたものの、実用性、コストパフォーマンスとかそう言うのの面で実用に至らなかった品々を、例えばバットモービルとか、そこにまとめて放り込んであって。

それでそれらを使って、あるいはそれに更にルーシャスが改造を施したりして、それがバットマンを誕生させるんです。更にいえば、その中のある品物に悪党、リーアム・ニーソン演じるラーズ・アル・グールが目をつけてそれを悪の道具として利用したりもするんですけども。

私が今まで持っていた鍋についての感情もこれだったのではないかなと。鍋の美味しさ、素敵さ、楽しみかたの一旦を理解、実感として得た時に、そう思ったんです。

鍋の美味しさはわかっていた。

わかっていたけど、今までは他人事だったというか。

でも実感として得たから、今年、今冬私は、それを実感として得たので。だから、今こう言うものを書いている。書けている。

のではないかと、私は思うんです。

正しいかどうか、それが善か悪なのかは、この際脇に置いて。

その鍋、鍋の美味しさを私に教えてくれたのは、まいばすけっとです。冬の鍋の美味しさを、知ってはいたものの他人事だった私に、根気よく、丁寧に、懇切丁寧に教えてくれたのは、まいばすけっとです。

昨年、もう年末が見えてきた頃、まいばすけっとに行ったら、そこに、おひとり様用の鍋、鍋焼きうどんみたいな、アルミの容器に入った鍋が売られていて。

一つ五百円で。

もつ鍋とか、塩ちゃんことか、キムチ鍋とか、ミルフィーユ鍋とか。

それを私は今年、今冬、何個買ったかな。わからない。もうわからないな。

まいばすけっとは家から遠いところにあります。

そのまいばすけっとで買い物をすると、その後、それを持って、バスに乗らないといけないし、電車にも乗らないといけません。

でも私は、今年、今冬、すごく沢山の鍋を、おひとり様用の鍋を買いました。まいばすけっとで買いました。

まいばすけっとでおひとり様用の鍋を買って、週末前なんて、土曜日と日曜日用に、ふたつ買ったりもしました。

そんで、それを家まで持ち帰って、家まで輸送して、平行に、傾かないように持ち帰って。初めて買った時、帰りに斜めにしちゃって、鍋の底のジェル。にごこりみたいなのが袋の中でこぼれてしまって、参った。それからは厳重に、気をつけるようになった。

家に帰ったらIHコンロに乗せて、煮立つのを待つんです。煮立つまでの間に、着替えたり、お酒の準備をしたりします。準備が終わったら後は鍋が煮立つのをただじっと見ます。ドラム式の洗濯機が衣類を洗っているのをただ眺める人みたいに。

そうして寒い中、暖房もつけずに鍋を食べながら、お酒を飲むのです。
「ハフハフ」

と言いながら、食べるその一口目よ。
「ああっ」

その甘美さよ。
「いぎいっ」

そのエクスタシーの度合いよ。

 

ヘヴン状態。

 

しかし、

これだけだと、鍋の美味しさ、素晴らしさ、を実感したとは言い難いと思うんです。これはできた鍋を食べてるのと一緒です。実家に暮らしていた頃、晩御飯に鍋が出てきたのと一緒です。

実感した、実感を得たと言うのはこの後です。

まいばすけっとで、鍋を買う際は必ず肉一パックと、カット野菜を買うんです。カット野菜が売り切れてたらキャベツとかでもいいです。ほうれん草とかでも。もやしでも。サラダ用のカット野菜でもいいです。

まいばす鍋を綺麗に食べ終えて、具材をさらってから、汁だけ残ったそれに、これらの買った品物をぶち込むんです。

おかわり。

鍋のおかわり。

おかわりだよ。

野菜は最初に入れたい。

シャキシャキが好きな人は考えないといけないとは思うけど。

それで、肉は最後がいい。

あんまり熱入れすぎると、硬くなるから。

それがうまくて。

もうたまらないくらいうまくて。
「イグぅ」

ってなるんです。

再びのヘヴン状態。

楽園。

 

エルドラド。

 

2025年2月20日公開

© 2025 小林TKG

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