課題部分までで、桧川の共犯は的場であり、その助けを得て桧川は犯行を遂行した。的場の動機は「家族の復讐」というところまで明らかにされている。
負傷したが死ななかった的場が怪しいのはミステリの常道すぎであり、これだけで残りの頁が終わるとは考えにくい。
他方で、シリーズ探偵キャラの加賀の推理でもあるので、まるっきり違うということもないのだろう。
そこで、的場が共犯であることを前提にこの先の可能性を考えてみる。
まず的場の動機を先に済ませておくと、被害者の洋一は大病院の院長であり、創作においてはたいてい悪いことをしている。それで過去に被害を受けた家族の復讐ということでいいのだろう。
ポイント① 防犯カメラの破壊
機能していない防犯カメラは2つ。その一つの高塚家のものは桧川が破壊したことが確認されている。これは間違いないとみていいだろう。
もう一つの栗原家のものは、破壊といってもSDカードを抜いておくというもので毛色がだいぶ違う。
しかも別荘内部に侵入しなければならずハードルが高い。
ここで、さらなる共犯の存在を考えたい。ハードルが高いといっても外部犯の場合である。内部の者であれば簡単である。
そう、共犯は朋香である。
ただし、共犯といっても、監視カメラを切っておけば騒動がおきる程度の認識であったのだろう。そのため、冒頭で両親の遺体発見時にショックを受けているのである。
ポイント② 5本のナイフ
三本は残っており、それぞれの被害者の血痕と桧川の指紋が残っている。
別人が指紋を残さずに刺して、あとから桧川が指紋だけつけたとか、指紋付きのナイフを受け取っておいて消さないように刺すだとかトリックもありえないこともないが、普通に桧川に襲撃させた方が早い&確実なので、ここは素直に桧川の犯行とみていいだろう。
問題は、見つかっていない2本。
一本は的場の自作自演に使われたと思われる。これには疑問があって、桧川のいるところであれば、桧川に刺してもらい指紋を付いたナイフを残しておく方が偽装としてよい。そうでないということは、的場のみで行ったはずである。すなわち的場が自分で刺した後にそのナイフを処分したことになる。
ただ、これだとあまり遠くに捨てることが出来ない。後の捜査で発見されてしまう気がする。作中では桧川が供述しないので、型どおりの捜索、実況見分しかしていないとのことだが、人員を動員して別荘一帯をしらみつぶしに捜索することくらいはするのでは?(重大事件で、特に凶器が足りない状況なのだ)と思うのだが、ここは供述がないと見つからないという前提でいいだろう。
さて、もう一本は桂子殺害のものである。桂子殺害は一番特殊といってよく、邸宅内部であり、かつ、他の大人たちが出かけた隙に行われているというハードルが高いものである。外部犯からすればタイミングが難しく、しかも間違うと通報や取り押さえられる危険も大きい。
これを解決するのはやはり内部犯である。犯人は海斗である。小6であれば体力的にも可能であるし、被害者の不意もつきやすい。ナイフだけ桧川から受け取っておき、タイミングをみて犯行に及んだのだ。犯人らしき者を見たというのは虚偽供述である。犯人と断言せずにあまり強く言い出さなかったことは自然なふうを装って信用性を高めるための偽装にすぎない。
動機は、両親を試す被害者への恨みである。両親は納得ずくだが、海斗はそうでなかったというわけである。両親は裏では愚痴をすぐにこぼしており、海斗が情報を得るのは難しくなかった。
ポイント③ 共謀の過程
桧川は自殺サイトから知り合った者に履歴の残らないアプリで連絡を取り合ったと推測されている。
自殺サイトと言えば、ティーンエイジャーホイホイであり、海斗や朋香とはここで知り合ったと思われる。
計画を取り仕切ったのは的場なのだろう。鉄砲玉となる人物が必要な的場は自殺サイトに目をつけ、事件の前から悪評があったと思われる栗林夫婦の情報を餌に桧川をリクルートする。桧川はネット上での「大悪人」を抹殺できる機会をもらって院長の殺害にも応じる。
的場はこの過程で海斗や朋香もサイトに出入りしていることを見つけ、計画に組み込んだ。
ポイント④ 英輔殺害の理由
最後に、英輔の殺害である。以上からすれば、外に出ていたところを、桧川にたまたま出くわし襲撃されたということになるのだろう。
計画された犯行の中で「唯一偶然による被害者」という構図でも、悲劇性があり、物語のエンディングとして締めることができる。
しかし、ミステリ的にはつまらないので、この人物にもウラがあるのだろう。
過去に、幼なじみの子にスポーツを教えたことが裏目に出て、という線も考えてみたが、それでは逆恨みが過ぎるし、色々遠い。静枝がらみも考えてみたが桧川による殺害の理由としてつなげにくい。
こういうのはどうだろう? 英輔は昔から自殺願望を抱えており、自殺サイトの運営者だった。自殺をしようと思っているが、自分では実行ができない。春那との結婚を経ても自殺願望だけが募るばかりである。そこで、桧川に殺してもらうことを計画して、今回の件を手引きした。真の黒幕は英輔であったのである。証拠や手がかりが全然無いの難だが。
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