森川栄治の死因はマッスルマスターゼットの中毒ではなく毒殺である。主犯は父の森川金治。従犯および実行犯は原口朝陽または堂上医師。
盗まれた村山弁護士の金庫には以下のものが入っていた。
1 森川栄治の遺言状(公開された第一遺言と第二遺言)
2 堂上亮は栄治の息子であることを証明する書類。これは第三遺言であり、犯人特定の後に公開するよう指示された。
3 森川銀治の隠し子に関する書類。これは銀治自身が言及している「ちょっとした書類」で、隠し子とは平井真人である。
栄治を殺す動機のある者
森川金治 栄治出生の秘密による。
堂上医師 妻を寝取られた上に子供まで生まされた。
栄治の出生の秘密
HLA型の兄弟の一致率は四分の一。もしも兄弟である金治と銀治のHLA型が完全一致していたとしたら、銀治が父親であっても生まれてくる子供のHLA型の確率は同じだ。
仮説1)体外受精しようとしたら夫の金治の精子が使えなくて、銀治のものを拝借した。これは妻である恵子が独断で行った。
仮説2)恵子はアメリカに渡る前に妊娠していて、渡米後検査した結果、偶然HLA型が適合したので子を産んだ。実は銀治の子だったが、金治は自分の子と思っていた。
マッスルマスターゼット開発中の巧未が、自らも服用してムキムキの体つきになったことから、筋肉コンプレックスの栄治にも勧めた。遺伝子に影響が及ぶ薬品なので、前もって遺伝子検査をしておき、服用前後で遺伝子の損傷がないか確認することになり、その結果、栄治が金治の実子でないことが判明した。金治は栄治を憎むようになり、栄治は深刻なうつ病を発症した。
亮の出生の秘密
元カノリストに載っている「堂上真佐美」とは堂上医師の妻で亮の出生直後に亡くなっている。栄治は第三遺言として亮を認知して村山弁護士に書類を託していた。遺産相続の観点から見ると実子の遺留分は二分の一で、実子がいたら父母分はない。森川金治にとっては遺産もさることながら、栄治が子を残すこと自体容認できず亮の存在は隠蔽したい。堂上も亮の出生の秘密を世間に知られたくなく、ここに共通利害が生じ、村山弁護士を殺害する動機も生まれた。
栄治殺害方法
実行犯は朝陽と堂上の両方の可能性がある。マッスルマスターゼットの注射器を持たせて罪を巧未になすりつけようとした。
仮説1)原田朝陽は金治あるいは堂上の意を受けて行動した。彼女は内腿の注射跡を唯一知る者であり、定之専務=巧未一派を犯人に仕向けることができる人間だ。栄治を毒殺すると共に、内腿に注射をした。雪乃が早朝栄治のもとを訪れるのを知っていて罠を仕組んでおいたのだが、注射器を持たせろと指示したのは金治。「注射器を見ると卒倒する」妻への残忍な復讐である。その後、朝陽は正義感からと見せかけて警察に出頭して、マッスルマスターゼットの毒性で中毒死したと示唆し、定之一家を追い落とすことに成功した。
仮説2)堂上は隣に住んでいるから、夜中に忍び込んで毒殺および注射をすることは容易である。内腿の注射痕を朝陽ならば発見すると踏んでのことだ。この場合、朝陽の正義感は本物である。願わくばそうあってほしい。
金庫盗難と村山弁護士殺人犯
村山は金庫が盗まれることを知っていた。盗難を持ち掛けて実行したのは堂上で、金治に第三遺言を見られたら亮の出生の秘密がばれてしまうと焚きつけた。もちろん金治と堂上が示し合わせての狂言である。村山の事務所で麗子と津々井がやり合っている最中に、金治が出来心で毒を盛ったと思われる。村山がろくに芝居もできないことを危ぶんで、咄嗟に手元にあった毒を使ったのだ。これは栄治を殺した毒でもあり、栄治の殺害が思いのほかちょろく済んだのに味を占めたのかもしれない。
栄治の遺言状
母親に向けられている。栄治はうつ病によって精神的には死に至っていた。原因を作ったのは母親である。命を与えてくれ育ててくれ、死も同然の苦しみを与えてくれた母親に対して、自分の死と財産を贈ったのである。その母親はまだ登場していないが、ショックのあまり倒れたのかもしれない。
森川拓未は殺人犯ではない
自分のプロジェクトのせいで出生の秘密が暴かれた栄治に対して少なからず罪の意識があり、村山弁護士と共に遺言状作成に関わったと思われる。栄治の容態を知っていた巧未は、ゲノムゼット社の株が国庫へ入るように算段した。金治に相続されてはたまらないからだ。麗子の兄を美女攻撃で篭絡するなど役人対策は抜かりない。
平井真人は何者か
銀治の隠し子であり森川製薬の乗っ取りをたくらんでいる。栄治殺害に一枚噛んでいるかもしれない。金治と一時的に手を組んで、定之一家を追い落とし、ゲノムゼット社を我が傘下に置いて、乗っ取りの布石を打とうとしている。
森川銀治の役割が今のところ分からない。第6章以降のキーを握る人物だ。栄治に似ていろんな女に惚れられた魅力ある男だ。早く続きが読みたい。
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