秋田を制覇した女

合評会2024年11月応募作品

わく

小説

999文字

例のごとく合評会参加できませんので、他の方の作品を優先して読んで頂ければと思います。忙しく小説を書けていませんが、書かずにいるのも精神衛生上悪いため、暇をみつけて書きました。今後も、この短さで参加できればと思います。AIに読ませると、教科書を食べるのは突飛すぎると指摘されました。魁クロマティ高校のオマージュだと説明したらAIも納得してくれました。AIからは『ハイパーヤンキーもの』と評されました。

 

女の奴がどうやって秋田を制覇したか説明してみようか。長らく秋田には本物のヤンキーなどいなかった。それまでは、イトーヨーカドー秋田駅前店で、売り物の電球をたたき割りまくったことで伝説になった『ニベさん』くらいしか、有名なヤンキーはいなかった。東京生まれの奴が転校してきて状況は一変した。おれは腹が減って教科書をよく食べていたけど、そのことをはじめて突っ込んでくれたのが奴だったから。

「教科書より資料集の紙のほうが食いごたえあるし」

秋田を制覇する話なんてしなかったけど、その一言で、もうこいつしかいないなっておれは思った。すぐにそれは間違いないと分かった。奴は男からも女からもほれられる見た目なのに、ほかの高校の校門前で小便でも大便でも何でもして、恨みをあちこちで買ったけど、ケンカは負けなかった。線が細いながら、東京で習ったクラヴ・マガっていうイスラエル特殊部隊の格闘術をマスターした奴の闘いぶりは、いつも相手を殺しはしないかとヒヤヒヤさせられるくらいだったから。

奴に弱点があったとすれば、バンドだった。そのころガレージリバイバルがはじまり、男二人女一人のスリーピースバンドながらストロークス気取りの音楽を奴はやっていた。バンドは確かに全員イケてて、ストロークスのメンバーたちにどこか似ていた。シンプルな音楽とは別で、バンドのなかは大混乱だった。常にメンバー全員で乱交状態だったから。

奴への腹いせに、ほかのメンバーが襲われたせいもあって、バンドは解散することになった。この二人のおもりをしながら他校を征服するのは大変だ、少なくとも奴はおれにそう説明した。バンドを解散したおかげで、確かに奴は音楽や恋愛にうつつをぬかすことはなくなり、秋田はようやく統一されることになった。奴は悲しそうに見えた。おれも悲しかった。秋田を統一しても、おれの生活は何も変わらなかったから。

そのうち奴が妊娠、出産した。問題は、それが誰の子かだった。少なくとも、おれのではないとだけは言えると思う。

バンドをやめた奴でも、態度だけは一流のバンドマンだった。出産後から、極度の薬漬けになったから。

誰の記憶にも残る卒業式の日のあの朝、校庭のど真ん中で、素っ裸で死んでいる奴は最高のロックスターのようだった。しかも、その隣では車が派手な煙をあげて燃えていたから。

こうして奴は伝説になって、秋田を本当に制覇したってわけだった。

2024年11月13日公開

© 2024 わく

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