山崎昌子は誰の〈身代わり〉になっているのか。
これが本作最終章の焦点であり、我々が第11章まで読んだ段階で推理すべき課題である。
〈身代わり〉とはすなわち、真犯人であり、身代わりになるからには、人生を賭してでもその人物を救わねばならないということである。
山崎昌子にそこまでの犠牲を強いる存在が、本書に登場しているだろうか。
物語は主人公たる田島記者と、その対をなす中村刑事の二人の狂言回しによって駆動している。
なぜ狂言回しを2人にする必要があったのか。視点人物が田島と中村でラリーをするほどに、山崎昌子と読者の距離は離れていくように感じた。
それはまた田島と昌子の心の隔たりとも比例しており、物語が進むにつれて、身体の距離の接近とは裏腹に、二人の心は遠のいていく。
最後に駅前で昌子に出くわしていても、何も話さず、そのまま離れていく田島。それきり直接的に山崎昌子は描写されない。
中村の捜査と、田島の回想で語られるのみである。そして、山崎昌子の犯行であるという客観的事実が積み上げられていく。
ただ1つ謎のままにされるのは、その動機だった。警察の筋書きである、久松との痴情のもつれは、明らかにデコイであり、それは山崎昌子の仕立てた偽のシナリオであることは明白。そう思わせるように仕込んでいるわけだ。ここではまだ山崎昌子の筋書きは生きている。しかし、田島が真相を暴くべく動き続ける。これは山崎にとって、計算外なのか、それとも計算づくのことだったのか。その辺に焦点を絞って、紐解いていきたい。
■死者:死因:容疑者
久松実(トップ屋、恐喝屋):罠による刺殺:山崎昌子(11章時点)
エンゼル片岡(本名片岡有木子、ストリッパー)25歳:事故死
田熊かね(青葉荘管理人):アルドリン過剰摂取:山崎昌子(11章時点)
沼沢時枝の長子 5年前に結婚後、流産
田熊かねの息子 6年前事故死
山崎昌子の両親 昌子成人前に事故死
■金の流れ
30万円 エンゼル片岡→久松実 6/5 N興行の小切手
20万円 10万円=山崎昌子貯蓄、10万円=沼沢時枝→山崎昌子→上野支店振り込み 10/30 事件は11月 田中春子名義
久松の預金帳には五十万円の残高が記載されている。
■プロローグ
彼=拳銃を持つ者
彼ら=敵。仲間の仇。罪を犯したが裁かれていない
拳銃=なにかの比喩か。銃口の先は敵か、自分か迷っている
殺意=仲間を殺した復讐=その執行は正義である
■残っている疑問
・田島と昌子は交際が浅い。犯罪計画の立案後に交際を始めている可能性がある。
・昌子は海で水着になっている。帝王切開などの様子はない。時枝長子の母である可能性はない。
・昌子が上京したのは四年前。時枝長子が流産した頃。
・昌子がバージンだったのは本当か。田島の思い込みではないか。
・聖蹟桜ヶ丘に久松実が現れたのはなぜか。
・罠の回収のとき、昌子は田島を誘導するような発言をしていない。が、例えば田島が逃げようと言い出した場合は、「様子を見てきて」などと言った可能性があるので、これはあてにならない。
・「テン」という久松のダイイングメッセージはなにか。→劇中ではずっと「天使は金になる」から「天使」であるとリードしているが、これはフェイクか。
・昌子は久松殺害時に「足音を聞いたような気がする」と発言しているが、その真意はなにか
・昌子は久松殺害後、駐在所に一人で待機している。
・道標を曲げたのは誰か。朝のうちに昌子が先回りしてやったと言われているが、共犯がいたと見るべきか。
・警察の捜査では同日の現場付近に不審者は見つかっていない。
・エンゼル片岡が強請られていたのはなぜか。
・久松が書いたメモ「天使は金になる」の真意は?
・前日(日曜日)にハイカーが5,6人三角山に登っている。
・エンゼル片岡が逃げ出したのはなぜか(結果事故死?)
・久松「天使が二人以上になると」発言の真意は
・バーエンゼルのママ:絹川文代はなんのためのキャラか
・田熊かねを殺害したアルドリンは誰のものだったのか
・アルドリンの販売中止は四年前
・エンゼル片岡は聖蹟桜ヶ丘で見られていない
・エンゼル片岡はデパートを辞めて沼津から上京してストリッパーになった
・エンゼル片岡が沼津を出る原因になったのは少年の溺死 六年前10/6
・エンゼル片岡が吉野玲子に残した手紙の所在(久松が回収した?そのあと片岡が30万で買い取った?)
・昌子似の男児「チカラ」の正体は?
■和服の後ろ姿は誰か
・エンゼル片岡ではない。
・絹川文代ではない。
・山崎昌子ではない。
・田熊かねかどうかはわからない。
・沼沢時枝かどうかはわからない。
・多摩療育園の看護師ではない。
***整理はここまで***
【最終章の予測】
・和服の女の正体は、沼沢時枝。
・多摩療養園にいた男児「チカラ」は四年前に流産となったはずので沼沢時枝の第一子。
・沼沢時枝がアルドリンを使用していたためにアルドリン児として誕生したが、田舎の名家であったために秘密裏に流産したことにされそうになったのを、時絵が昌子に託して逃した。昌子が上京したのはチカラを東京で見守るためである。
・久松実は、アルドリン薬禍を取材して多摩療養園を発見し、企業の責任を問う告発記事を準備していたが、取材の中で昌子に出会った。
・田舎の姉のスキャンダル発覚を恐れた昌子は、久松に記事の公表を止めさせるために20万円を支払った。
・だが、それ以上の要求をされたために殺害を決意。姉や他のアルドリン児の母親ら(前日に三角山に来ていたハイカー)と連携して罠を仕掛け、久松を殺害した。
・田熊かねは、姉らも来ていたことの目撃証言を得られそうだったので、時絵がまだ持っていたアルドリンを使用して殺害した。
・エンゼル片岡も強請られていることを知り、罪を着せるように計画していたが、運悪く事故死したために計画が破綻してしまった。
・昌子は無罪の証人として田島を同行させていたが、アルドリン児事件の発覚につながる恐れが生じたために、自らに罪を集中させて事件の沈静化を図った。
うーん。いまいち。
チカラが昌子の子かなとも思ったんだけど、破瓜周りのエピソードがあるしなあ。
自分で局部に傷をつけて、処女を装ったりってのは、さすがに考えすぎだよね。
とりあえず私からの提案は「時枝&昌子の共犯で、アルドリン薬禍を隠すために久松を殺害した」でした。
"田島が最後に北海道まで行く意味あった?"へのコメント 0件