「言っとくけど、復讐とかじゃないから」
理香は思い出したように付け加えた。それから、佐々木晴男の目をまっすぐ見る。再び視線から逃げようとした佐々木晴男であったが、理香の瞳を見るのは初めてのような気がして、目が離せなかった。
正面からまともに見る理香の瞳は、佐々木晴男が思っていたよりも大きく、白目と黒目の境目がくっきりとしている。理香はその目をさらに見開くようにして言った。
「勝手に想像するなよ。想像っていうのはほぼ暴力なんだ。勘違いしないように」
「なにを」
「いまここ、で生きてくあたしの復讐のために、子供作るとかないから」
「復讐と子供になにか関係あるの?」
「ないよ。ない。新しい存在が、新しく、いまここに存在しはじめるっていうことに、意味や役割を持たせる必要なんてそもそもないんだ。あたしはそんなことしないし。そんな権利ないし、いらない。そいであたしはわりと、ここで生きてく覚悟したってこと。ただのあたしがただの子供を産む。それはアリなんだってこと」
理香は、先程までよりもゆるんだ手つきで頭を掻き、ごろりと仰向けに寝そべった。
「まぁ、いいや。朝から腹立ててたら疲れた。この部屋暑いし」
理香は膝までまくりあげてあったオーバーオールのズボンを、太ももの真ん中あたりまで引き上げる。佐々木晴男は、むき出された太ももからも目が離せなかった。理香のふくらはぎや太ももは、主に筋肉なのだ、と思った。牧夫の置いていった雑誌の女のようにむっちりとした肉ではなく、伸びたり縮んだり自在に動く質のものなのだ。白や赤の筋で構成されていると思われる、見たこともないその肉質がどんなものか考える。
そして、佐々木晴男は思い出した。
以前にも一度、こうして意味のわからない会話をした後、理香は今と同じ姿勢で自分の前に横たわった事があったのだった。そこに牧夫が来て、その光景を見たから勘違いをしているのかも知れない。
半年前か、もっと前か。いつでもいいが、何故理香は俺の部屋で寝転ぶのだろう。
筋肉への興味が薄れ、理香の肉体が自分の前に横たわっているのだ、と佐々木晴男は思った。腹の下が疼く。勃起まではしていないが、確かな欲情が体の奥にあることを自覚する。
理香の長い二本の足が横たわり、接する隙間には影が出来ている。太ももの途中から足の指先まで肌がさらけ出され、ところどころ小さな痣や、掻いた跡のような傷がある。けれどうっすらと日に焼けた理香の肌は、滑らかに光沢を持っていた。理香の足は、きっと硬いのだろう。しなやかな肉が骨を覆い、関節の動きに合わせて伸縮する足は硬いけれど弾力があるに違いない。
理香が横たえた足を交差させると、太ももの肉が重なり合った。その奥にあの得体の知れない器官がある。理香にも間違いなくある、複雑な部位。
「しゃべりすぎだね」
理香は掠れた声で言って、手の甲を額に置いた。唇だけが動いている。濡れた舌が一瞬ちらりと見えたとき、佐々木晴男の陰茎は勃起した。
佐々木晴男は立ち上がる。向かったのはキッチンの横にある便所だった。
便所の鍵をかけ、慌しくズボンを下ろし、佐々木晴男は立ったまま勃起した陰茎をしごいた。昼間よりももっと強く握り、もっと早くしごいた。便所の壁に左手をついて体を支え、ぎゅっと目を閉じて右手を激しく動かす。理香の姿を頭から追い払おうとするほど、陰茎は硬く大きくなり鋭い快感が昇ってくる。息を殺し、声を漏らさないまま、放った。
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