絶滅者 25

hongoumasato

小説

1,525文字

「ワタシ」の次の標的、それは天導慈愛会、通称「天慈会」。

それは宗教などではなく、金の亡者の集まりー―カルト集団。

だがそこには、武力を持つ精鋭部隊がいて・・・

天導慈愛会。

 安易な名称。

 世間では「天慈会」と呼ばれている。

 だが会員――信者数は、優に一万人を超える。

 父をボロボロにした、あの邪悪な病院の経営母体――それが、天慈会。

 天慈会のシステムは、実に上手く作られていた。

 性別・国籍・貧富は問わない。

 無論、慈悲ではない。計算ずくだ。

 貧しい者達は、まず会の宿舎に住まわされる。

 そして自分達が栽培した無農薬の農作物を低価格で販売する。

 そうやって貧しい人々にも生活をさせる。

 その過程で仲間ができ、働く喜びを知り、生きている幸せを実感できる……。

 対外アピールの一環だ。

 会が最も欲しているもの。

 それは無論、金持ち。

 その金持ちの膨大な寄付。

 外面を美しくして、世間の信頼を勝ち取る。

 そして一人でも多くの金持ちを入会させる。

 一円でも多く寄付させる。

 国籍不問にしたのもまた、計算ずく。

 外国人に対して、未だ精神的鎖国を続ける日本。

 疎外感に押し潰されている日本国籍を持たない者達が、大挙して入会した。

 手付かずのマーケットを独占だ。

 会に信仰すべき神は無い。

 偶像崇拝も無い。

 代表者――「樹光」なる男が「大地と自然からのメッセージ」を会員に伝える。

 それは、教義にもなっている。

 組織拡大のため、会は芝居を打ち続けている。

 会員の子供を難病児と偽る。

 その難病児に樹光が「大地と自然」からのパワーを用いる。

 すると、その子の難病は完治する――胡散臭さ、ここに極まれり。

 だが、ここで活躍するのが、父をボロボロにしたあの病院だ。

 偽造のX線写真などを用いて、本物の医師(あの病院の医師であり、会員)が経過を報告する。

 この国では未だに、医者は患者にとって雲上人。

 その医師達の芝居の効果は絶大だった。

 それでも、信じない者達は多い。

 医師免許が印籠並みの力を持っていても。

 しかし、信じる者達がいる。

 必死にすがる者達がいる――実際に難病児を抱えている、親。

 もちろん、樹光が治せるわけが無い。

 そこで「大地と自然からのパワーが弱っている。人間達の環境破壊のせいで。さらなるパワーを引き出す必要がある」と言って、「パワー増進」のための「アイテム」を買わせるわけだ。

 二束三文の代物を、目の玉が飛び出る程の値段で売る。

 親達は、買う。

 子供の命がかかっているから。

 天慈会に医者の会員は多い。

 会が運営する児童施設で、優秀な子供を医学部に進学させるから。

 普通の医者が入会する例も多い。

 科学者には、純粋過ぎる者が大勢いる。

 会はそこにつけ込む。

「研究室だけが世界」の彼達を入会させるのは、海千山千の勧誘担当者達にとって、容易なこと。

 医師を初めとする科学者達の存在と活動は、新興宗教特有の胡散臭さを消す役目を果たす。

 科学者達は、消臭剤。

 天慈会は集金マシーン。

 金だけが目当ての組織。

 金稼ぎに欲望と才能を持っている樹光が、業種として宗教を選んだだけに過ぎない。

 医者や外国人、貧しい者ばかりの組織なら、叩き潰すのは簡単だ。

 だが天慈会には、戦闘のプロがいる――あの病院の警備員達のように。

 彼等の正体は元警察官、元自衛官など。

 元から会員だった警官や自衛官から、会員になりそうな人間のリストを作成させる。

 キャリア・ノンキャリア、刑事・公安、本庁・所轄の各対立、そして徹底した階級社会。

 それらが要因となって、警察という組織に絶望した警官を巧みに引き込む。

 自衛官はもっと簡単だ。

 警察よりも厳しい階級社会。

 そして、戦後日本の徹底した左翼教育による歪な軍事価値観。

 その犠牲となっている灰色の組織・自衛隊。

 愛想を尽かす者、絶望する者は続出する。

 警官でも自衛官でも、そんな人間達は正義感の強い、優秀な者が多い。

 樹光率いる天慈会は、彼達を海外の傭兵キャンプで鍛える。

 警備のためではない。

 樹光の、狂った野望実現のために。

2019年2月19日公開

© 2019 hongoumasato

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