適当なクラシックの曲を2曲以上混ぜ合わせた音楽。それを流すと、室内はカオス状態になり、知らないうちに俺は勃起しているのだ。
休日になるとドアが叩かれ、青い顔をした女である、ミツコが入ってくる。カオスに惹かれてやって来たのだ。
「あたし、ソーダが飲みたいの。お尻から」
俺はペニスを露出させながら、ミツコの肛門にソーダを流し込む。「ああ! 良い感じ!」
俺は天井にくっついている一匹の蜘蛛を見つめた。蜘蛛は灰色にも、黒にも、青にも、赤にも、紫にも、黄色にも、あるいは透明にも見えたのだけれど、いまいちわからない。しかし、俺は色盲ではないから、わからない理由もわからないのだが。
ミツコは盛大に屁をこく。すると、大便とソーダが、リノリウムの白い床にぶち撒かれる。壮絶な臭気が漂う。俺は眩暈を起こし、転倒して、後頭部を強打し、鼻から大量の血液を放出した。ミツコは甲高い声で笑いながら、携帯電話で救急車を呼んだ。ありがとうミツコ。早く死んでくれ。
塩酸を顔に掛けたい。そんな欲求がミツコにはある。20年前から。
「わたしの美しい顔がドロドロと、美味しいチーズフォンデュみたいになるの。素晴らしい光景よ! きっと!」
という台詞を、ミツコは自身のテープレコーダーに録音し、近所の家の郵便受けに入れたりしていた。
目が覚めた。薄暗い病室のようだ。誰もいないらしい。個室なのだろうか。
「入りますよ」
ドアの向こうで声。ノブが回され、中に白衣の男が入ってきた。男は髪の毛が右半分なくて、左半分は金髪だった。
「どんな感じですか? 何か、お腹にやばい感じの、何か、アレがあって、それから、あなたが昨日食べたステーキ的なものは、私、あまり好きではないのですが」
トイレに入り、鏡を見つめる。そんなにイケメンではなくてがっかりした。そうしてだろうか。人間は平等なのだと、小学校の道徳の教科書では言っていたのに。まさか、学校が嘘を教えるために労力を使うとは思えないけどなあ。あの面倒くさがりな教育機関が。
しかし、現に俺の顔はイケメンではなく、むしろブサメンの部類に入る系統だ。
「俺は学んだ。この世は平等ではない。だって平等だったらみんな同じ顔だしね」
鏡に拳をぶつけた。鏡は割れず、割れたのは俺の肩胛骨だった。あと、肩を脱臼したらしい。よくわからない。尾てい骨も砕けたかも。
マナブは髪の毛のない方を撫でた。そして考えた。医者でもない自分が、なぜ、白衣など着ているのだろうか、と。全く記憶がなかった。
「俺はつい二時間前まで、愛猫であるチャーチル23世と、鬼ごっこ、そして熱いセックスをしていたはず。今でも、俺のペニスは脈打っているから、それは間違いないことだ」
伝統的な踊り「マニョモンチェ」は、ペアが互いの足首を舐めあい、それから立ち上がり、お互いの頬を舐めあい、それからまた座り、お互いの足首を舐め合う。そんなダンスだ。この伝統的な踊りは、主に関東地方の山の中、および、農村地帯、および、その辺の住宅地で、たまに行われていたりする。「マニョモンチェ」の名付け親である佐藤メッサボーン真砂子さんは、こう語った。
「ええ、そうです。科学的な根拠はないけど、私の、そうです、左を曲がり、そうすると犬がいるでしょう? ところで、私は猫派ではないの。っていうか、動物がそもそも嫌いなのね。だから、動物愛護とか意味不明なわけ。あとは何か動物に感情移入したりするやつ、あれ意味不明なのよ。みんな檻に入れておくべきなのにね。だって危ないじゃないの。クマとか、トラとか、それに、可愛いとか言っているけど、パンダって超強いらしいのよ、知ってた? あれもいい加減にして欲しいわよね、動物への危機感を減らしてしまうのは危険よ。とにかく、私は先日バームクーヘンを食べて、それが非常に不味くて、美味いとかほざいていた店員に殺意を覚えたって事よ」
適当なクラシックの曲を2曲以上混ぜ合わせた音楽。屋上ではそれが絶えず流れていた。俺は空を見ていた。真っ黒。ここは田舎のはずだが、星なんて一つもないのだ。俺はポケットからコアラのマーチを取り出して、バリバリ、出来る限り格好良く、ワイルドな感じで食べた。
「汚いな! あんた!」
横で声がした。病室に来た、白衣の男だった。お前のブルドックみたいな面の方が余程汚いわ! ボケカスアホ! と、俺は言った。口パクで。
「それに、あんたの顔、酷いな」
俺はぶん殴りたい欲求、殺害して、チェーンソーでバラバラにしたい欲求を感じた。だが、俺はコアラのマーチが大好きなので、とりあえずコアラのマーチを食べた。
「なあ、あんた、俺とマニョモンチェ踊らないか?」
気持ち悪い男が俺の頬を舐めてきた。しかし、不思議といい気持ちだった。
「あっ、気持ちいい……」
「いいの?」
「うん、凄くいい」
「じゃあ、いいかな」
「うん、早く……」
俺達はマニョモンチェを朝まで踊った。流れ続けるカオスの中で。
白鳥の騎士 ゲスト | 2009-01-23 18:01
3頁2~3行目の「そうしてだろうか」は誤記でしょうか?
ガラ・トシオ ゲスト | 2009-02-15 11:25
「白鳥の騎士」さんご指摘ありがとうございます。
そうですね。これは「どうしてだろうか」ですね。Dの隣がSなので、多分打ち間違えたのでしょう。