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回人三十一面相、「エリンギ渋い」

合評会2026年7月応募作品

大猫

2026年7月合評会参加作品。お題は「エリンギ」
ネタがどうしても思いつかず、回文に走ってしまった。
真面目に読むと腹が立つと思うので、「こんな奴もいるんだな」程度で。

タグ: #シュール #合評会2026年7月

小説

2,397文字

我が名は回人三十一面相。「怪人」ではない。「回人」である。逆さ言葉の回文にハマってしまい、回文作りにうつつを抜かし、人生の時間をほぼ回文三昧に生きた結果、「回人」という妖怪に変化してしまった者である。

「三十一面相」を名乗る経緯については以下を参照されたい。

回人三十一面相、泉下で回文ワールドに遊ぶ

大猫大猫

日頃の回文遊びの度が過ぎて、回文ワールドに転生してしまう暇人のお話。
文字制限があるのですべての回文にルビを振れなかったけれど、回文がいくつあるか分かりますか?
2022年9月合評会参加作品。

※画像の美しい檜扇は「大西京扇堂」https://www.kyoto-wel.com/shop/S81162/のサイトより拝借しました

 

 

また、私が神の啓示を受けて回文人生を歩むきっかけについては、以下を参照してほしい。

回人三十一面相、世界の中心で回文を叫ぶ

大猫大猫

2024年5月合評会参加。お題は「世界の中心で〇〇を叫ぶ」。
やっぱり叫ぶなら回文でしょう。

 

 

さて、この春、私は沖縄・那覇を訪れた。以下は旅の感動を折々の回文でつづった旅行記である。あまり深く考えず、「世の中には暇な人もいるものだ」と思っていただければ幸甚である。

 

那覇はブーゲンビリアの花が美しかった。空港に到着した途端、もちろん口をついて出たのは

那覇の花

なはのはな

春先のことで、菜の花もちらほら見た。

那覇の菜の花

なはのなのはな

 

夜、ろくに街灯もない店で飲めば、

那覇の闇、飲み屋の花

なはのやみのみやのはな

 

数日して、春先だというのに台風が直撃し、飲み屋の菜の花も散ってしまった。

那覇の悩み、台風吹いた。飲み屋菜の花

なはのなやみのたいふうふいたのみやなのはな

 

台風の翌日、ついついしょぼい酒場に入ったら変なものを買わされた。違法植物だったのかもしれない。

那覇のしけた疲れ酒場、化かされ買ったケシの花

なはのしけたつかれさかばばかされかつたけしのはな

 

行く先々で回文にぐるぐる巻きにされる回人の定め。いや、されているのではなく、自ら回文に巻かれに行っている。自縄自縛とはこのこと。

きのこを見れば、

このきのこ

このきのきのこ

このきのこのきのこ

ねりまのこのきのこのまりね

 

そう、きのこはマリネにすると美味いのだ。

 

沖縄にはいろいろと美味しいものがあるが、実はきのこが美味いことはあまり知られていない。久しぶりに行った有名料亭「いぶし銀」のきのこはいつ食べても美味いのだが、期待にたがわず今回も絶品だった。しかし、以前、部屋に飾ってあった朱鷺の絵がなくなっていた。資金繰りが厳しくて売ってしまったらしい。観光が盛んな那覇でも厳しい世の中だ。こういう良い料亭はなんとか持ちこたえてほしいものだが。

 

良き卯の花、

雪のえのきとしめじ飯、

朱鷺の絵の消ゆ那覇の浮世

よきうのはなゆきのえのきとしめじめしときのえのきゆなはのうきよ

 

手洗場でふと鏡に映った自分を見て驚愕した。なんと! 白髪だらけではないか。回文に入れ込んでいる間にすっかり年老いてしまったのだ。普段は自分の年齢など気にもしないのに、旅の空気はなんとはなしに自分に向き合わされてしまうようだ。

すっかりショックを受けた私に、料亭の女将が親切にも白髪に利く食材をいろいろと教えてくれた。沖縄に留まらず、九州の食材まで調べてくれた。ありがたいことだ。

 

白髪疎まし年疎き

髪の黒みは

ひじきかクルミのみ

美味い薔薇

長崎の栄養良いエノキ

佐賀ならば今、海のミルク牡蠣

慈悲は弥勒のみ

柿と牛と島とうがらし

しらがうとましとしうときかみのくろみはひじきかくるみのみうまいばらながさきのえいようよいえのきさがならばいまうみのみるくかきじひはみろくのみかきとうしとしまとうがらし

 

ところで、テレビのニュース番組では、また熊被害が報道されていた。裏山に毒きのこのテングタケが生えてきたというので、松茸を守るために早朝から作業をしていたところを襲われたらしい。かなり抵抗したようだが熊に連れ去られてしまい、今のところ軍手しか見つかっていないという。痛ましい。

 

テングタケ摘み、松茸守る今朝、

熊、飢えた雄、

押すを耐えうまく避けるも負けた。

妻見つけた軍手。

てんぐたけつみまつたけまもるけさくまうえたおすおすをたえうまくさけるもまけたつまみつけたぐんて

 

 

この料亭の女将の名は理恵という。料亭の名と合わせて「いぶし銀理恵いぶしぎんりえ」と呼ばれている。いつでも客の好みに合わせて料理を整えてくれる。実は、私はきのこ全般大好きなのだが、エリンギだけはちょっと苦手だ。他のきのこに比べて渋みがある気がする、と言うと、

 

エリンギ渋いと避けたいし

飯に舞茸焼けた

今煮しめ椎茸さ

と、いぶし銀・理恵

えりんぎしぶいとさけたいしめしにまいたけやけたいまにしめしいたけさといぶしぎんりえ

 

素晴らしいごちそうだ。やっぱり那覇はきのこに限る。台風にも散らなかったブーゲンビリアを見ながら食事を楽しもう。

 

この木の花残る夜、

飯の高菜かなイカメシにお煮しめかい?

なかなか楽しめる夜、

この那覇のきのこ

このきのはなのこるよるめしのたかなかないかめしにおにしめかいなかなかたのしめるよるこのなはのきのこ

 

 

そして最終日、事件は起こった。

女将と華麗な菊の花を眺めながら(そう、沖縄は春でも菊が咲くのだ)、きのこ飯を食っていたら、

 

「この菊どない?」

「歴史長いくす玉みたい」

「この菊、どこの木?」

「痛み! 苦しいし!」

「苦痛に? 手当はまだか?」
「あ、腹が痛い、また頭痛い」

「柄は赤玉、はて? あてに美しいシルクみたいきのこ」

「毒きのこ!」

痛みまだ救いがなし

綺麗な毒きのこ

このきくどないれきしながいくすだまみたいこのきくどこのきいたみくるしいしくつうにてあてはまだかあはらがいたいまたあたまいたいがらはあかだまはてあてにうつくしいしるくみたいきのこどくきのこいたみまだすくいがなしきれいなどくきのこ

 

毒きのこに当たった回人がその後どうなったかは神のみぞ知る。

 

神のみか……

いかんかい?

いかん? 回文全部、いかんかい?

© 2026 大猫 ( 2026年7月23日公開

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