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父が死んだのは、十一月の終わりだった。

 

店は三日間、閉めた。それ以上閉めるつもりはなかった。父もそうしなかっただろう、とわたしは思った。根拠はなかった。ただ、三日間という数字が、最初から決まっていた気がした。

 

葬儀は小さかった。親族と、常連の客が数人。神父が短く話した。棺は木製で、蓋に彫刻があった。父が自分で選んだものだった。いつ選んだのか、わたしは知らなかった。

 

店はわたしが生まれる前からあった。

 

祖父が始めて、父が継いだ。わたしで三代目になる。町の人間はほとんどが知っている店だった。看板は古く、文字が薄くなっていたが、父は替えなかった。替える必要がない、と言っていた。みんな知っているから、と。

 

父からこの仕事を教わったのは、十六のときだった。

 

仕入れ先。捌き方。部位ごとの扱い。常連客が何を好むか。どの季節に何が売れるか。父は丁寧に教えた。言葉は少なかったが、手が雄弁だった。見ていれば、わかった。

 

一つだけ、教わらなかったことがあった。

 

店の奥に、ドアがある。

 

冷蔵室だ。業務用の、重い金属製のドア。取っ手の下に鍵穴がある。わたしが物心ついたときから、そこにあった。

 

父はそのドアを、わたしの前で開けたことがなかった。

 

一度だけ、聞いたことがある。十八か、十九のころだった。あの部屋は何に使っているのか、と。父はしばらく黙っていた。それから「古い在庫だ」と言った。

 

わたしはそれ以上聞かなかった。

 

父が嘘をついたかどうか、わからなかった。ただ、その答えが何かを閉じた、という感じがした。だから聞かなかった。

 

葬儀が終わって、四日目に店を開けた。

 

常連客が来た。いつも通りに注文して、いつも通りに帰った。何人かが「お父さんのこと、残念だった」と言った。わたしは「ありがとうございます」と言った。それを十数回繰り返した。

 

昼過ぎに客が途切れた。

 

わたしは父の遺品を整理するために、事務室に入った。書類、帳簿、取引先の連絡先。父は几帳面な人間だった。書類は整理されていた。引き継ぎに困ることは、ほとんどなかった。

 

引き出しの奥に、鍵があった。

 

小さな鍵だった。金属製で、古かった。ラベルはついていなかった。

 

わたしはしばらくそれを見た。

 

手に取った。重さを確かめた。軽かった。こんなに軽い鍵で、あの重いドアが開くとは思えなかった。しかし、他に心当たりがなかった。

 

鍵をポケットに入れた。

 

その日は店を閉めた。

 

三日間、鍵はポケットの中にあった。

 

客と話すとき、帳簿をつけるとき、夜眠るとき。ポケットに手を入れると、鍵があった。触ることもあった。触れるだけで、何もしなかった。

 

奥のドアのことは、考えないようにしていた。

 

考えないようにする、ということは、考えている、ということだった。わかっていた。ただ、踏み出す理由が、まだなかった。

 

父は「ここだけは教えられない」とは言わなかった。ただ、開けなかった。その違いが、何を意味するか、わからなかった。

 

四日目の朝、店を開ける前に、わたしはドアの前に立った。

 

金属のドアは冷たかった。触れただけで、指先から熱が抜けた。取っ手を握った。鍵を取り出した。

 

鍵穴に差し込んだ。

 

合った。

 

回した。

 

音がして、ドアが開いた。

 

中は暗かった。

 

スイッチを入れた。蛍光灯がついた。

 

冷蔵室だった。壁はステンレスで、棚が並んでいた。温度計がついていた。数字は見なかった。

 

棚の上に、いくつかのものがあった。

 

わたしはそれを見た。

 

どれくらいそこに立っていたか、わからない。長くはなかったと思う。あるいは、長かったかもしれない。

 

蛍光灯が、低く唸っていた。

 

わたしは部屋を出た。ドアを閉めた。鍵を回した。

 

その日、店は通常通り営業した。

 

常連のハイデマリーが来て、ひき肉を二百グラム買った。いつもの量だった。わたしは計って、包んで、渡した。ハイデマリーは「今日は寒いね」と言った。わたしは「そうですね」と言った。

 

夕方、老いたベルンハルトが来た。骨付きの肉を頼んだ。わたしは切って、渡した。ベルンハルトは「お父さんの腕前に近づいてきたな」と言った。わたしは笑った。

 

閉店した。

 

帳簿をつけた。売り上げを確認した。戸締まりをした。

 

奥のドアの前を通った。止まらなかった。

 

その夜、わたしは父のことを考えた。

 

三十年以上、一人でこの店をやった人間だ。母が死んでからは、本当に一人だった。わたしが手伝うようになっても、奥の仕事だけは一人でやった。

 

何を守ろうとしていたのか。

 

わたしを守ろうとしたのか。店を守ろうとしたのか。あるいは、自分を守ろうとしたのか。

 

わからなかった。

 

父は多くを語らない人間だった。語らないことが、父の誠実さだった、とわたしは思っていた。しかし今は、それが誠実さだったのか、わからなかった。

 

鍵を、テーブルの上に置いた。

 

見た。

 

拾った。引き出しにしまった。

 

翌朝、わたしは町の端にある古い教会へ行った。

 

用があったわけではなかった。ただ、足が向いた。

 

神父はいなかった。堂内は空だった。椅子が並んでいた。ステンドグラスから光が入っていた。わたしは一番後ろの椅子に座った。

 

何かに祈ろうとした。言葉が出てこなかった。

 

父が三十年間、毎週ここに来ていたことを思い出した。何を祈っていたのか、聞いたことがなかった。

しばらくそこにいた。

 

それから立ち上がって、店に戻った。

 

店を継いで、一ヶ月が経った。

 

奥のドアは、閉まったままだ。鍵は引き出しの中にある。

 

何が入っていたか、誰にも言っていない。言う相手がいない、というより、言葉にする前に、何かが止まる。

 

父がそうしたように、わたしも開けない日が続いている。

 

開けた日のことを、考えることがある。何を見たか、ではなく、ドアを閉めて、鍵を回したときの、あの音のことを。小さな、乾いた音だった。

 

それだけが、残っている。

 

今日も店を開ける。客が来る。肉を切る。渡す。

 

それだけだ。

 

(了)

© 2026 ヤスナ・イデ ( 2026年4月11日公開

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