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シェシェシェシェ

小林TKG

シェシェシェシェシェシェシェシェシェシェシェシェ

タグ: ##年忘れだよイグ合戦 #古賀コン10っぽいやつ

小説

3,505文字

家の近所にシェア畑というのがある。出来た。最近。もう最近でもないか、ちょっと前に出来てた。

「シェア畑かあ」

畑なあ。

シェア畑はシェア畑と言われる通り、シェア畑である。一軒か二軒くらいの家、ちょっとした庭付きの家二棟が建つくらいのスペースに、肥沃な、おそらく肥沃な、濃い目の茶色い土のスペースが広がっており、そこで決められた、定められた区画ごとに人が作物を植えるのである。田舎とかに行けばそういう所は珍しくないのかもしれないし、わざわざシェア畑って言うのも見る人によっては違和感があるかもしれない。そんなの当たり前なのかもしれないが、ただ田舎のような感じではない。一人一人のスペースはそんなに広くない。田舎みたいに、田んぼくらいのスペース一枚ごととかそういう感じじゃない。ベランダのプランターよりは大きい。でも庭付き一軒家の家庭菜園よりも小さいと思う。あるいは規模によっては同じくらいか。だから家のベランダのプランターでは満足できない人、かといって県営や市営で貸してる畑はちょっと大きいっていう人が貸りるんだろう。知らねえことを知ったような風を装って言うけども、子供の教育にもいいのかもしれない。

シェア畑には管理する人もいる。面倒な部分、土のメンテナンスとかはその人達がやるんだそうだ。あと道具の貸し出しもしているらしい。利用者は手袋とかだけを準備すれば事足りるんだと。あとはもう手ぶらで。汚れてもいい格好で。行けばいい。勿論水道もスペース内にある。でもまあ釣りとかと一緒で、利用者はそんな準備されているモノだけでは満足しない。ハマる人は特に。自分の道具を欲しがる。自分だけの道具を。他の人よりも優れた道具。まあ、その気持ちはわからなくない。私だってそうなるかもしれない。誰だって。

でも夜に作物を盗みに来る人とかいるんじゃないかなと、そういうのが見ていて心配なのだけども、何せシェア畑は屋外である。勿論そうだ。空の下でのことだ。スペースを囲うように柵はあるが、それは単なる柵だ。ここはシェア畑の敷地ですっていうだけの感じの。七歳児くらいの背丈の。まあシェア畑って言って厳重な、熊とかも通さないような電気の流れた柵で囲うっていうのもおかしなビジュアルになるだろうから、あれなんだけども。でも、毎日通って、勿論、何かを育てるっていう事は大変な事だから、簡単な事ではないから、よく通って育ちを確認して、必要ならメンテをして、栄養を与えたりして、よく育って、もうすぐ収穫って時に、それを知らねえ人に横から奪われるのはなあ。嫌だなあ。その危険性を考えるとなあ。

それを伝えると、

「ああ、それは大丈夫なんですよ」

と係の人に言われた。たまたまシェア畑の前を通りかかった時に係の人らしき、農作業従事者っぽい格好をした人が居たので聞いてみたところ、その様な回答であった。あとその人にパンフレットをもらった。

『安心安全シェア畑』

と書いているパンフレットだった。

パンフを眺めながら家に帰って、ネットで検索して更に詳しい情報を調べているうちに、いつの間にか自分があれを借りたらという妄想をしていた。2ウネ区画ひと月:6000円。今ならキャンペーンで一年間5000円。別途入会金半額キャンペーン中。これを自分が借りたらどうするだろうか。畑と言われて、私が考えたのは、バジルだった。

「バジル。バジりてえなあ」

一時、昔、私が料理にハマっていた頃、ピザをピザ生地から作っていた頃、バジルが欲しくなった。

「生ハムとバジルのピザが食べたい」

生ハムはどこぞかしこぞに売っている。種類も、上から下まで色々とある。あんまり高いのじゃなくていい、死んだ父が好んで食べていた様なのでいい。生ハムはすぐに手に入る。どこでも買える。

しかし、バジルに関しては難航した。売ってねえ。そもそもが。地域によったりするんだろうか。店舗の規模とかにもよるだろうし。大抵の場合、バジルは既にソース、液状、あるいは半液状化していた。パスタに絡めるとおいしい。バジルと名のつくものの大半はそんなソースと化していた。

私はバジルの葉っぱが欲しかった。

生ハムのピンク、チーズの黄色、となれば緑もいるじゃないか。見栄え的にも。勿論そこまで見栄えを気にするタイプではないけども。でも、これはいるだろう。バジが。このピザに入るだろう。バジが。バジが乗ってるのがみたいよ。バジビジュのピザが見たいよ。緑ってほら、はえるでしょう。ピザの上で。

その一心でスーパーを色々と回った。バジルを探して。しかしバジルはない。誰も使わないんだろうな。だから無いんだ。需要がないんだな。バジルは。ソースにしないと需要が無いんだ。誰もバジルの葉っぱを欲しがっていないんだ。スーパーを回っているうちに私はそんな事を理解していった。

何件目かのスーパー。もういよいよほうれん草か、小松菜か、あるいは青梗菜か、大葉で妥協しようかどうしようか、私は考えていた。しかしそこにバジルがあった。

「バジだ!」

もう半ば信じられない気持であった。バジルはないものだと思っていた。これも、このスーパーも消化試合なんだろうなと思っていた。そこにバジルがあった。小っちゃい小袋に、貧相な何枚かのバジルがはいっていた。

勿論私はそれを買ったし、帰ってピザ生地を伸ばして、ソースを塗ってチーズを撒いて、生ハムと何枚かのバジルを乗せてピザを焼いた。バジルは大事にとっておこうと思って冷蔵庫に入れた。

「明日も食べようかな」

まだ生地はあるし。そして焼き上がったピザを食べながらお酒を飲んだ。

次の日バジルを見るともう大分萎びていた。冬の縮こまったおチンチンのように萎びていた。皴だらけになってある種類の老人の様に縮んでいた。

私は急いで在庫の生地を伸ばして、ソースを塗ってチーズを撒いて残った生ハムと残ったその皴だらけになった葉っぱを乗せた。ぜんぶ乗せた。そんで焼いた。

再びバジルを買いにバジルが売っていたスーパーに行くと、バジルは無かった。もう二度と無かった。もう二度とバジルが現われる事は無かった。伝説のポケモン級。一度倒したらもう出てこない。たった一回の邂逅。

その後、なんやかんやあって料理もしなくなった。

畑。もしも私がシェア畑を借りたら。

バジルが作りたいな。

そしたらもしかしたら、またピザを焼いたりするようになるかもしれない。

生地を作って、チーズと生ハムを乗せて。あるいはスモークサーモンとバジルのピザでもいいな。

残った葉っぱはソースに出来るかもしれない。ジェノベーゼ。

そしたら、パスタも茹でたりして。それに絡めたりして。

バジルくらいだったらベランダのプランターでも出来るだろうか。いや、違う。違うな。沢山ほしいんだ。私は。バジルが。

沢山バジルが欲しいんだ。

一度。

沢山のバジルが欲しいんだ。

生ハムとバジルのピザ。

スモークサーモンとバジルのピザ。

ジェノベーゼソースのピザ。

アボカドとバジルのパスタ。

アボカドとジェノベーゼソースのパスタ。

海老とバジルのパスタ。

アボカドとジェノベーゼソースのパスタ。

ジェノベーゼソースにちょっとレモンも加えたりもしたりして。

ちょっと酸っぱいのもいいかもしれない。

レモン。

合わなかったらレモングラスでもいい。

レモングラスは植えなくてもいいかな?

植えなくいいよ。

レモングラスは。

とりあえずバジルにしようよ。

バジル優先にしようよ。

あと、スープもいいかもしれない。

バジルのポタージュ。

トマトとバジルのスープ。

いいかもしれない。

いいなあ。

いいな。

それ。

バジルの種、苗は?

売ってる。

Amazonで。

一回見に行く?

JAとかに。

需要あるのかな。

バジル。

Amazonに売ってるよ。

バジル。

シェア畑。

今なら月々5000円。

入会金半額キャンペーン。

道具は要らない。

手袋だけあれば。

出来そう。

バジル。

私にも出来そう。

バジル。

でも結局、私はシェア畑を借りなかった。借りる直前までは行ったんだけど。借りなかった。ネットで申し込みしようとしてサイトに行ったんだけど、行こうとしたんだけど、行けなくなった。サイトが開かなくなった。

シェア畑のある場所に行くと看板が無くなっていた。

どうしたんだろうと思っていると、それから少ししてそのシェア畑がニュースになった。

シェア畑の地面から人の遺体が出てきた。

一人じゃない。

結構な数の。

近所の人とか知らない人とか、色々と。

作物を盗みに入ったらしい人とか、赤子とか幼児とか色々と。

体全体が揃っていた人もいれば。

一部分だけの人もいて。

シェア畑の土はそれで養分を得ていたみたい。

肥沃な色だったもんなあ。

肥沃な。

濃くて。

茶色くて。

© 2025 小林TKG ( 2025年12月22日公開

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