全的感染

鷹枕可

480文字

溺れる者は藁にも、而し藁にすら価しない言葉は誰の為に、

聞こえる
艱難の声達が
触れる
腐敗の肉体に
臭う
饐えた衰頽が
味わう
屍毒の棘を
見える
数多の遺骸が折重なるのが

苦役を数えれば土葬に附された
重き屍骸を運ぶ貨物車にひしめく腕や脚
その黒き死斑
一匹の蝶が迷い出でて
翅紛を散りばめ
饐えた貨物庫より返る

 

町は凡そそのような光景に覆われている

 

労働矯正所、その古き看板の
門扉を潜ると
肉の腐った匂いが酸く鼻を刺す
トマト達、或は野菜達が
壊れた手や足を投出し
折重なり白く腐っては
苦悶の容に開かれた頤
空ろに止まったままの叫び
濁り見開かれた瞳
壁は酸鼻を隔てる様に
白い打ち放しのコンクリート
私は、その惨禍のただなかに
壊れた懐中時計を見とめた
液晶板の時刻は2021年8月9日を指して
停止している

 

繁華街
ホームレス達の死体が干乾びて
蹲る容
硬直する
且て雑踏であった街並みの
防毒マスクを外し
乾燥した人体の
横たわる骨格の
蛆と蠅に
糜爛した人膚の
或は硬化した、
市中殺菌の死絶えた街
東京二十三区

総てが遅過ぎたのだ
総てが他人事だったのだ

私達が
呼吸停止をした街に
幽霊の姿態を眺めていた

 

あるいは振り返るべき町もあるだろうか、と

2021年1月8日公開

© 2021 鷹枕可

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