俺は、猿だ、と言つて
二階から飛び蹴りを爲し、救急車送りになつた小學校の友人よ、
洗礼槽のバケツより(それは藍色で薄汚れてゐる、と書かれている)次次とバナナ(此方には「猿の好物」、と書かれてゐる)を取り出し、
人形浄瑠璃の鑑賞に向つてそのまま帰らなかつた呉服屋の女主人よ、
全自動洗濯機の水流に目を奪はれて全盲となつた小児科医院の看護師達よ、
悔改め給へ、
と、書かれた殺人豫告が神奈川県横濱市四丁目の交番から
神奈川県警本部に届出されたましたのは昨日の話、
書類送検となりました眞犯人の指示役の俣従弟が私、三島由紀夫愛好家の實業家の曾孫なのでございます、
と、申します事は請求書の預かり人氏名とも合致致します次第でございまして、
自明の理、なのでございませうか、それとも、否否、
否、今、御自身が仰つたでせう、
貴方様は眞犯人の俣従弟で、三島由紀夫愛好家の實業家の曾孫であらせられる、つて
それとも御冗談、根も葉も無い、大嘘を御吐きになられましたのかしら、
否否、御冗談を申してはなりませぬ、
自分自身はあの本居宣長の直弟子の遠縁の双子の兄の妾腹の、跡取りの次男の直系の子孫なのでございます
と、仰られますと謂ふ事は、
貴方は本居宣長の直弟子の遠縁の双子の弟の嫡男の直系の子孫ではない、といふ事になられますが
それで宜しかつたでせうか?
否否否、その様な事は決してありませぬ!(と、ここで机を綺麗に斜め七十度より百四十五度へと叩き)
自分は本居宣長の直弟子の遠縁の双子の母の、乳母より数えて四代目の乳母の長男なのでございます、
然るに、本居宣長の直弟子の遠縁の、双子の母とは無関係ではない、
と言ひますればそれは虚とも實とも附かぬ、巷間の寸分のあはひの問題なのでございますれば、
此方を立てれば其方が立たず、其方を立てれば此方が立たず、といふ
非常に喫緊且つ困難極まるアポリアである、といふ前提諒解の許に基づいての問題である、と理解を頂けますでせうか、
でも、貴方、無関係でせう、織田信長とは、
織田信長ぢやあなくつて本居宣長ですよ
さつきまでちやんと申せておりましたでせう
あああああ、もどかしひ!!(額で水槽の硝子を粉微塵に打ち砕きつつ)
ちよつと、大丈夫ですか
水浸しだし、厭な雑巾みたいな臭ひがしますし、
信長さん、
ああーーツ!!
信長ぢやあないですし雑巾みたいな臭ひも致しません、
なんなんですか、額、痛ツツ!!
大丈夫ですか、なんか額からダバダバ溢れておりますけれど、
大丈夫ぢやあありません
之は血です!!
血と涙と硝子片との結晶ですから放つて置いて下さい!!
――そして翌日――
何とかあれやこれやをはぐらかし遂せましたが
謂へない――本居宣長の直弟子の遠縁の双子が實の母の誕生日にガトーシヨコラ(一粒二十五圓十個入)を贈つて呉れたのは
差出人の受取違ひだつたなんて――、
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