栄養ガール

合評会2024年11月応募作品

曾根崎十三

小説

4,401文字

ウワーッ!!!!!!!!!!!!!!!! 着想から完成まで2時間、100%勢い! あんまりボコボコにしないでください。いや、ボコボコでお願いします。とりあえず「back nember」のいろんな歌を聞いてバンドの口になって書きました。寿司の口、みたいな感じの。口。アイキャッチはいらすとや。

翔太朗はすごく普通だった。真面目だったし、勉強もそれなりにできた。両親もそろってるし、ザ・中流階級の家庭の子って感じだった。面白くない奴だった。いじめられることも、いじめることもなく、その中に巻き込まれることもなかった。全然クズじゃないし、むしろ好青年だった。捨て猫の世話とかしちゃって飼い主探しまでやっちゃうタイプだった。でも音楽が好きだった。しかもドラマーだった。ドラム叩く人。私の中ではドンドンシャーンってやるやつ、ってくらいの認識しかない。なんでドラムやねん。ギターちゃうんかい、くらいの。マジで。普通に興味なかった。すごく秘密じみて教えてくれたけど、私はわらった。しかもドラムって。ドラム単体で何するねん、くらいの感じで茶化しすらした。ドラム(笑)みたいな。それでも翔太朗は怒らなかった。人の好い翔太朗にジュース買いに走らせたりしてた。あ、そう考えてみたらある意味翔太朗っていじめられてたうちに入るのかな。私に。

そんな翔太朗が私の初めての彼氏だった。週に二回は一緒に帰った。高校だと毎日一緒に帰るカップルも多かったけど、私と翔太朗はそんな浮かれすぎるキャラじゃないから、週二回だった。手を繋ぐのに一カ月かかった。友達に行ったら「キャー! かわいい!」って言われた。かわいいのかそれは。慎重なだけだ翔太朗も私も。初彼氏初彼女だったし。普通がどんなもんかなんてわからないし。だからそっと手を繋いだし、キスだってそっとした。

「由夏ちゃん」

翔太朗はよく私の名前を呼んだ。でも、呼ぶだけだった。好きだよ、も、かわいいね、も続かなかった。何かを言いたそうにもぞもぞしているだけだった。もじもじですらなくもぞもぞ。そういうところがイライラした。毎日好きだよ、愛してるよ、かわいいね、って言われたかったし。そう言ってくれる彼氏の話を聞いては羨ましがっていた。私の彼氏は言ってくれないんだよ。でも、そうい言うとみんな笑う。言わなくたっていつも顔に書いてあるじゃん、って。そんなの分からないよ! いや、分からなくもないんだけど、それはもうあからさまだったので。それでも、大事なことはちゃんと言って欲しかった。

大学生になっても私たちは付き合っていた。翔太朗は大学デビューしてイケイケになることもなく、相変わらずシャイであんまりはっきりと物を言わない子だった。髪の毛も黒いままだった。私は文化祭の実行委員会に入ったけど、翔太朗はいろんな軽音サークルに入っては辞めを繰り返していた。思うバンドがなかなか見つからないんだとか。翔太朗はバンドを組みたいらしい。「由夏ちゃんだけに言うんだけど」と何度も聞かされた。「今は受験もあるから我慢してるけど、大学に入ったらやりたいことなんだ」ってさ。何回言うねん、くらい言ってきた。しょうむないことなのに大事そうに恐る恐るそっと言ってきて、なんか、嫌だった。なんか、私よりも大事みたいで。

翔太朗は真面目なので掲示板で地元のバンド募集をチェックするのに日夜励んでいた。何のために勉強して大学入ったんだか。そう言う私もバイトしまくってたし、遊びまくってた。友達と。翔太朗はあんまり遊んでくれなかった。バンド募集を嗅ぎまわった末に、結局、一周回って大学の軽音楽部の中で見つけたバンドに入って、毎日毎日練習していた。一日練習しないと取り戻すのに三日かかるらしい。ほんまかいな。そんなガチ勢の軽音楽部いるんだ。もっとゆるいと思ってた。軽ってつくし。でも軽自動車も別に軽くないから似たようなもんか、とか勝手に自分で納得した。

そのうちに、夏になって、学生会館のいろんなバンドが順番に演奏する発表会みたいなやつに呼ばれた。普通に上手かったけど、まぁ、学生って感じだった。意外といろんな音出るんだなー……とは思ったけど、テレビとかで見るドラムの方が上手だった。テレビで見るドラムの方が「意外といろんな音出るんだなー!!!」くらいの感銘はあった。全然ドラムわかんなくてもわかるくらいに。あと合ってない。バンドに馴染めてないのかな、それに才能もないんじゃないの、と思ったけど言わなかった。今回は。バンドに入ってから、翔太朗は私がドラムの悪口言ったら悲しそうにする。昔みたいにへらへら笑ってやりすごさない。言うたんび、日に日に悲しそうにする。でも、何回見ても必死に練習している翔太朗のドラムは上手くないままだった。素人でもわかるくらいだった。三年生になっても、逆に才能なんじゃないかと思うくらいヤバイほどそのままだった。マジで一人だけ浮いてるし、なんかドンドコやってんなぁーって感じで、練習の仕方が間違ってるんじゃないかと思った。でも、私は翔太朗以上の素人だ。口出ししてまた悲しまれても面倒だし。親の体型をバカにしても、ニュースの悲しい事件を鼻で笑っても、翔太朗が何もないところで転んだのを爆笑しても、悲しそうにしないくせに。私が死んでもあんなに悲しそうな顔をしてくれないかもしれない。

そんなこんなで私は同じ文化祭準備委員会の委員長と付き合った。どんなだ。まぁ、流れだ。仲良くして、親切にされて、翔太朗の愚痴も聞いてもらって、なんやかんやでしっぽりって感じだ。翔太朗のことはフッた。ぶっちゃけ翔太朗より良いなと思ったし。思ったより翔太朗は今にも泣きだしそうな顔をしていた。でも泣かなかった。めちゃくちゃ自分の唇をはむはむしていた。はむはむしていないと泣くからだろう。かわいい。それでもって、嬉しかった。私がドラムのことをバカにしたりした時よりはるかに辛そうだった。ざまあみろ。私が死んだら泣くだろうな、とちょっとハッピーになった。ドラムに勝った。そもそもドラムより私の方がかわいい。私は大してかわいくないけど、ドラムよりは絶対かわいい。会話もできるし。体温もあるし。穴があってヤレるし。ドラムより便利だ。

そして、案の定、私は委員長と一カ月で別れた。委員長は私のクズっぷりについていけなかった。ガキをバカにしたり、当然のように傘立ての傘をパクるところとかが、幸せな未来を想像できなくて無理らしい。幸せな未来? 未来志向の意識高い系(笑)くんだったとは。でも私は別に人間が星の数くらいいっぱいいることくらい分かってるし、五時間目終わりの駅に向かうえげつない学生の波を見ていれば私と付き合っちゃうような人もまぁ何人かはいるだろうって思える。一人くらいいきなり消えたってわからなさそうなくらいのデカいヒトゴミなんだから。まぁ、実際消えたら分かるんだろうけど。そういうスタンスでガンガンいったので、すぐ誰かしらと付き合っては別れてを繰り返していた。手近な委員会内でヤッたり付き合ったりしまくったら、辞める人も増えちゃったので、サークルクラッシャーと呼ばれた。陰口で呼ばれてるっぽかったけど、噂の声がデカすぎて完全に陽だった。もはや陽口だった。

翔太朗とは連絡を取らなかった。別れ際に翔太朗が「悲しくなっちゃうから電話もメールもしてこないで。俺もしないから」って言ってきたからだ。それに対して私は「分かった」と言ってしまった。クズでも約束は守るのだ。翔太朗もクソ真面目なので連絡してこなかった。クソ真面目なので、というか別にバンド活動に明け暮れててそれどころじゃなかっただけかもしれないけど。私たちはずっと約束を守った。

高校の同窓会でめっちゃ久しぶりに翔太朗と会った時「木下さん」って苗字にさん付けで、しかも敬語で話してきてムカついた。同い年だろうに。なんで敬語やねん。そのうえ、髭を生やしていた。童顔のくせに似合っていなかった。はよ剃れ、と言いたかったけど、会話が弾まなさすぎて、避けられすぎて、伝えるタイミングがなかった。でも、LINEは交換した。同じテーブルの時に皆とそういうタイミングになったから。付き合ってる頃はまだLINEが流行ってなかったからメアドと電話番号しか知らなかった。

翔太朗が帰ってから友達が翔太朗のYoutubeを見せてくれた。なんかチャンネルやってるらしかった。なんか有名な歌の「叩いてみた」動画をあげていた。あんなに全然上達しなかったのに、なかなか上手になっていた。「おっ」と思うような出来にはなっていた。バンドはやめたとか話してたらしい。自分で作った歌が採用されないので揉めてやめたとかなんとか。らしくない。人とぶつかったりなんかしないような奴だったのに。っていうか、ドラマーのくせに歌なんか作ってやんの。付き合ってた頃は、歌なんか作ってなかった。ただ叩いてるだけだった。なんかドンシャンやってるだけだった。今はボカロPも兼任して作詞作曲編曲して初音ミクに歌うたわせてた。ワロタ。最近はそういう人もちょくちょくいて、珍しいことではないらしい。わらうな、と友達に咎められた。そういうタイプの有名人やそのファンとかもよくいるから、と。

初音ミクは失恋ソングを歌っていた。君の姿を探してしまう、とか、一生一緒だと思ってた、とかそういうありきたりな歌詞の歌で全然グッと来なかった。でも、これだってバンドの腕みたいに何年か後には化けるかもしれない。新しい女に向けた歌かとも思ったけど、翔太朗が私のせいで女性不信になって誰とも付き合ってないのは高校の友達の間では有名だそうだ。へぇー、そんなに好きだったんだ、私のこと。へぇー。へぇー。もう五年経つのに全然傷癒えてなさそうだったもんな。私なんかのどこが良かったんだろう。なんで私のこと、そんなに好きだったんだろう。

シュポっと音がしてLINEのスタンプが送られてきた。猫だか犬だかよく分からないゆるキャラみたいなのが片手をあげてるスタンプだった。ヨッ!みたいな感じだろうか。そこからメッセージが続くかと思ったけれど、三十分経っても何も来なかった。あれで終わりなのか。私は送られてきたスタンプを購入して同じものを送り返した。十分後に「かわいいですね」とメッセージが来た。私は黙って、っていうかLINEなんて黙って書くものなんだけど、黙って「そうだね」って返事した。それきりだった。そっから二年経つけど既読スルーだ。

でも、Youtubeは更新されている。相変わらず叩いてみたは有名曲だけは少し伸びていて、それ以外は知り合いしか見てないんとちゃうんかレベルだった。相変わらず【オリジナル曲】と銘打ってあげている初音ミクの歌は失恋ソングで、当たり障りのないメロディラインで女の腐ったやつみたいにうじうじした歌だった。このまま翔太朗は埋もれていくんだろう。いや、ドラムだって上達したし飛躍するかもしれない。鬼バズりして有名作者になるかもしれない。もしもそんなことがあったら、万が一そんなことがあったら、その時は、翔太朗のトラウマとして胸を張ってやろう、と思った。そう思った。

2024年11月19日公開

© 2024 曾根崎十三

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"栄養ガール"へのコメント 1

  • 投稿者 | 2024-11-20 12:50

    由夏のような女になんで翔太郎は出会ってしまったんだろうか……。優男にはクズ女が寄り付くのが世の中の常かもしれません

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