梗概: 遅刻生命

牧野大寧

小説

1,351文字

SF創作講座第七期第一回課題「宇宙または時間を扱うSFを書いてください」提出梗概

 

これは別の宇宙の物語。

古来よりY型原子(通称: Y子)は生命、ひいては宇宙に存在する物体すべての最小構成単位として知られてきた。三方向に伸びたY字型の原子腕が重力的にお互いをつかんで組み合わさる。その組み合わせによってありとあらゆる物質が作られる。

 

地錐ちすいは宇宙の中に浮かぶ我々が住む巨大な三角錐。

地錐に住む生命は我々だけである。我々の頭部には穴が空いた器官があり、その中で微細な多腕たわんを使ってY子の組成を組み替えることができる。これを調合と呼ぶ。調合は科学であり料理であり建築である。調合された物質は道具として使われ、社交に使われ、芸術に使われる。政治外交もまたその内の一つである。

 

外交専門の調合師として働くニタイは、チームを率いて交渉のための軍事品を調合していた。そこへ旧知の仲であるヤロンがあらわれた。

 

望遠鏡が発明されて以来、地錐の外に生命はいるのかと、世間の関心が高まっていた。生命と接触した場合、言語は通じなくとも科学者同士によるY子の交換であれば意味が通じる可能性がある。意思疎通のための研究会が発足し、研究会の会長ヤロンは外交経験を持つ調合師としてニタイを雇おうとしていた。

 

外交による平和の実現に専念したいニタイは一旦は誘いを断るが、ヤロンに宇宙探査こそ平和への道であると説得され、一晩考えた末、誘いを受ける。

 

意思疎通をするためには相手のことを理解する必要がある。地錐外ではどのような生命がありうるのか。ニタイは調合の経験からY子の組み合わせを提案するが、科学者のジブは納得しない。宇宙は未知の場所であり、生命の最小単位となる自己複製する素子になりうる組み合わせを網羅的に調べる必要があると主張する。ニタイはその意見に納得する。

 

調合による地道な探索は進むが結果は出ない。やがて世間での宇宙探査の熱は冷め、研究会が解散の危機になる。ニタイはあと一年だけ続ければ結果が出るとヤロンを説得する。

 

結果、Y子から作られる自己複製子の組み合わせはたったひとつしかないことが判明した。自己複製子は自然状態でははるかに低い確率で発生するものであり、現時点の宇宙の年齢と大きさから計算した場合、我々が存在していること自体ほとんどありえないことだった。

研究会が出した結論は、現在の宇宙には我々以外の生命は存在しないというものだった。

 

はるか未来、宇宙のどこかで誕生するであろう生命にニタイは思いをはせる。それには何百億年もの時間が必要かもしれない。研究会は解散し、ニタイは祈りと共に自らが手作りした自己複製子を宇宙へ向けて飛ばす。

それは単体では何の役にも立たないちっぽけなものだ。

しかしいつか、あとから遅れてやってくる生命がそれを見つけ、彼ら以外の生命がはるか昔にいたことを知るかもしれない。それはもはや奇跡的確率でしか起こりえないことだが、そもそも生命が発生すること自体が奇跡的なことなのだ。

 

アピール文:

我々は、あとから来る者のためには祈ることしかできないのではないか、ということを書きながら考えました。

目指せ傑作!

2023年6月17日公開

© 2023 牧野大寧

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