◇
《 ヤツリーダム 》の物語 (終)
◇
天が裂け大地が割れた。
大津波が沸き上がり、
火の玉が森や街に降り落ちた。
飛べる虫と鳥と
魚たちは一斉に逃げ出し、
泳げる獣たちは海に飛び込んだ。
二本足のうち
知恵や権力のある者は
我先に港に駆けつけた。
金や暴力にものを言わせて我が身と我が財宝と、
我が一族のうちでも特に気に入った者だけを乗せて
残りの不要な者は蹴散らし、
悲鳴と怒号と哀願とを無視して、
船を急ぎ外海に走らせた。
中には捨てられた者たちに
必死としがみつかれて
転覆させられる船、
恨まれ、火を放たれて
港口を塞いで炎上する船、
まさに阿鼻叫喚のちまたであった。
◇
岸辺からはるか離れた低い野山にも
情け容赦なく
頭上から襲いかかり洗い流す
激しい河川津波に
呑まれた二本足たちは、
なすすべもなく
水に溺れた。
その時、〈ヤチダモ〉たちが一斉に天に声を放った。
ありとあらゆる平たい四ツ足のヤチダモの仲間たち、
大きい者も小さい者も、
尾のある者も
四つ鰭で足掻く者も、
みな急ぎ駈け、泳ぎ寄り、
溺れる二本足たちと
その他の陸の者たちを、
あたう限りに
その背に載せた。
荒れ狂う波を掻き分け押し分け、
息もつかずに泳ぎに泳いだ。
荒れ狂う火と水に沈み逝く《涙滴大陸》から
彼方の《未知の大陸》へと、
泳いで泳いで
泳いで泳いだ
…が、
浪は荒く高く、水は冷たく、
時には硬く凍りついて
皮膚を打ち裂き破り、
二本足らを載せたままでは
水に潜り餌をとることも、
背中の乾いた皮膚に
水をかけることすらも出来ず、
多くのヤチダモたちは半ばで力尽き、
その屍を漂流する舟として、
なおも、人々を運んだ。
◇
飢え渇いた二本足らは哭きながら
死んだヤチダモの
干からびた背中の
皮を剥いで喰い、
脂を燃やして
肉を喰い、
屍の舟が
底の底の一枚の皮しか
残らなくなった頃、
ようやくに、
潮に流されて
はるかな
砂の大陸へと
流され着いた。
◇
これが
《涙滴大陸》の
最期の物語であり、
《岩沙の大陸》の人々の
物語の始まりなのだった。
◇
"『 水 の 大 陸 』 … ヤツリーダムの物語 …"へのコメント 0件