『 水 の 大 陸 』 … ヤツリーダムの物語 …

合評会2023年03月応募作品

霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

小説

18,900文字

     ◇

上古にありし神界《センサリティヤ》。
若き神々により創されし四界の始まりと崩壊。その後。

とりのこされた《泥球界》の底を、

這いまわるものたちの、叙事詩。

     ◇

 

 

 

 

1-6.《石の帝国》

 

《竜種》とその養子らを含む
《谷》の血筋の者が大陸各地に散在混住し、

 

その漠然とした権力関係の集合体を
《帝国版図》とみなしていた時代を
《竜の帝国》と尊称し、

 

《白鱗の乱》後の再興時代は
区別し謙譲して
《石の帝国》と呼び、

 

また
《石造大路の都城の帝国》代とも号した。

 

 

 

1-7.その後の《谷》の民

 

焼失した広大な《谷》から避難し、

外の世界へ逃れた一族は、
ごく一部を除いて《森》へ戻ることはなく、

 

生き残ったごくわずかの《竜尾族》と
増え続ける未開の《二つ足》に
生きのびるための叡智と技術を伝え、

 

田地の水源の掘削と管理法や
嵐や地震にも耐える丈夫な家の造りかたを教え、

 

集落と都邑を結ぶ街道群の造営と
石造りの広壮な都市建築と、

それらを管理する機能的で有能な
官僚機構を築いた。

 

 

 

1-8.身分の分割

 

やがて《尾無しの二本足》たちは
ふたつに分かれた。

 

定住し権力を握り、
他族を使役して
驕慢に振る舞うもの達と、

 

流浪して旅を愛し、
技芸と交易をなりわいとして、
自由と平等を
良しとする者たちである。

 

やがて

 

権力を持つ者たちは
持つことを拒否する者たちを
憎むに至り、

 

武力をもって蹴散らし、
これを圧した。

 

二つ足も他族も、
草莽の民は
貧富と階層とに
職能が細かく分かたれ、

 

自由と往来は
制限された。

 

奴隷たちは慟哭しながら

売買され、
鞭打たれ、
殴り殺され、
焼き殺された。

 

 

 

1-9.四民平等

 

やがて小藩都ズードリブルより女の領主が立ち、
女と男の

身分の平等を

宣した。

 

まもなく遼原の火のごとく
自由と富の四民平等を説く
教えが広がった。

 

《救世主》サラ・タイスの世直しが行なわれ、
帝都《石》には新しく
《四民議会》が開かれた。

 

出自によらぬ本人の
選択と努力による

職業と富と婚姻が約定され、

世は潤い、
交易は栄えた。

 

 

1-X 大陸の滅亡

突然、天空に大いなる
《銀闇黒の丸い幻影》が現われた。

 

地の人々はそれを《黒の太陽》と呼び怖れた。

 

その巨大な円盤は、
宙に浮かぶ都市であった。

 

降り来たる人々は、それを
《 光より速い船 》と呼んだ。

 

船人たちは《石の帝国》の男を殺し、
女を犯し、
子どもを産ましめ、
その子を奪った。

 

彼らの《船》にいた女たちが
病により絶滅した故である。

 

帝国の男たちは復讐を挑み、
殺され、

 

女たちは泣き叫び、
ひたすら逃げ惑った。

 

一計を案じて《 光より速く飛ぶ 》に潜りこんだ、
勇敢な子どもらがあった。

 

内部で暴れた。

 

巨大なる円盤の船は

 

傾き…

 

墜ちた。

 

 

大地はありえぬほどに鳴動し、
すべてが炎上し、

 

大穴から熔けた大地が溢れ出し、
すべてのものが焼けて、

 

崩れた。

 

その跡に、
生き残った
わずかな人々の頭上に、

 

はるか天高くそびえる
巨大な津波が
襲い掛かった。

 

その大禍つ波の引いた後、
大地は泥と氷に沈み、

 

はるか山脈よりも高く深く
降り積んだ雪に埋もれた。

 

 

これが《水の仔の島》として産まれ、
増え広がり

 

やがて《涙滴大陸》と呼ばれ、

 

輝かしき《石の帝国》の版図であった、

 

始まりの土地《アタ・ル・アンタイス》の、

 

最期の姿であった。

 

 

2023年3月13日公開 (初出 ( パブー @ デザイン破壊エッグ )他。 

© 2023 霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

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