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1-6.《石の帝国》
《竜種》とその養子らを含む
《谷》の血筋の者が大陸各地に散在混住し、
その漠然とした権力関係の集合体を
《帝国版図》とみなしていた時代を
《竜の帝国》と尊称し、
《白鱗の乱》後の再興時代は
区別し謙譲して
《石の帝国》と呼び、
また
《石造大路の都城の帝国》代とも号した。
1-7.その後の《谷》の民
焼失した広大な《谷》から避難し、
外の世界へ逃れた一族は、
ごく一部を除いて《森》へ戻ることはなく、
生き残ったごくわずかの《竜尾族》と
増え続ける未開の《二つ足》に
生きのびるための叡智と技術を伝え、
田地の水源の掘削と管理法や
嵐や地震にも耐える丈夫な家の造りかたを教え、
集落と都邑を結ぶ街道群の造営と
石造りの広壮な都市建築と、
それらを管理する機能的で有能な
官僚機構を築いた。
1-8.身分の分割
やがて《尾無しの二本足》たちは
ふたつに分かれた。
定住し権力を握り、
他族を使役して
驕慢に振る舞うもの達と、
流浪して旅を愛し、
技芸と交易をなりわいとして、
自由と平等を
良しとする者たちである。
やがて
権力を持つ者たちは
持つことを拒否する者たちを
憎むに至り、
武力をもって蹴散らし、
これを圧した。
二つ足も他族も、
草莽の民は
貧富と階層とに
職能が細かく分かたれ、
自由と往来は
制限された。
奴隷たちは慟哭しながら
売買され、
鞭打たれ、
殴り殺され、
焼き殺された。
1-9.四民平等
やがて小藩都ズードリブルより女の領主が立ち、
女と男の
身分の平等を
宣した。
まもなく遼原の火のごとく
自由と富の四民平等を説く
教えが広がった。
《救世主》サラ・タイスの世直しが行なわれ、
帝都《石》には新しく
《四民議会》が開かれた。
出自によらぬ本人の
選択と努力による
職業と富と婚姻が約定され、
世は潤い、
交易は栄えた。
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1-X 大陸の滅亡
突然、天空に大いなる
《銀闇黒の丸い幻影》が現われた。
地の人々はそれを《黒の太陽》と呼び怖れた。
その巨大な円盤は、
宙に浮かぶ都市であった。
降り来たる人々は、それを
《 光より速い船 》と呼んだ。
船人たちは《石の帝国》の男を殺し、
女を犯し、
子どもを産ましめ、
その子を奪った。
彼らの《船》にいた女たちが
病により絶滅した故である。
帝国の男たちは復讐を挑み、
殺され、
女たちは泣き叫び、
ひたすら逃げ惑った。
一計を案じて《 光より速く飛ぶ 》に潜りこんだ、
勇敢な子どもらがあった。
内部で暴れた。
巨大なる円盤の船は
傾き…
墜ちた。
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大地はありえぬほどに鳴動し、
すべてが炎上し、
大穴から熔けた大地が溢れ出し、
すべてのものが焼けて、
崩れた。
その跡に、
生き残った
わずかな人々の頭上に、
はるか天高くそびえる
巨大な津波が
襲い掛かった。
その大禍つ波の引いた後、
大地は泥と氷に沈み、
はるか山脈よりも高く深く
降り積んだ雪に埋もれた。
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これが《水の仔の島》として産まれ、
増え広がり
やがて《涙滴大陸》と呼ばれ、
輝かしき《石の帝国》の版図であった、
始まりの土地《アタ・ル・アンタイス》の、
最期の姿であった。
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