「ハリガネ男」

消雲堂

小説

937文字

総武線の怪人のひとりです。

僕が夕方の込み合う千葉行きの総武線に乗っていると、少し離れたところから「おい、てめえ、今何て言った!!!」と男の割には甲高い変な声で誰かを威嚇する声が聞こえた。「だから、なんだっつったんだよ!!!」「この野郎、次の駅で降りろ!」どうやら威嚇する側は3人のようだ。威嚇されている方の声は全然聞こえない。彼らの声は聞こえるものの人で溢れた車内では視認できない。

電車が次の駅に到着するようだ。威嚇する声は自分たちより弱いと思える相手を袋叩きにできる高揚感に浸り始めた。「てめぇ、降りたらぶっ殺してやるからな」「覚悟しろよ、てめぇ」「こいつ、ビビッてやがる、ブルブルふるえてやがる」相変わらず威嚇されている相手の声は聞こえない。

やがて電車は駅に到着した。「降りろ!!!」甲高い声が響くとドタバタという彼らの靴音と物がぶつかる音が聞こえた。威嚇されている相手は、なかなか電車から降りようとしないようだ。《そりゃそうだろう…誰だって殴られたくない》一方的な喧嘩騒ぎに関わりたくない乗降客は、彼らのドアを避けて他の出入り口に殺到する。《かなりの人数が乗っていたんだな》乗客が減ると彼らの姿が見えた。僕は彼らの近くにいたらしい。

威嚇する側は、選択して縮んだような窮屈そうなスーツを着た会社員だったが、やはり”それなりの原始的な性質の悪さ”が体中から滲み出ていた。威嚇される側はといえば、濃紺のスーツを着用して頭髪には白髪が混じった初老の男性のようだった。40代か50代だろうか?《ああ、こりゃ殴られるな》と思っていると、初老の男性が「前方3.5メートル、幅1.5メートル」と呟くのが聞こえた。すると初老の男性の全身から細いハリガネのようなモノが無数に飛び出してきた。ハリガネは初老の男性が呟いたように1.5メートルの幅で前方3.5メートルまで伸びたと思うと威嚇していた3人を頭部からつま先まで串刺しにした。串刺しにされた男性たちは「ぎゃっ!」「ぎっ!」「ぶっ!」と奇妙な声をあげてコンクリート製のホームに頭から倒れて頭蓋骨が破裂した。初老の男性から出たハリガネは、あっという間に男性の身体に戻った。

「きゃああああっ!」数人の女性が叫ぶ中を男性は何食わぬ顔でホームの人ごみの中に消えていった。

2014年11月26日公開

© 2014 消雲堂

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