昆虫とセーラー服、女の子。

巣居けけ

小説

2,456文字

熱湯を注入した風船……。消火器とマグナムを自称する柴犬……。弾倉の色……。炒められた卵の残り香……。「待ってくれ……。おれはもう二十七時間も尿を出していないんだ……」

人の言語を話すだけのハンミョウ……。山羊の気持ちを理解しているだけのクジャクチョウ……。女子高生ではなく女子中学生に惹かれるシュレーゲルアオガエル……。富豪のオトシブミ……。そして、スカートの中のアオダイショウの死骸たち。

きな熊が食らっているぞ……」

狩りを得意とするクロヒョウの集団……。水泳選手のような美人の短髪女子……。数学教師が教科書を破きながら自分の哲学への転属を検討しているぞ……。「人生の正解は無限大だけど、不正解が確実にあるんだよなぁ……」

カフェテリア内で山羊の頭の友人達が議論をしている……。
「おれもセーラー服とか着るか……」
「いや……。『おれたちも』、だ……」

そして黒色のココアを啜る。

サフランライスまみれのクリスマス・ツリー……。「まるで目やにだな! ははっ!」心療内科に突撃する木々と、停滞の無い言語テストたち……。「野郎! ストローで吸った物を右の口角から垂れ流してやがるっ!」
「では、コショウ少々お待ちください」と受付係が吐き出しているぞ……。おれは病院の中で陰茎を露出する機会について考えながら診察に呼ばれるのを待つ。

真実の中に臓器を投げる。男たちは寄ってたかって子供を食らい、公園の中心点を探している。「おれは天空の気温を気にすることができる」男の軍団の一人が色彩の中で倒れている。おれは後ろのドアから鼠が出ていくのを見つめながら、風船の破裂する音で十二月を連想して床に伏せる……。
「絵本に向かって走って……」消音器具によって強制されている口元から唾液が垂れている……。
「教育に悪いわ……」と、女将のような物体が喋っている。おれはコートを翻しながら公園へ二度目の出撃をする。

すると村々の中心が公園に置き換わって重力が左右される。おれは錠剤をふんだんに使った色とりどりの小さなカップケーキで夜を明かしてから煙草の白い自動販売機で人を殴る。するとスイッチが入力され、川柳の生きがいという概念のような昆虫の標本の集合体が落下しておれに降り注ぐ。

熱湯を注入した風船……。消火器とマグナムを自称する柴犬……。弾倉の色……。炒められた卵の残り香……。「待ってくれ……。おれはもう二十七時間も尿を出していないんだ……」
「なんだよ。さっさとトイレに行けよ」
「トイレはどこだよ」
「建設現場」と言い切る少年のような物質は指をピンと立てて西の方向を指す。

そしておれは指先で便所を演出して彼の頭を下痢だらけの水で濡らす。「おれは愛犬家なんだよ……」

ランダム・ガソリンの男……。おれは西へと顔を向けてから太陽のありがたさを小学生集団に問う。そして坂に不思議な力が宿ることを狙って撃ち抜き、教師になるための教育の中とピストル・イマジネーションに教壇を与える。
「そろそろコーラでも飲むか……」おれはペットボトルの底にこびりついた焦げたゴキブリのような見た目の砂糖カスを舐めようと舌を伸ばす。そして乾いていく唾液の音や味を脳裡で思い出してから滑り台を下る……。「犬から逃げる? ふふっ。私は愛犬家よ?」
「喫煙?」
「私は煙草に親を殺されたのよ?」
「嘘つけ」

そしてサンドイッチを食らってから、『うんてい』を続ける……。二段飛ばしを軽々とこなす短パンの男子小学生の筋力や腕周辺の全ての筋肉に唾液を擦り付けて実験的観察を続ける。憎々しいゲームが始まる。

やがて、『熱湯が出来上がる』。そしておれは家の中心点を探して公園を思い描く……。さらに教室を二つに区切り、斧と試験管の有用性を実験するための研究室を発足する。反抗的な態度の教師たちをビーカーの糧にする。
「血の表現が無いのが救いだって? ははっ! 御冗談を……」
「おれは血の飛沫がないと興奮できないんだ」

診断に反社会性が認められた男が待合室の焦げ茶色ソファーに深々と腰を下ろし、色彩が歪曲している住処に蟻の死骸を挿入する。

付箋たちはひっきりなしに叫んでいる。「バーガー・キングがあるのに、バーガー・クイーンがないのはおかしい」
「もしあったらどうするんだよ?」
「土下座でもなんでもするさ……」

すると山羊頭の看護婦が飛び込んでくる。
「あのっ、診察室ではお静かにお願いします」

薄桃色の看護婦衣服の女がリボルバーを右手におれたちを叱っている。しかし右手の男は喋りを止めることなく、「おれはキング・バーガーで成功したいんだ……」などと勝手に呟いている。看護婦は銃口を彼に向け、すぐに引き金を押し込む。瞬時に火薬が炸裂する音が響き、銃口から弾丸と火焔が飛び出る。弾丸は彼の右肩に直撃し、そのまま抜けていく。
「おれは女に撃たれて幸福だったよ……」
「私は雄ですが」

男の身体が下から溶けるように消えていった。彼は最後まで穏やかな表情だった。それは老いで死にゆく老人のようで、銃弾で撃たれた痛みなどは無いように思えた。おれは消えてしまった彼の居た位置で放尿をすると、懐から試験管を取り出した。その中には高速で何度も色を変換している液体が入っていた。おれは試験管の先端にはまっているコルクの栓をポンッと抜いた。そして中の液体を看護婦に投げつけた……。
「私の脇は臭くないっ――」

液体は看護婦の胸辺りに掛かった。すると看護婦は身体をかたかたと揺らしながら、先ほどの男のようにすうっと溶けて消えた。

おれは坂の上から夕暮れを眺めてから、百足の脚たちの蠢く音を耳の奥で再生した。すると後方から鉄のボールがやってきた。おれは背中に火傷を負う勢いで鉄のボールを受け止め、そのまま肋骨を伸ばして咀嚼した。

影が消耗品のように驚いている……。細かい生徒たちと残骸の中の布団……。おれの周りで音楽が響いている……。粉のような噴水の学級……。そしてトビズムカデとの抗争……。「大きな熊が吠えているぞ……」彼女は制服のべつの彼女のことを実験的観察の中で致している……。「マシンガンを撃つんだ……。セーラー服の女の子と、マシンガン……」作家気取りの男が鉛筆を舐めながら試験管の中の女子中学生を溺死させている。
「これは芸術である……」

2023年1月2日公開

© 2023 巣居けけ

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