表象の森の狐の小学校

加羅戸麻矢

小説

1,525文字

現実世界での近年の小学校の先生は、いじめ問題やらモンスターPやら体罰懲戒やら時間外残業やらで大変そうです。
以下の話は表象の森の狐の小学校の話で、現実世界に当てはめると、一昔前の昭和の時代や平成初期の時代のような感じかもしれません。

表象の森の狐の小学校      加羅戸麻矢
(その1:英語の授業)

 

表象の森の狐の小学校で授業が行われました。
近年のグローバル化に伴い英語の授業です。
授業開始時間ジャストに狐の石部金吉先生が現れました。

 

『今日みんなはちゃんと辞書持ってきたかな、
ちゃんと紙に書いて渡した指定辞書の「ランダムハウス英和大辞典」だぞ。
重たくて持ってこれなかった子やリーダーズとか他の辞書や電子辞書でも今日は特別に許すから、先生に言いなさい。』

そして金吉先生は自信満々で勢い良く言いました。

 

『では今日の英語の授業を始めよう。
今日は最初に人生という意味が入った「コース」という英単語を覚えるぞ。
金時君、この英単語のアルファベットのつづりは分かるかな。』

 

狐の金時君は元気な声で答えました。
「はい分かります「curse」です。」

 

※実はその日の朝、金吉先生が家を出る直前に玄関に奥さんが靴をきちんと並べておかなかったので、ものすごい怒鳴り声を奥さんに浴びせ続けたため、喉が枯れて学校に来てもしゃべり声が上ずりっぱなしだったのです。
それで金吉先生の「コース」の発音も「カース」に近くなっていたわけです。

 

それを聞いて金吉先生はいきなり顔を真っ赤にしながら言いました。
それまでも金時君の金吉先生を見る白けた目に内心むかついていたので、急に怒りのイグニッションが点化してしまったのです。
そういうわけで思わず『金時!、それはとんでもない間違いだ!そんな間違えはあってはならない!』と怒鳴り付けたのです。

 

そこで金時君は「うっかりしてました、そのつづりは「呪い」という意味でした。
正しくは「course」でした、でも先生「人生は呪いだ」という言葉もありますし。」と答えました。

 

金吉先生は、この小癪な小僧はひょっとして例の奴かもしれない、と心の中で思い、
眉毛に唾をつけてもう一度金時君をじっくり見ましたが、どうも狸の類では無いことが判りました。

そして”こいつガキのくせに生意気なことを言いやがって”と心の中で呟きましたが、周りの子狐たちの手前もあって「言い間違いはよくあることだから、今後気をつけるように」と冷静さを装いながら説教しました。

 

すると金時君は、「先生すみませんでした、いろいろ人生送ってると言い間違いもあるし、見間違えもあるかもしれません、でも呪われてるから人生の輪廻を永劫に繰り返すということを聞いたことがあります。」と言って謝りました。

 

金吉先生は『見間違えとは何のことだ、ここぞとばかりに今の話と関係ないことまで言って。』
と半ばムキになって金時君に言うと、

金時君は「先生の肩越しに金兜が見えます、これも見間違いでしょうか。」と言い返しました。

それを聞いた金吉先生は、つい先日鬼籍に入ったばっかりの父親狐に言われた言葉を思い出したのです。
それは、確かご先祖さまに落武者がいて悲惨な最期を遂げたという話でした。
そしていきなり頭の中で妙な考えが浮かびました、”それは輪廻の呪いに関係するかも、ひょっとして自分の最期も悲惨なのかもしれない”という漠然とした不安でした。

そんなこんなで、その晩、金吉先生はなぜかなかなか寝付けませんでした。
結局明け方まで今回の授業中に浮かんだ不安が頭から離れず棲み着いてしまい、その晩一睡もできなかったので翌日は初めて有給休暇をやむなく取ったのです。
そして、神社に行ってお祓いするか、祈祷寺に行って厄除けしてもらおうか、ということをその日からずっと考え迷い続けて、結局何日たっても頭から離れず、金吉先生は到頭しばらく学校を休職することになってしまいました。

2022年12月26日公開

© 2022 加羅戸麻矢

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