ある日、妻が帰宅すると財布から1万円札を3枚取り出して見せた。「お、大金じゃん、どうしたの?」「半年前にさ、道で拾った3万円を交番に届けたって言ったじゃん」「あ、そうだっけ?」「さっき、交番の前を通ったら吉田さんに呼び止められてさ…」吉田というのは交番の警官の名前で妻の幼馴染でもある。「落とし主が現われなかったからアタシのものになったんだってさ」「へぇ~ラッキー!」「ふへへへ」僕は「ちょっと待って、面白いことをしよう」と言いながら妻にも秘密にしていた押入れに隠していた小型プリンタを取り出して来た。「ちょっと1万円札1枚ちょうだい」「え、何に使うの?プラモデルなんか買ったらしょうちしないよ」「違うよ、ちょっと見ててみ」と、妻の手から1万円札を1枚つまんで秘密プリンタにセットした。「何すんの?それにそのプリンタ見たことないね、買ったの?」と妻が怪訝な表情を見せた。僕は「ある人から貰ったのさ、まぁ見てなよ」と言いながらプリンタのスイッチを押した。プリンタはウィンウィンと軽快な音をたてて動き出すと1万円札を1枚吐き出した。「あれ?さっきの1万円札が出てきただけじゃない、何な…」と妻が言いかけると、さらに1万円札が次々に出てくる。「何やってんの?お札はコピーできないようになってるはずなのに…」「むふふふふ、プリンタから出てきた1万円札を見てみな」「ん?どれどれ…わ、裏も印刷されてる…本物みたいじゃん、偽札はダメだよ」「偽札ならダメさ、でも、これは偽札じゃないよ」「え、どういうこと?」「これはね本物の紙幣を元に何枚でも本物の紙幣を作れるプリンタなんだよ」「…」「紙幣クローンってのかな? だから元の1万円の番号と同じものしかできない、ただし、これは偽札じゃない、紙質から使われているインキやその他の素材もすべて同じものができるから正真正銘の本物の1万円ってわけさ」「嘘だ、なんでそんなものを作れるプリンタを、あんたが持ってるのよ?」「ふふふ、内緒だよ」「それに本物だとしても同じ番号なんだから使えないじゃん」「そんなことないよ、誰が同じ素材インキでさ、ただし番号だけ同じだっていう万札を、本モノと偽モノだってわかると思う?それにこんなプリンタを作れる人間なんていないんだからさ、たとえ同じ番号の1万円札を使ったとしても罪にはならないんだよ」「…」そうこうしているうちに、あっという間にプリンタは100枚の1万円札を吐き出して止まった。「それじゃ、他の2枚もやっちゃおうか、今日は100枚ずつ300万円作っちゃおうぜ。プリンタには無限の紙幣材料がセットされているから、もう働かなくてもいいよ」妻は驚いた顔で紙幣を見つめていた。
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