溶けちゃった

山本ハイジ

小説

3,582文字

性癖です。それだけです。♡喘ぎが流行っているようなので試してみました。

 仕事から帰ってきたら、同棲している恋人のアユタが溶けていた。
「みぃ、みぃー……」
 室内の明かりを受けて艶めくピンク色のスライム。つぶらな目を向けて切なくなるような小動物みたいな鳴き声をあげている。
「えーーっと……?」
 すぐにこれは恋人だと察せたのはまあ、愛の力だ。あと恋人は髪を真っピンクに染めていた。
 アユタのそばで開かれているノートパソコンの画面に表示されているサイトにふと気づく。
『何でも願望を叶えるおまじない☆彡』
 なるほどな……?
 アユタの下、絨毯にシミができてしまっている。キッチンへ行きアイスクリームなどのデザートを盛るグラスを取ってきて、アユタにグラスを近寄せる。
「みぃ」
 つるりとアユタはグラスの中に入った。ふるふる震える桃のゼリーみたいでおいしそうだ。
 グラスをベッドサイドに置き、スーツからスエットに着替えてとりあえず寝ることにした。深夜まで仕事をしていて疲れているし、これはもしかしたら夢であり起きたら元通りになっているかもしれない。
「おやすみ、アユタ」
「みぃ」

 

 

 ゲイ向けのマッチングアプリで知り合ったアユタはゴミカスダメ人間だった。
「えっと、俺フリーターだよ……へへっ」
 カフェで真っピンクの頭を掻きながらアユタはそう言っていたのに、まもなくしてニートであることがわかった。頭を掻く際、手首にびっしりとリストカットの痕があるのも見えた。
 私の理想のタイプだった。
「君は何もしなくていいから、私の家においで」
 アユタは喜んで私の家に転がり込み、同棲生活がスタートした。

 

「……んぁ、お帰りぃーピ」
 仕事から帰ってくると、アユタはだいたいラリっていた。床に転がっている市販の咳止め薬やシロップの風邪薬の瓶。
「ただいま、相変わらずだな」
 絨毯に寝転がって焦点の合わない目を向けてくるアユタに覆い被さってキスをして、着ているジャージを脱がした。
「んンッ……んんっ」
 アユタが甘く喘ぐ。運動不足のせいでやや脂肪のついた二の腕や脇腹や尻のむちむちした感触を楽しんだ。
「アユタ可愛い、可愛いよ……」
 私のオナホになれるくらいしか存在意義のないアユタ。可愛い。たっぷり前戯をして、四つ這いにさせて腰を掴むとスラックスから取り出したペニスを縦に割れたアナルに挿入した。
「ひゃあっ、ぁ、あっ♡」
「アユタのお尻まんこ、気持ちいい。締まりがなくて、とりあえず何か挿れたらすぐ感じるだらしないお尻まんこ、気持ちいいよっ……」
「ぅん、何にもできない俺だけどっ、ピのちんちん気持ちよくさせることはできてて嬉しいっ……♡‎ あっ、イクッ!♡♡」
 パンパンと腰を打ちつけながら手を前にやり、柔らかい胸を撫でたり腫れた乳首についているピアスをつまんで引っ張ったりするとアユタは小さいペニスからぴょるっと精液を吐き出した。
「あっ、イッてるのにそんな突いたりグリグリしちゃヤッ……♡‎ うっ、おぇぇぇっ……!」
 ついで、アユタは嘔吐した。オーバードーズが作用したのであろう。絨毯にびちゃびちゃとほぼ胃液のみの嘔吐物を吐き出しながらナカを収縮させる。その収縮に搾られ私は射精した。
「ぁっ……ナカにピの精子ぃ、うれしっ……♡」
 その後、汚れた絨毯をウエットティッシュでできる限り綺麗にしたり、アユタのナカから精液を掻き出して拭いてやったりした。
 素面になったアユタが私に全裸で土下座する。
「ごめんなさいぃぃ……」
「うん、いいよ」
 いつものことだった。
 それから一緒にシャワーを浴びて、互いに裸のままベッドに入った。
「あー……何で生きてんだろ」
 感情の起伏が激しいアユタを抱きしめ、後頭部を撫でてやる。
「私のためにだろう?」
「うん……なんかもう人間力0になってピに何もかも委ねたいー……」

 

 

「もう十分に叶ってたじゃないかその願望……」
 自らの寝言と股間に覚えた違和感で目が覚めた。まだ明け方くらいの薄暗さ。布団をまくる。
「みぃ」
 アユタが布団と私のスエットを濡らしつつ股間の上にいた。
 夢じゃなかった……。
「何してるんだい?」
「みぃ、みぃー」
 つぶらな目で私を見つめながらアユタはゆるゆる、ふるふると上下に動く。時折きゅっと締まりゴムのような硬さを帯びて、スエット越しに朝勃ちしているペニスを包んでくる。
 ペニスがむずむずしてくる。スエットを下着ごと下ろした。
「みいっ……」
 一緒に下がったアユタは這い上がり、私の肌に触れた。ぬるぬるしていて生温かい。そのまま露出したペニスに絡みついてくる。
「うっ……」
 これは、なかなか……。
「みぃっ、みぃっ」
 柔らかい、ぬるぬるした感触に全体を包まれつつ先端はきゅっと締められて上下される。気持ちいい。ふと私のペニスを一生懸命吸いながらピンクの唇で扱く人間だったアユタを思い出す。
「みぃー……」
 ミルクをねだる仔猫のような鳴き声をあげて、アユタは上下運動を速める。
「っっ……!」
 張りつめたペニスはスライムの体で特に強く先端を締めつけられて、そのまま吸いつかれるような感覚を覚えた瞬間限界を迎えた。
「みぃっ……♡」
 脈打って吐き出した精液が透き通ったピンクの体を白く濁す。アユタは達したかのようにふるふる震え、それからすぐに白濁は消えた。
 吸収された?
「アユタも気持ちよかったかい? ……というよりおいしかった?」
「みぃみぃ」
 目を細めアユタは満足気な鳴き声をあげた。
 そういえばスライムは何を食べて生きるのであろう? ……精液でいいのか?
 私の精液をご飯にしながらふるふる、ぷるぷるしているしかない生き物――
「最高かよ……」

 

 

 子供の頃、自由研究でカイコを飼った。
 人間が美しい糸を採取するために改良を重ねた結果、野生では生きられなくなった昆虫。
 餌が数十センチでも離れていたら食べに行けず飢え死にする、か弱すぎる生き物。私が近くに寄せてやる桑の葉を食べて生き、白くてすべすべした幼虫はそのうち綺麗な繭に包まれ、糸を採取する目的はなかったから置いておいたら羽化した。
 ぽってりしたフォルムにもふもふした白い体毛につぶらな黒い目の愛くるしい蛾は、翅と口が退化しており飛ぶことも食べることもできない。餌になりそうなものを一生懸命寄せてみてもむなしく、飛べない天使は一週間ほどで死んでしまった。
 その経験は私の性癖に多大なる影響を及ぼしたと思う。

 

 二度寝して起きて、シャワーを浴びてスーツに着替え身支度をする。
「みぃ」
 仕事へ行く直前、グラスからうるうるした目を向けてくるアユタを見て思いつき、キッチンからちょうどいい空き瓶を取ってきてアユタに近づけた。
「みぃっ」
 嬉しげな鳴き声をあげて、つるりとアユタは瓶の中へ入る。蓋をしめ、カバンの中に瓶を入れて家を出た。
 仕事中、アユタは寝ているかアニメ観ているかネットしているかラリっているかだった。たまに「ピ、はやく帰ってこないかなぁー……」と膝を抱えて独り言ちながら。ペット用カメラを部屋に置いているから知っている。
 休憩中にその様子を眺めて癒やされてはいたがかわいそうにも感じていた。これならどこにでも持ち運べる。
 車で三十分ほどで職場に着き、仕事がはじまった。
「うぉおいっ! コレさっさとやっとけって言っただろダァホ!! あ、まるちゃんはいいからねぇー♡」
 いつも通り上司のオニギリ(陰で呼ばれているあだ名だ)の怒鳴り声と、可愛い女子社員に対する猫撫で声が響く。
 このオニギリの怒声と女子社員ひいきと自分の仕事を部下に丸投げしてくるところと自分の失敗を部下のせいにしてくるところで、次々と人が辞めていき人手不足の現状だった。激務の合間にカバン越しにアユタの入った瓶を撫でてストレスをやわらげる。
 ようやく昼休憩に入り、コンビニで買ったパンを早食いし煙草を一服してから瓶を隠し持つようにして職場のトイレへ走った。
 個室に入り、瓶の蓋をあける。
「みぃー」
「お腹すいたよな、アユタ」
 ペニスを取り出して瓶の中に突っ込んだ。
「みぃっ♡♡」
 私のペニスがピンク色のスライムの体を貫き、アユタは挿入の快感に鳴いた。快感を覚えているはずだと愛の力でわかる。
「っっ……ぐちゃぐちゃぐちょぐちょでイイよ、アユタ」
 思った通り、これはいい感じのオナホになる。ものすごく大事なオナホだ。
 ぐちゃぐちゃと濡れた卑猥な音を立ててアユタを攪拌する。ペニスにまとわりつくスライムがきゅっと締まり、絶頂に達したアナルのようにヒクつく。
「みぃっ♡‎ みぃぃっ♡」
「出すぞっ、アユタ……!」
 アユタにご飯を与えた。白とピンクが混ざりあった瓶からペニスを抜き、アユタにガラス越しに口づけをする。
「お腹いっぱいになったかい? アユタ」
「みぃっ……♡」
「これからどこに行くのにも携帯してやるからな」
「みぃっ」
 アユタが目を幸せそうに笑わせる。
 私たちの新しいラブラブ生活はこれからだ。

2022年12月2日公開

© 2022 山本ハイジ

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