心の穴

持野キナ子

小説

2,125文字

クリボッチの男子大学生はテレクラで恋人を作れるのか?

アホ下ネタ小説❗️

「クリスマスは一緒にいる約束だったのに」
僕は鍋の材料が載った机を手で叩いた。竹輪が1本、机上に転がる。二人にとって大好物な竹輪。
「ごめんな一君、クリスマスに仕事入って……そのかわりこれで美味しい物食べてや」
先輩は申し訳なさそうに、3万円を手渡し、僕を強く抱きしめて外出する。クリスマスでサンタやから、3万ってか、ってやかましいわ!
彼は高校時代の先輩で、大学生の今は二人でルームシェアをしている。優しいが、気紛れな一面がある。
僕はため息をつくと、鍋の材料を冷蔵庫に入れて、寝転びTVをつける。ニュースでは、幸せそうなカップルの映像が流れている。今日はクリスマスだもんな。途端に虚しくなる。空虚な穴が心に空く。僕にも恋人がいたらな……。そうやって妄想をしていると、股間に熱を感じる。ふと下半身を見ると、そこには小さなピサの斜塔が建っていた。若者の精力は、止まることを知らない。仮に精力で電気が作れるならば、原発問題も解決するかもしれない。
それにしても、こっちの相棒は正直だなあ。まるで、今にも「ワイ、FUCKしたいねん」と叫びそうだ。僕はムラムラしたので自己を慰めようとした。だが、そこで名案が閃いた。
「そうだ、恋人がいないなら、探しに行けばいいんだ。きっとクリぼっちもいるはずだ」
僕は自転車に乗り、イルミネーションで煌々と輝く夜の街へと出かけた。到着した場所はテレクラだった。繁華街の路地裏に店をかまえており、ボロボロの看板が哀愁を感じさせる。テレクラを選んだ理由は、恐らく利用者が減少しているので、本心から出会いを求めているコアな男女が集うと思ったからである。
「いらっしゃいませ―」
僕が入店すると、ボサボサ頭で無精髭の店員が挨拶する。システムの説明を受ける。数千円で相手に電話を掛け放題で、お互いが合意して会う約束が決まれば退店するという流れだそうだ。
案内された個室ブースには、固定電話と椅子と張り紙があった。張り紙にはこう書かれていた。
【AV女優からの電話や、幻の勃起薬の販売は詐欺です】
悪い人もいるんだな、と思い椅子に座り受話器を取る。唐突にファンシーなメロディが鳴り相手が出る。
「おい、鬼太郎、エロイムエッサイム!」
思わず受話器を置く。何だ、今のは……。酔っ払いか? そう思いながら再び受話器を取ると、違う相手がでる。
「もしもし、私ね、今は割り切りの相手を探してるの」
「あへあ! 割り切りって何ですか?」
「援助交際のことよ、目的違いかな?」
途端に電話が切れた。その後も、僕は根気よく電話を続けたが、奇声をあげ続ける者や、援助交際の誘いばかりだった。股間を膨らませながら純粋な恋愛相手を欲している僕は、受話器の向こう側に対して不信感を持ち始めた、ひょっとして、テレクラにはこういう人達しかいないのかな。そろそろ最後の電話にしようかなと思い、受話器を取ると着信があった。
「夜分遅くに失礼します、私は藍です」
「はい、こちらこそ」
「若いね、学生かな、テレクラは初?」
「はい、初で童貞です、恋人探しです」
僕は恋人を欲して来たが、援助交際ばかりであることや、毎日が寂しいことなどを話した。藍さんは丁寧に話を聴いてくれる。彼女は聞き上手で、僕に同情してくれた。会話していて楽しかった。数十分話してから彼女がこう切り出した。
「ところで恋人が欲しいなら紹介できるよ」
「えっ、本当ですか?」
「私は会社経営をしてるの。でも従業員の子で金に困っているから、夜職で働きたい子が稀にいるの。その子達は全員が優しくて、育ちの良い子達なの。そんな良い子を私は恋人として紹介しているの、お願い、信じて」
藍さんが言うには、最初に契約料を払い、何度か会えば自分の恋人になるというのだ。僕は下半身を抑えながら、彼女に携帯番号を教えた。彼女から指定されたため、タクシーに乗って、数駅ほど離れた駅で降りた。すると電話が来た。公衆電話からだった。
「一君、駅前のマンションにある5番ポスト内に、財布内の金を全部いれて。手渡しは見られたらまずいの」
僕は躊躇なく全財産を入れた。これで恋人ができるんだ! 数分してすぐに電話がくる。
「お金は入れられたかな。じゃあ国道の方に歩いてきて。すぐに女の子が案内するから」
僕は国道へと歩く。だが歩いても女の子は来ないし、電話も一向にない。数時間ほど待って僕はポストを覗く。中は空だった。僕はイチモツと共に、ヘナヘナとなる。騙されたのか、なんて愚かなんだ……。金がないので徒歩で深夜に帰宅した。喉が渇いたので冷蔵庫を開ける。そこには大量の竹輪があった。僕は竹輪の穴を凝視する。深くて小さな穴。興奮した僕は下衣を脱ぎ、イチモツを挿入しようとした……その時だった。
「ただいま……って、一君、何してるん!」
先輩が帰ってきた。池の鯉のように口をパクパクさせている。僕はテレクラでの出来事を話した。怒られると思ったが、先輩は泣きながら、僕を抱きしめ語る。可哀そうになあ、俺の温もりで良ければプレゼントや。女性と思ったらええわ。二人して裸で抱き合った。だが、童貞の二人は次第に興奮して、熱いキスをして……消灯をし……そして……。
数日後、僕には先輩という名の、素敵な恋人ができた。

2022年10月14日公開

© 2022 持野キナ子

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