明けた後の下品。

巣居けけ

小説

3,908文字

一体、何が去って行ったというんだ? それとも空が、新しい白濁で埋まったというのか? あの小ぶりの山を登っていると、狐の色をした肌を持つ男に出会うことがある。彼は二つに結んだ頭髪で登山家を誘い、肉で作られた楽園をごちそうするはずだ。

何ということだ!

ツインテールの君の、桃色スカートの下から顔を出したのは、れっきとした雄臭い『もっこり』じゃあないかっ!

これは紛れもない『もっこり』だっ! 誇り高き『もっこり』だっ! 女の子専用の真白いパンツで覆い隠されているけれど、その『もっこり』の膨らんだいやらしい形状は、これっぽちも誤魔化せていないぞ! 君のスカートの下、純白の股座には、確かに素晴らしい『もっこり』があったんだ!

ほれ、先端の方、ぷっくり膨らんだその頂点を、私の指でチョイと突いてやれば、それに反応して両肩がビクッと跳ねているぞ! よく見ると、頬も赤らめてるではないか! どうした、息も上がっているではないか! おや、真白いパンツも、湿っているではないか!

どれ、もっとよく観察するために、とりあえず奥の専用個室に行くとするか! 大丈夫! 大丈夫だ! あそこは窓なんて一つも付いてないし、四方が防音壁。さらに唯一の出入り口は、私の親指の指紋でしか開かない。システムは軍事施設と同等か、それ以上にしっかりしてる。これは君の『もっこり』を守るための設備だ! 君の『もっこり』を堪能するための設備だ! 私以外の他人が、この素晴らしき『もっこり』と、その先の真実や少しだけ汗臭い楽園を目撃することは絶対に無いっ!

さあ、二人きりのお話をしようぞ! さあ、行くぞ! 『もっこり』の楽園へ!
「でも『おっぱい』と『でっかい』で韻が踏めるのって、きっと運命だよな」桃色のワンピースを着た可憐な少年は、医学者の小太りな男の腕に口づけをした。すると男は釣り上げられた魚のように、白い廊下のあちこちに跳ね回った後に、毛むくじゃらな両手で少年の両肩を掴み、よだれで光沢を得た顔面を近づけた。

へへっ! もうね、こっちの大勃起ノコの準備ってやつはね、出来上がってるんですよね。ほら、さっさとその薄い布を脱ぎ捨てて、こちらに艶めかしい腰振りをしてくださいよ。さすれば僕のね、この大勃起ノコで、ちょいちょいと突付いてやりますよ。ええ。君の小さな腸の肉の扉を突付いて、その先の楽園をね、僕の白濁で汚して差し上げますからね。
「でも僕は叔母さんと性交するけど」少年は男の鼻の先端に舌を這わせた。膣が破裂する音が響き、男が内側から砕け散った。

陸軍のような熱気の中で、性別を縦横無尽に駆け巡る砂漠の旅行人と、乱射事件の後の郵便局で一夜を過ごした個別指導専門の社会学者。彼らは名誉で構成されている百坪の大学で面識を果たし、どういう女がどういう銃を扱っているのが最もいやらしいかを議論した。

黄色のプラスチックの椅子で作られたカフェテリアでは、専属のカレーライス製造師があくびを垂れながら新聞紙を山羊に与えていた。山羊は胡乱な黒色の瞳で製造師の瘡蓋だらけの顔を見つめながら、得意の新聞紙舐めで全ての面に阿片の効能を付与していた。
「二つのアナルで、どうなると思う?」旅行人はココアに珈琲豆を入れている。女児の指をマドラー代わりにしゃぶっている。「あぁなるか? どうなるか?」
「ええ?」社会学者の唾が旅行人の湯呑に入り、ココアが虹色の油を浮かばせた。「つまり、どういうことなの?」

二人は一斉に、猫のような伸びをした。カフェテリアの天井が一メートルほど上がると同時に、すぐ上に大教室が崩壊を始めた。
「二つのアナル……。アナルが二つあると、どうなると思う?」
「えっと……。目玉焼きの子孫と、家系図の正しい使用用途についての談義ですよね? 私たちは人参の中の市街地で発生した、大気圏の香りの無煙火薬についての資料を求めているはずですが」

旅行者は香水専門店で売り物を嗜むセレブのような、細く卑しい目つきを作った。
「アナルが二つで……。ダブル」ココア珈琲が入った湯呑を口に触れさせて、中の黒色液体を舐めるように飲んだ後、河馬のような目で旅行人を睨む。「……ダブル」

生粋の旅行人である田鯛称瀬は、全裸四つん這いで茶色い歩道を進み始めた。後方には、すでにコンクリートの残骸になっている大学があった。左右の深緑色の街灯が等間隔でどこまでも続いている歩道は、新設された薬局の裏口を突き刺すようにしている。歩道を舐めた山羊や、山羊が操作をしているトラクターを、薬局の最奥地に佇む医学関係者に死体を犯すことを提案している。
「すまない。男性器は専門外なんだ」眼鏡を押し上げるふりだけで、三年間の研修期間をやり過ごす。
「でも僕は叔母さんと性交するけど」

社会学者はそれでも田鯛称瀬にまたがった。そして彼の頭部に収納されている黒色の鞭を引っ張り出すと、持ち手に付いている脳を舐め取った後に、自身の頭の上で勢い良く回転させて、田鯛称瀬の尻を叩いた。

肌や肉が弾ける音が鳴ると同時に、粘着性の高い唾を口角から垂らしている田鯛称瀬は、ひどく学術的な語り口を演出し始めた。
「ええとね。『シュレディンガーの性器』と言ってね。実際に確認するまで、相手のお股にちんちんが付いているのか、はたまた付いていないのかを決めつけてはいけない。という言い伝えがあんだよね」
「例のもっこり教授は、そこで失敗してしまったの?」
「彼は男尊女卑だったから」弁当屋の真似をしている。

社会学者がもう一度田鯛称瀬の尻を叩いた。牛のような悲鳴が響き、鼻孔から噴き出た鮮血が白タイルの床を汚した。

壊れたレコードのように何度も「男尊女卑、男尊女卑、男尊女卑」と連呼している田鯛称瀬。

社会学者の彼は、それでも田鯛称瀬に全速前進を促した。

そして彼らはいつでも、最終目的地に浴衣の専門店を設定していた。ほどの良い自然が残されている街の中央に位置する巨大な商店街の中で、五つ目の店舗として君臨している着物の店は今日も閉店で、すでに三日も開かれていない白いシャッターには、他の店の主人や街の小学生たちからの罵詈雑言が書かれた紙が大量に貼り付けられていた。
「えへへ。ふふっ。このつるつるマンコ、本当につるつるだあ」

着物屋の店主、くたびれた輪ゴムのような声の三平は、店の地下室にて、女の股を見下ろしていた。
「なあ、おらの自慢のゆで卵と、どっちがよりつるつるだと思う?」

橙色の光を放つ電球が照らす中、三平は紺の巾着に片手を突っ込み、親指、人差し指、中指で丁寧に摘まんだゆで卵を取り出すと、それを目の前の大きな木製机に寝かせた全裸女の、左右対称の完璧なМ字開脚の中心、赤黒い女性器に近づけた。
「なあなあ、オラのゆで卵も、いい具合のつるつるじゃろう?」

すでにびしょびしょになっている少女の性器は上物の生肉のような色で、光沢を放っているが、三平の純白のゆで卵も負けてはいなかった。最新の豆電球のような純白は天井の光を反射し、輝かしさを知らしめていた。
「さて、お前さんのつるつるマンコと、どっちがよりつるつるなのかのう」

三平は二つのつるつるを至近距離で交互に見比べる。天に掲げたゆで卵を三秒ほど見上げると、次に少女の性器に鼻の先端が触れてしまうほどに顔を近づけて、五秒間見つめる。それを高速で繰り返し、「つるつるは、どっちかのう。つるつるは、どっちかのう」と囁き続けた。
「おいっ! 三平は居るかっ! サボり魔ではげの、三平だっ!」

すると天井の向こう側から声が聞こえてきた。それは完全に閉め切っているシャッターの前での怒鳴り声だった。三平は「まずい、まずい」とゆで卵を三秒で完食し、女の性器を覆う粘液を一度だけ舐めると女の顔に痰を吐き、一階へと通じている階段を大慌てで駆け上がった。

シャッターを叩いている音が、三平の貧弱な鼓膜を震わせていた。今にも倒れてしまいそうなほどに揺れ動いているシャッターに近づいた三平は、相手になるべく弱そうな印象を与えることができるようなぺらぺらの声を出した。
「す、すいやせえん。実は一週間ほど前から、どうにも腰の調子が悪くてねえ……。もうしばらく、ほんのしばらく、また、お休みしますう」

シャッターを叩く音が消えた。それにより、顔すら見ていない客がもう帰ったものだと思い込んだ三平は、その後のひときわ強いシャッター打撃音で尻もちをついてしまった。
「注文の受付はできるだろう?」
「へいっ! できやすっ! できますうっ!」
「だろうな。よし、よく聞け。おれは大抵、温かい風呂が出来上がるのを待つ間は、借り物ではない小さな本を読むんだ。見染めた小説をぱらぱらとめくり、細かい文に脳の全てをぶつけるんだ。そうして過ごすと、いつの間にか、湯舟から甲高い音が鳴る。おれはすぐに読んでいた本をぱたんと閉じて布団に放り投げてから、体拭き用の大きくてぱりぱりとした青い布を持って、颯爽と風呂場に向かうんだ。な? 正真正銘の文学だろ? そして注文とは、一週間後、必ず赤い着物をこしらえろ」

もう一度強烈なシャッター打撃音が、店内と三平を震えさせた。
「これは急用なんだ。この街でましな着物を作れるのはお前しかいない。必ず」
「へ、へいっ! 頑張りやす……」

土間の地面に萎れた花のように崩れている三平は、その日の夜、本当に腰を痛めてしまったことに気が付いた。
「もう! ぼく勃たなくなっちゃった! でてこなくなっちゃった! 性交できなくなっちゃった!」
「もう! 女がどっかイッちゃった! 白目をむいて消えちゃった! お義母さんが全裸で駆けてきた!」

角膜の太鼓が、校庭の中心で亀甲縛りの犠牲になった女児の股を濡らしている……。巨人の足音のような重低音は砂の煙を発生させ、女児のまだ健在だった鼻孔をくすぐった。

女児のくしゃみの振動が、彼女の身体を二つに分裂させた。全ての骨が粉砕した彼女は、釣り上げられた蛸のように、自身を縛っていた白いロープと共に、地面に崩れ落ちた。

2022年4月19日公開

© 2022 巣居けけ

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